令和6年度介護報酬改定で、三つの「未実施減算」が導入されました。業務継続計画(BCP)未策定減算、高齢者虐待防止措置未実施減算、身体拘束廃止未実施減算です。運営指導で最も指摘されやすい領域であり、しかも三つの減算は、減算率も、遡及の有無も、要件の頻度も異なります。
最大の誤解は、「身体拘束をしていないから身体拘束廃止未実施減算は関係ない」という理解です。厚生労働省のQ&Aは、身体拘束をしていなくても、委員会・指針・研修のいずれかを欠けば減算が適用されると明示しています。この記事では、三つの減算を一つの表で比較し、自己点検できる形に整理します。
この記事の内容
- 1. 三つの減算の比較
- 2. 最大の誤解——身体拘束をしていなくても減算される
- 3. 遡及の差——BCPだけが遡る
- 4. 委員会と研修——頻度要件を表で
- 5. 記録がなければ、やっていないとみなされる
- 6. 減算が始まってから止めるまで
- 7. 体制等状況一覧表の届出
- よくある質問
1. 三つの減算の比較
まず全体を並べます。
身体拘束廃止未実施減算
- 減算率——施設系・居住系サービスで所定単位数の10%、短期入所系・多機能系サービスで1%
- 要件——身体的拘束等を行う場合の記録、適正化のための対策を検討する委員会(3月に1回以上)、指針の整備、研修(年2回以上)
- 遡及——遡及しない。事実を発見した日の属する月が「事実が生じた月」
高齢者虐待防止措置未実施減算
- 減算率——所定単位数の1%
- 要件——虐待防止のための対策を検討する委員会の定期開催(施設系・居住系は年2回以上、訪問系・通所系・多機能系は年1回以上)、指針の整備、研修の定期実施、担当者の配置
- 遡及——遡及しない
業務継続計画未策定減算
- 減算率——サービス種別により異なる(施設系・居住系で3%、その他で1%が基本)
- 要件——感染症および災害に係る業務継続計画の策定、周知、研修・訓練の実施
- 遡及——遡及して適用される
減算率の詳細はサービス種別ごとに告示で定められています。上記は概要であり、自事業所の種別については告示本文で確認してください。
2. 最大の誤解——身体拘束をしていなくても減算される
厚生労働省は、令和7年1月20日の介護保険最新情報Vol.1345で、高齢者虐待防止措置未実施減算と身体拘束廃止未実施減算の取扱いに関するQ&Aを発出しました。そこで示された考え方は明確です。
利用者に対して身体的拘束等をしていない場合であっても、身体的拘束等の適正化を図るためのすべての措置(委員会の開催、指針の整備、研修の実施)がなされていなければ、減算の適用となります。
これは、減算の趣旨を考えれば理解できます。この減算は「身体拘束をしたこと」に対する制裁ではなく、「身体拘束を適正化する体制を整えていないこと」に対する減算です。体制の話であって、行為の話ではありません。訪問介護のように身体拘束の場面がほとんどないサービスでも、体制は求められます。
三要件の記録
身体的拘束等を行った場合には、「切迫性」「非代替性」「一時性」の三要件をすべて満たすことの記録が必要です。Q&Aは、この記録が確認できなければ減算の適用となると示しています。三要件の内容は概ね次のとおりです。
- 切迫性——利用者本人または他の利用者の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
- 非代替性——身体拘束以外に代替する方法がないこと
- 一時性——身体拘束が一時的なものであること
記録には、態様および時間、その際の利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記載します。
3. 遡及の差——BCPだけが遡る
三つの減算で、事業者が最も注意すべき差がここです。
高齢者虐待防止措置未実施減算と身体拘束廃止未実施減算は、過去に遡及して適用されません。運営指導で発見された場合、発見した日の属する月が「事実が生じた月」となり、そこから減算が始まります。
一方、業務継続計画未策定減算は、過去に遡及して適用されます。BCPを策定していなかった期間について、遡って減算されるということです。BCP未策定の期間が長ければ、返還額は大きくなります。
この差は、自己点検の優先順位に直結します。BCPが未策定または不完全であれば、今日策定すれば今日以降の減算は止まりますが、過去の分は返還対象になります。虐待防止・身体拘束の体制不備は、発見されるまで減算が始まらないため、発見前に整えれば減算は生じません。
4. 委員会と研修——頻度要件を表で
減算を避けるための頻度要件を整理します。
- 身体拘束適正化委員会——3月に1回以上
- 身体拘束適正化研修——年2回以上
- 虐待防止委員会——施設系・居住系は年2回以上、訪問系・通所系・多機能系は年1回以上
