賃貸借にも契約不適合責任があります。民法559条は売買の規定を有償契約に準用しており、引き渡した物件が契約の内容に適合しないとき、賃借人は貸主に追完(修繕)、賃料減額、損害賠償、解除を求めることができます。これに賃貸借固有の修繕義務(606条)と賃料の当然減額(611条)が重なります。
仲介会社は契約の当事者ではありませんが、宅建業法上の調査・説明義務と、媒介契約上の善管注意義務を負います。「貸主が言わなかったから知らなかった」で済む場面と済まない場面があります。
この記事では、札幌の賃貸現場で実際に起きる三つの事例——契約した駐車場に他人の車が停まっていた、内見では気づかなかったが入居したら臭かった、入居直後に雨漏りした——を使って、貸主と仲介会社それぞれの責任と、初動の対応を整理します。
この記事の内容
- 1. 賃貸借にも契約不適合責任がある——民法559条の準用
- 2. 事例① 契約した駐車場に、他人の車が停まっていた
- 3. 事例② 内見では気づかなかったが、入居したら臭かった
- 4. 事例③ 入居直後に雨漏りした
- 5. 三事例に共通する初動の手順
- 6. 仲介会社が募集前に貸主へ照会しておくべき事項
- よくある質問
1. 賃貸借にも契約不適合責任がある——民法559条の準用
この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
民法第559条
賃貸借は有償契約なので、売買の契約不適合責任の規定(562条〜564条)が準用されます。引き渡した物件が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」とき、賃借人は修補による追完、賃料減額、損害賠償、解除を求めることができます。ここでも基準は「契約の内容」です。募集図面、重要事項説明書、契約書の設備欄、内見時の説明が、契約の内容を構成します。
賃貸借にはさらに固有の条文があります。606条1項は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と定め、賃借人の責めに帰すべき事由による場合を除いています。611条1項は、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用収益できなくなった場合、賃借人に帰責事由がなければ、賃料は使用収益できなくなった部分の割合に応じて「減額される」と定めています。2020年改正で「減額を請求することができる」から「減額される」に変わり、請求を待たずに当然に減額される構造になりました。
2. 事例① 契約した駐車場に、他人の車が停まっていた
居室と併せて駐車場1区画を契約したが、入居してみると別の入居者や近隣住民の車が常時停まっていて使えない。札幌では冬季の駐車場確保が居住条件そのものであるため、深刻な事例です。
貸主の責任
貸主は契約した区画を賃借人に使用収益させる義務を負います(601条)。第三者が占有していて使えない状態は、貸主の債務の不履行です。賃借人は、貸主に対して占有者の排除を求め、使えない期間の駐車場部分の賃料について611条による減額を主張し、代替駐車場を借りた費用があれば損害賠償(415条)を請求できます。駐車場が居室と一体の契約で、駐車場なしでは契約目的を達成できないと評価される場合は、611条2項や542条による解除の問題にもなります。貸主側の対応は、占有者の特定と排除、それが直ちにできないなら代替区画の提供と、使えなかった期間の賃料の精算です。占有者への対応は、貸主自身が実力で排除するのではなく、警告、契約者であれば契約に基づく是正要求、応じなければ法的手続という順序になります。
仲介会社の責任
仲介会社は、貸主から提供された区画番号を図面と重要事項説明書に記載し、案内時に現地を示していれば、通常は調査・説明義務を果たしています。ただし、募集時点で当該区画に他人の車が常時停まっていることを認識していた、あるいは貸主から「今は別の人が使っているが入居までに空ける」と聞いていたのに説明しなかった、という事情があれば、宅建業法47条1号が禁じる重要な事項の不告知として行政処分の対象になり、賃借人に対する損害賠償責任も生じます。
3. 事例② 内見では気づかなかったが、入居したら臭かった
前入居者のタバコやペット、排水管からの臭気、隣室の飲食店や工場の匂い、下水の逆流。内見の短時間や換気された状態では気づかず、入居して生活を始めてから判明する事例です。
契約不適合になるかどうかの分岐
臭気は主観的な要素が大きく、契約不適合と認められるかは、原因、程度、継続性、契約時の説明によります。排水管の不具合や前入居者の残した臭いなど物件側に原因があり、通常の生活に支障を来す程度であれば、契約の内容に適合しない状態として、貸主は修繕(原因の除去、クロス張替え、消臭施工)の義務を負い、居住に支障のある期間や部分について611条の減額の問題が生じます。原因が隣室や周辺環境にあり、貸主の支配が及ばない場合は、606条の修繕義務の対象にはなりにくく、契約時に説明があったかどうかが問題になります。
