ヘルパーはどこまで薬に触れてよいか——服薬介助と医行為の境界を薬剤師・弁護士が整理する

介護事業者向け

介護職員が利用者の薬に触れる場面は毎日あります。しかし、どこまでが介護職員に許された「介助」で、どこからが医師・看護師・薬剤師にしか許されない「医行為」なのか。現場では曖昧なまま運用されていることが少なくありません。曖昧さは、誤薬事故が起きたときに、責任の所在を不明確にします。

筆者は弁護士であると同時に薬剤師です。薬局で7年、調剤と服薬指導に携わりました。その経験から見ると、介護現場の服薬介助には、法的に問題のない運用と、危うい運用が混在しています。この記事では、境界線を条文と通知で示し、現場でよく見る危うい運用を挙げ、誤薬事故が起きたときの責任構造を整理します。

この記事の内容

1. 原則——医行為は医師でなければ行えない

医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めています。ここでいう医業とは、医行為を反復継続する意思をもって行うことであり、医行為とは、医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為です。

薬の使用に関する行為も、原則としてこの枠内にあります。ただし、すべてが医行為ではありません。どこまでが医行為でないかを示したのが、厚生労働省の通知です。

2. 平成17年通知——医行為ではないと考えられる行為

平成17年7月26日付け医政発第0726005号厚生労働省医政局長通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」は、介護現場等において判断に疑義が生じることの多い行為のうち、原則として医行為ではないと考えられるものを別紙に列挙しました。

薬に関する部分は、次のとおりです。

患者の状態が以下の3条件を満たしていることを医師、歯科医師又は看護職員が確認し、これらの免許を有しない者による医薬品の使用の介助ができることを本人又は家族に伝えている場合に、事前の本人又は家族の具体的な依頼に基づき、医師の処方を受け、あらかじめ薬袋等により患者ごとに区分し授与された医薬品について、医師又は歯科医師の処方及び薬剤師の服薬指導の上、看護職員の保健指導・助言を遵守した医薬品の使用を介助すること。

具体的には、皮膚への軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く。)、皮膚への湿布の貼付、点眼薬の点眼、一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)、肛門からの坐薬挿入又は鼻腔粘膜への薬剤噴霧を介助すること。

医政発第0726005号(平成17年7月26日)別紙

3条件

通知が求める患者側の3条件は、次のとおりです。

  1. 患者が入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること
  2. 副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師または看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと
  3. 内用薬については誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血の可能性など、当該医薬品の使用の方法そのものについて医師、歯科医師または看護職員による専門的な配慮が必要な場合ではないこと

この3条件を「医師、歯科医師又は看護職員が確認し」ていることが前提です。介護職員が自ら判断して介助してよいわけではありません。

令和4年通知による追加整理

令和4年12月1日付け医政発1201第4号は、平成17年通知に記載のない行為のうち介護現場で実施されることが多いものについて、医行為ではないと考えられる行為を追加的に整理しています。平成17年通知と併せて読む必要があります。

3. 「一包化された内用薬」——ここが境界線

通知が介助の対象として挙げているのは「一包化された内用薬」です。ここに、現場で最も誤解されている境界があります。

PTPシートからの取り出し

PTPシート(錠剤が一つずつアルミとプラスチックで包まれたもの)から錠剤を取り出す行為は、通知の「一包化された内用薬の内服の介助」には含まれません。どの薬をいくつ取り出すかの判断が介在するからです。複数の薬をPTPシートから取り出して利用者に渡す行為は、実質的に調剤に近づき、医行為との境界が曖昧になります。

正しい運用は、処方医に一包化の指示を求め、調剤薬局で一包化された状態で受け取ることです。一包化は処方医の指示があれば保険調剤で対応でき、薬剤師が服用時点ごとに薬を分包します。介護職員は、その袋を開けて服用を介助する。この形であれば、通知の範囲内です。

半錠・粉砕

錠剤を半分に割る、粉砕して飲みやすくする。これは調剤行為であり、介護職員が行うことはできません。嚥下困難で錠剤が飲めない場合は、処方医に相談し、薬剤師が調剤の段階で対応します(粉砕、剤形変更、簡易懸濁法など)。現場で介護職員が割ったり砕いたりする運用は、法的にも薬学的にも危ういものです。薬によっては、粉砕すると効果が変わる、あるいは危険が生じるものがあります。

4. 残薬——誰の責任で、どこまで踏み込めるか

利用者宅に残薬が溜まっている。飲み忘れか、意図的な中断か、処方が多いのか。介護職員はこれを日常的に目にします。

介護職員ができるのは、残薬の状況を観察し、記録し、ケアマネジャー・訪問看護・処方医・薬局に報告することです。残薬の理由を判断し、服用を調整することは、介護職員の役割ではありません。ただし、報告しないことは別の問題を生みます。残薬の情報は、処方の見直しに直結する重要な情報であり、介護職員が最も早く気づく立場にいます。

記録の要点は、「いつ、どの薬が、どれだけ残っていたか」「本人は何と言っていたか」を事実として書くことです。「飲み忘れているようだ」という評価ではなく、「朝食後の分が3日分残っていた」という事実を書きます。

