取引対象の物件で過去に人が亡くなっていても、自然死や日常生活の中の不慮の事故死であれば、原則として告げる必要はありません。それ以外の死(自殺・他殺など)と、特殊清掃等が行われた死については、賃貸では、自殺・他殺等は発生から、特殊清掃等が行われた自然死等は発覚から、概ね3年が経過した後は原則として告げなくてもよいとされています。売買については「何年経過すれば告げなくてよい」という一律の期間基準は示されておらず、事案の内容や経過期間等を踏まえて告知の要否を判断します。いずれも、買主・借主から問われた場合や、事件性・周知性・社会的影響が特に大きい事案は、経過期間や死因を問わず告げなければなりません。
これは国土交通省が2021年10月に公表した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」の整理です。ガイドラインは宅建業者の義務の判断基準であり、民事上の責任を直接決めるものではありませんが、行政の監督と裁判の双方で参照される基準になっています。
この記事では、告知の要否を決める三つの区分、業者に求められる調査の範囲、そして事故物件情報サイト「大島てる」に掲載されている物件をどう扱うかを整理します。
この記事の内容
- 1. 心理的瑕疵とは何か——契約不適合と告知義務の関係
- 2. ガイドラインの適用範囲と調査義務
- 3. 告げなくてもよい三つの類型
- 4. 問われたら答える——経過期間も死因も問わない
- 5. 「大島てる」に載っている物件をどう扱うか
- 6. 売主・貸主が告げなかった場合の責任
- 7. 実務チェックリスト
- よくある質問
1. 心理的瑕疵とは何か——契約不適合と告知義務の関係
建物に物理的な欠陥はないが、過去の出来事のために買主・借主が心理的な抵抗を感じ、取引の判断に影響する事情を、実務上「心理的瑕疵」と呼びます。2020年4月施行の改正民法では「瑕疵」の語は「契約の内容に適合しないもの」に置き換わりましたが(民法562条)、人の死の履歴が契約不適合に当たるかは、契約の目的、事案の内容、経過期間、周知性などを考慮して個別に判断されます。
宅建業者には、これと別に宅地建物取引業法上の義務があります。同法47条1号は、取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為を禁じています。人の死の事案がこれに当たると考えられる場合、業者は自ら売主となるときも媒介するときも、事実を告げる必要があります。ガイドラインは、この47条1号の解釈として、どの範囲で告げるべきかの一般的な基準を示したものです。
2. ガイドラインの適用範囲と調査義務
ガイドラインが対象とするのは居住用不動産です。オフィス等は対象外で、取引当事者の意向を踏まえて個別に対応することになります。対象となる事案は、取引の対象となる不動産において生じた人の死に関する事案です。
調査は「告知書で売主・貸主に確認する」まで
宅建業者は、販売活動・媒介活動に伴う通常の情報収集を行う一般的な義務を負いますが、人の死が生じたことを疑わせる特段の事情がなければ、自発的に調査すべき義務までは宅建業法上認められません。媒介業者は、売主・貸主に告知書(物件状況等報告書)その他の書面に過去の事案の記載を求めることで、調査義務を果たしたものとされます。告知書に記載されなかった事案が後日判明しても、業者に重大な過失がなければ調査は適正になされたものと扱われます。
取引の対象となる不動産における事案の有無に関し、宅地建物取引業者は、原則として、売主・貸主・管理業者以外に自ら周辺住民に聞き込みを行ったり、インターネットサイトを調査するなどの自発的な調査を行ったりする義務はないと考えられる。仮に調査を行う場合であっても、近隣住民等の第三者に対する調査や、インターネットサイトや過去の報道等に掲載されている事項に係る調査については、正確性の確認が難しいことや、亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、これらを不当に侵害することのないようにする必要があることから、特に慎重な対応を要することに留意が必要である。
宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(令和3年10月、国土交通省不動産・建設経済局不動産業課)3(1)
ここが「大島てる」の扱いに直結します。後で戻ります。
3. 告げなくてもよい三つの類型
- 自然死、日常生活の中での不慮の死——老衰・病死などの自然死と、階段からの転落、入浴中の溺死・転倒、食事中の誤嚥など日常生活で生じた不慮の事故死は、賃貸・売買いずれも原則として告げなくてよい。ただし、長期間放置され特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合は②の扱いになる