- 虐待防止研修——年1回以上(サービスにより異なる)
- BCP研修・訓練——年1回以上(施設系は年2回以上)
委員会は、他の委員会と一体的に開催することも認められています。ただし、議事録上、どの委員会の議題として何を検討したかが分かる形で残しておく必要があります。
5. 記録がなければ、やっていないとみなされる
運営指導で確認されるのは、記録です。委員会を開催したという記憶ではなく、議事録・参加者名簿・検討内容。研修を実施したという記憶ではなく、実施記録・資料・参加者名簿。
記録が確認できなければ、開催していない、実施していないとみなされ、減算の対象になります。減算を避けるための体制整備は、記録の整備と同義です。
- 身体拘束適正化委員会の議事録(3月に1回以上、直近1年分)
- 身体拘束適正化のための指針(文書として存在するか)
- 身体拘束適正化研修の実施記録・資料・参加者名簿(年2回以上)
- 身体的拘束等を行った場合の記録(三要件、態様・時間、心身の状況、理由)
- 虐待防止委員会の議事録(サービス種別に応じた頻度)
- 虐待防止のための指針
- 虐待防止研修の実施記録・資料・参加者名簿
- 虐待防止措置の担当者の指定(文書上明確か)
- 業務継続計画(感染症・災害の両方)
- BCPの周知記録、研修・訓練の実施記録
6. 減算が始まってから止めるまで
減算の適用が決まった場合の手続を確認します。令和6年度改定Q&Aは、次の流れを示しています。
- 速やかに改善計画を提出する
- 事実が生じた月から3か月後に、改善計画に基づく改善状況を報告する
- 事実が生じた月の翌月から、改善が認められた月までの間、利用者全員について減算
重要なのは「改善が認められた月まで」減算が続くという点です。改善計画を出しただけでは止まりません。実際に委員会を開催し、指針を整備し、研修を実施し、その記録を示して、改善が認められる必要があります。Q&Aは、改善計画の提出の有無に関わらず、事実が生じた月の翌月から減算の措置を行って差し支えないとしています。
7. 体制等状況一覧表の届出
高齢者虐待防止措置については、介護給付費算定に係る体制等状況一覧表の「高齢者虐待防止措置実施の有無」を届け出る必要があります。要件を満たしている場合は「基準型」、満たしていない場合は「減算型」として届け出ます。
届出内容と実態が異なる場合、それ自体が問題になります。「基準型」で届け出ながら委員会を開催していなければ、減算の適用だけでなく、届出の正確性を問われることになります。
よくある質問
Q. 訪問介護で身体拘束の場面はありません。身体拘束廃止未実施減算は関係ありますか。
A. 関係あります。減算は身体拘束をしたことではなく、適正化の体制(委員会・指針・研修)を整えていないことに対して適用されます。厚労省Q&Aが明示しています。
Q. 虐待防止委員会と身体拘束適正化委員会を一緒に開催してもよいですか。
A. 一体的な開催は認められています。ただし、議事録上、それぞれの委員会としての検討内容が分かる形で記録してください。
Q. BCPは策定していますが、訓練はしていません。減算になりますか。
A. 業務継続計画未策定減算の要件には、策定だけでなく周知、研修・訓練の実施が含まれます。訓練を実施していなければ要件を満たさない可能性があります。
Q. 運営指導で虐待防止委員会の未開催を指摘されました。過去に遡って減算されますか。
A. 高齢者虐待防止措置未実施減算は遡及しません。発見した日の属する月が事実が生じた月となり、その翌月から減算が始まります。
Q. 改善計画を提出すれば減算は止まりますか。
A. 止まりません。改善が認められた月まで減算は続きます。実際に委員会・研修を実施し、記録を示して改善を認めてもらう必要があります。
参考資料(一次資料)
- 介護保険最新情報Vol.1345(令和7年1月20日) 高齢者虐待防止措置未実施減算、身体拘束廃止未実施減算の取扱いに係るQ&A
- 令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)
- 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第19号)ほか各サービスの報酬告示
- 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律
ご相談について
三つの減算の自己点検、委員会・指針・研修の記録の整備、届出内容と実態の整合について、事業所の状況に応じてお手伝いします。運営指導で指摘される前に整えることが、減算を生じさせない唯一の方法です。
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