5. 誤薬事故——責任の構造

誤薬事故(別の利用者の薬を渡した、服用時点を誤った、二重に服用させた)が起きた場合、責任は多層的です。

事業者の責任

介助を行った職員の過失について、事業者は使用者責任(民法第715条)を負います。また、利用契約上の安全配慮義務違反として、契約責任も問われます。さらに、介護事故として市町村への報告義務があり、運営基準上の事故発生時の対応が求められます。

職員個人の責任

職員個人も不法行為責任(民法第709条)を負いえますが、実務上は事業者が賠償し、職員に対する求償は限定されることが多いです。ただし、通知の範囲を超える行為(PTPシートからの取り出し、粉砕など)を行っていた場合、医師法違反の問題も生じ、事業者・職員双方の責任が加重されます。

処方元・薬局との関係

誤薬の原因が処方の誤りや調剤の誤りにある場合、責任は処方医・薬局に及びます。しかし、介護職員が介助した薬が明らかに別の利用者のものであったような場合、介助段階での確認義務が問題になります。

事故報告書に何を書くか

事故報告書は、事実を時系列で正確に書くものです。何時に、誰が、どの薬を、誰に、どのように介助し、いつ誤りに気づき、誰に連絡し、どう対応したか。推測や評価(「不注意だった」「体制の問題」)は書きません。事実だけを書き、評価は事故検証の場で行います。事故報告書は、後に行政や遺族・家族が読む文書です。

6. 薬局・訪問看護との連携——契約に落とす

服薬介助を安全に行うには、介護職員だけの努力では足りません。処方医、薬剤師、看護職員が3条件を確認し、介護職員に伝える仕組みが必要です。通知もそれを前提にしています。

実務上、次のことを文書化しておくことをお勧めします。

  • どの利用者について、どの薬の服薬介助を介護職員が行うか(利用者ごとの一覧)
  • 3条件の確認を誰が行い、いつ確認したか
  • 一包化の依頼が処方医・薬局に伝わっているか
  • 残薬・副作用の疑い・服用拒否があった場合の連絡先と手順
  • 訪問看護が入っている利用者について、服薬管理の役割分担
  • 薬局からの服薬指導の内容が介護職員に共有される経路

7. 薬剤師の目で見た、介護現場の危うい運用

最後に、薬局と介護現場の両方を見てきた立場から、よく見る危うい運用を挙げます。法的な問題と、薬学的な問題の両方があります。

  • 複数の薬をPTPシートから取り出して小さなカップに入れて渡している——判断が介在しており、通知の範囲を超える
  • 錠剤を砕いてヨーグルトに混ぜている——調剤行為であり、薬によっては効果・安全性が変わる
  • 「飲めなかった分は次に一緒に」と二回分を服用させている——過量投与のリスク。処方医・薬局の判断が必要
  • 食前薬と食後薬をまとめて食後に渡している——服用時点の指示には薬学的な理由がある
  • 残薬を見つけても報告せず、「本人が飲みたくないなら」と放置している——処方見直しの機会を失う
  • 利用者の薬を他の利用者と同じ場所に保管し、名前の確認が曖昧——誤薬事故の典型的な原因

これらの多くは、悪意ではなく善意から生じています。飲みやすくしてあげたい、飲み忘れを補ってあげたい。しかし、善意による判断が、法的にも薬学的にも介護職員の範囲を超えている。境界を知ることが、職員を守ります。

よくある質問

Q. 介護職員がPTPシートから錠剤を取り出して渡すことはできますか。

A. 通知が介助の対象とする「一包化された内用薬」には含まれません。処方医に一包化を依頼し、薬局で一包化された状態で受け取る運用にしてください。

Q. 利用者が錠剤を飲めないので、砕いて渡しています。問題ありますか。

A. 粉砕は調剤行為であり、介護職員が行うことはできません。また、薬によっては粉砕により効果や安全性が変わります。処方医・薬局に相談し、調剤段階で対応してもらってください。

Q. 3条件の確認は誰がしますか。

A. 通知上、医師、歯科医師または看護職員が確認し、介助ができることを本人・家族に伝えていることが前提です。介護職員が自ら判断することはできません。

Q. 残薬を見つけました。介護職員はどう対応すべきですか。

A. 状況を事実として記録し、ケアマネジャー・訪問看護・処方医・薬局に報告してください。服用の調整を介護職員が判断することはできませんが、報告は重要な役割です。

Q. 誤薬事故が起きました。事故報告書には何を書けばよいですか。

A. 事実を時系列で正確に書きます。推測や評価は書かず、何時に誰がどの薬を誰にどう介助し、いつ誤りに気づき、誰に連絡し、どう対応したかを記載します。

参考資料(一次資料)

  • 医師法第17条、歯科医師法第17条、保健師助産師看護師法第31条
  • 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(平成17年7月26日医政発第0726005号厚生労働省医政局長通知) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2895&dataType=1&pageNo=1
  • 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)(令和4年12月1日医政発1201第4号)
  • 原則として医行為ではない行為に関するガイドライン(令和6年度老人保健健康増進等事業、2025年3月)
  • 民法第709条(不法行為)、第715条(使用者責任)
  • 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(事故発生時の対応)

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