- 賃貸で、①以外の死(自殺・他殺等)は発生から、特殊清掃等が行われた①の死は発覚から、概ね3年が経過した場合——特段の事情がない限り、借主に告げなくてよい。ただし事件性・周知性・社会に与えた影響が特に高い事案はこの限りではない
- 隣接住戸、または借主・買主が日常生活で通常使用しない共用部分で①以外の死が発生した場合——賃貸・売買いずれも原則として告げなくてよい。ただし事件性・周知性・社会的影響が特に高い事案はこの限りではない
三つの類型に当たらない場合、つまり売買での自殺・他殺・特殊清掃を伴う死、賃貸で3年以内の同種の死は、取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合として告げなければなりません。売買には一律の期間の区切りが示されていない点が、実務上最も重い部分です。永久に一律の告知義務があるという意味ではなく、事案の内容・経過期間・周知性等を踏まえて個別に判断することになりますが、買取再販業者が仕入れた物件で過去に自殺があれば、経過年数にかかわらず、再販時に告知の要否を検討する必要があります。
告げる内容と、告げてはいけない内容
告げる場合、業者は調査で判明した点について、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合は発覚時期)、場所、死因(不明な場合はその旨)、特殊清掃等が行われた旨を告げます。売主・貸主・管理業者から不明と回答された場合や無回答の場合は、その旨を告げれば足ります。一方、亡くなった方や遺族の名誉と生活の平穏に配慮し、氏名、年齢、住所、家族構成、具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はありません。トラブル防止の観点から、告知は書面で行うことが望ましいとされています。
4. 問われたら答える——経過期間も死因も問わない
三類型の整理は原則です。ガイドラインは、これにかかわらず、人の死の発覚から経過した期間や死因を問わず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等には、業者は調査を通じて判明した点を告げる必要があるとしています。
つまり、「3年経ったから言わなくていい」が通用するのは、相手が何も聞いてこない場合だけです。内見時に「この部屋で誰か亡くなっていませんか」と問われたら、把握している事実は告げなければなりません。問われたのに黙っていた場合、宅建業法47条1号の不告知として行政処分の対象になるだけでなく、民事上の説明義務違反として損害賠償の根拠になります。
5. 「大島てる」に載っている物件をどう扱うか
「大島てる」は、事故物件とされる情報を地図上に集約している民間のウェブサイトです。投稿制であり、内容の正確性は運営者が保証しているわけではなく、誤った位置や事実と異なる情報が掲載されている例も指摘されています。それでも、賃貸・売買の顧客がこのサイトを見て問い合わせてくる場面は、札幌でも日常になっています。業者側の対応を整理します。
サイトに載っていることは、告知義務の発生要件ではない
告知義務の有無は、ガイドラインの三類型と、問われたかどうかで決まります。サイトに載っているから告知義務が生じるわけではなく、載っていないから告知しなくてよいわけでもありません。ガイドラインは、業者にインターネットサイトを自発的に調査する義務はなく、調査する場合は正確性と遺族の名誉への配慮から特に慎重な対応を要する、としています。サイトの記載を鵜呑みにして「この物件では自殺があった」と顧客に告げれば、事実と異なる場合に売主・貸主や遺族に対する名誉毀損や、業者自身の説明義務違反の問題を生じます。
顧客から「載っている」と言われたときの手順
顧客からサイトの掲載を指摘された時点で、業者は「問われた」状態になります。手順は、①売主・貸主・管理業者に告知書等で事案の有無を照会する、②回答内容(事実、不明、無回答)をそのまま顧客に伝える、③サイトの記載の真偽について業者が独自の判断を示さない、④照会と回答を記録する、です。売主が「そのような事実はない」と回答したなら、その旨を伝え、サイトの記載と食い違うことも含めて顧客に判断材料を渡します。業者が「サイトは間違いです」と断定するのも、「サイトのとおりです」と追認するのも避けるべきです。
売主・貸主側の業者としての対応
自社が管理・仲介する物件がサイトに掲載されているのを知った場合、掲載の事実を売主・貸主に伝え、告知書への記載内容を確認しておくことが、後日「知っていたのに言わなかった」と指摘されるリスクを減らします。掲載内容が事実と異なるときは、運営者への削除依頼や、必要に応じて発信者情報の開示請求を弁護士と検討することになりますが、削除の実現には時間と困難が伴うのが実情です。
6. 売主・貸主が告げなかった場合の責任
ガイドラインは、媒介業者が売主・貸主に対し、事案の存在を故意に告知しなかった場合等には民事上の責任を問われる可能性がある旨をあらかじめ伝えることが望ましい、としています。告知書に虚偽の記載をした売主は、買主から契約不適合責任や不法行為責任を追及される立場に立ちます。宅建業者が売主となる買取再販では、これに宅建業法上の責任が重なります。仕入れの際に前所有者や管理会社から取得した告知書を保管し、再販時の告知書に引き継ぐ運用が、責任を明確にする最も現実的な方法です。
7. 実務チェックリスト
- 売主・貸主に告知書(物件状況等報告書)で人の死の事案の記載を求める運用を全件で行っている
- 管理会社に対しても、管理中に発生した事案の有無を書面で照会している
- 告知の要否をガイドラインの三類型に当てはめて判断し、判断過程を記録している
- 買主・借主から問われた場合は経過期間・死因を問わず把握事実を告げると社内で統一した
- 告げる内容は発生時期・場所・死因・特殊清掃の有無に限り、氏名等は告げないと統一した
- 事故物件サイトの掲載を指摘されたときの照会・伝達・記録の手順を定めた
- 告知は書面で行い、控えを保管している
- 買取再販物件は、仕入時の告知書を再販時に引き継いでいる
よくある質問
Q. 賃貸で、3年前に自殺があった部屋です。次の入居者に告げる必要がありますか。
A. 自殺の場合の起算点は発生からで、発生から概ね3年が経過していれば、特段の事情がない限り原則として告げなくてよいとされています(特殊清掃等が行われた自然死等は発覚から起算します)。ただし、事件性・周知性・社会的影響が特に高い事案は例外であり、入居希望者から問われた場合は経過期間を問わず告げる必要があります。
Q. 売買では何年経てば告げなくてよくなりますか。
A. ガイドラインは売買について期間の区切りを設けていません。自然死・日常生活の中の不慮の死以外の死や、特殊清掃を伴った死は、経過期間を問わず告知の要否を検討する必要があります。
Q. 大島てるを毎回調べる義務はありますか。
A. ありません。ガイドラインは、業者にインターネットサイトを自発的に調査する義務はないとし、調査する場合は正確性と遺族の名誉への配慮から特に慎重な対応を求めています。ただし、顧客から掲載を指摘されたら「問われた」ものとして売主・貸主に照会し、回答を伝える必要があります。
Q. 売主が告知書に「知らない」と書きました。それで業者の責任は果たせますか。
A. 告知書等で照会し、不明と回答された事実をもって調査はなされたものとされます。買主には「売主から不明と回答された」旨を伝えれば足ります。ただし、業者自身が事案を知っていた場合や、疑わせる事情があるのに確認しなかった場合は別です。
Q. 亡くなった方の氏名や死因の詳細まで伝えるべきですか。
A. 伝える必要はありません。告げるべきは発生時期、場所、死因の区別(自然死・自殺等)、特殊清掃の有無に限られ、氏名・年齢・家族構成・具体的な態様・発見状況は、遺族の名誉と生活の平穏への配慮から告げる必要がないとされています。
参考資料(一次資料)
- 国土交通省不動産・建設経済局不動産業課「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月) https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001426603.pdf
- 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第47条 https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176
- 民法(明治29年法律第89号)第562条・第709条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
ご相談について
当事務所では、告知書の様式整備、告知の要否判断、事故物件サイト掲載への対応(照会手順・削除依頼・発信者情報開示の検討)、告知義務違反を主張された場合の対応をお受けしています。「載っていると言われた」時点でご連絡いただければ、その場での回答の仕方から一緒に整理します。
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札幌手稲ポプラの丘法律事務所は、弁護士として約17年の実務経験をもとに、札幌・小樽・石狩の不動産事業者の顧問業務をお受けしています。契約前・回答前の相談から、原状回復・滞納・明渡し・告知義務の対応、交渉・訴訟まで。
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