仲介会社の調査・説明義務の範囲
仲介会社は、物件の環境や利用の制限のうち賃借人の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げないことを禁じられています(宅建業法47条1号ニ)。前入居者がペットを飼育していた、隣室が深夜営業の飲食店である、以前に臭気の苦情があった、といった事実を貸主や管理会社から聞いていれば、説明する必要があります。一方、内見時に通常の注意で気づかず、貸主からも情報がなかった臭気について、仲介会社に独自の調査義務まで認められるかは限定的です。募集前に貸主・管理会社へ「前入居者の使用状況、苦情履歴、設備の不具合」を書面で照会し、回答を保管しておくことが、仲介会社の調査義務を果たした証拠になります。
初動として避けるべきなのは、「内見で確認しましたよね」と賃借人に返すことです。原因調査を貸主に促し、原因と対策と時期を賃借人に文書で伝える。この段取りを仲介会社が回すことが、紛争を小さくします。
4. 事例③ 入居直後に雨漏りした
入居して最初の雨で天井から水が落ちた、融雪期に窓枠から水が入った。北海道では、屋根の雪庇や凍結による排水不良で、春の融雪期に雨漏りが集中します。
貸主の修繕義務と賃料減額
雨漏りは、賃借人の使用に起因しない限り、貸主が修繕義務を負う典型例です(606条1項)。賃借人は修繕を請求でき、貸主が修繕しなければ、賃借人が自ら修繕して費用の償還を請求することもできます(608条1項)。雨漏りで使用できない部屋や部分がある期間は、611条1項により、その割合に応じて賃料が減額されます。減額の割合と期間は、使用できなくなった範囲の実態で判断されます。家財が濡れた損害は、貸主に帰責事由がある場合に415条の損害賠償の対象になります。
賃借人側にも義務があります。615条は、賃借物が修繕を要するときは遅滞なく貸主に通知することを求めています。通知を怠って被害が拡大した部分は、賃借人の責任になり得ます。貸主側は、通知を受けたら速やかに現地を確認し、応急処置、本修繕の時期、賃料の扱いを文書で伝えてください。放置すれば、減額の範囲が広がり、解除の問題にも進みます。
仲介会社の責任
雨漏りの履歴を貸主・管理会社から聞いていたのに説明しなかった場合は、事例②と同じく不告知の問題になります。履歴を知らなかった場合、仲介会社に責任が及ぶことは通常ありませんが、建物の築年数や屋根の状態から雨漏りが疑われる事情があるのに確認しなかった、という評価を受けないよう、募集前の貸主への照会に「雨漏り・漏水・結露の履歴」を含めておくことが実務上の備えです。
5. 三事例に共通する初動の手順
賃借人から「契約と違う」と言われたとき、貸主・管理会社・仲介会社が取る手順は共通しています。
- 受付と記録——連絡の日時、内容、写真・動画を記録する。賃借人の連絡は民法615条の通知であり、契約不適合の通知でもある
- 現地確認と原因の切り分け——物件側の原因か、賃借人の使用に起因するか、貸主の支配の及ばない外部要因かを確認する
- 応急対応と文書での説明——原因、対策、時期、賃料の扱いを賃借人に書面で伝える。611条の減額は当然に生じるため、減額の有無と範囲を先に示す方が紛争が小さい
- 契約内容の確認——募集図面、重要事項説明書、契約書、貸主への照会回答を突き合わせ、説明した事項と説明していなかった事項を整理する
- 責任分担の整理——貸主・管理会社・仲介会社の間で、誰が何を知っていたかを事実で確定し、賃借人への窓口を一本化する
6. 仲介会社が募集前に貸主へ照会しておくべき事項
- 前入居者の使用状況(喫煙・ペット・用途)と退去理由
- 臭気・騒音・振動に関する苦情の履歴
- 雨漏り・漏水・結露・カビの履歴と修繕の実施状況
- 給排水・給湯・暖房設備の不具合履歴と最終点検日
- 駐車場区画の現況(現に使用している者、契約者、無断駐車の有無)
- 隣接住戸・周辺の用途(店舗・工場・深夜営業等)
- 過去に発生した事件・事故
- 回答を書面(またはメール)で受領し、募集資料と重要事項説明書に反映した
よくある質問
Q. 駐車場が使えない間、居室の賃料も払わないと言われました。
A. 611条による減額は、使用収益できなくなった部分の割合に応じたものです。駐車場が使えないことを理由に居室分まで支払わないことは、原則として認められません。ただし、駐車場なしでは契約目的を達成できないと評価される場合は解除の問題になり得るため、代替区画の提供を急ぐことが貸主側の対処です。
Q. 臭いは個人差があります。賃借人の主張をどこまで受け入れるべきですか。
A. 原因が物件側にあるか、通常の生活に支障を来す程度かで判断します。排水管や前入居者の残した臭いなら貸主が対応すべきです。周辺環境に由来し契約時に説明していた場合は、契約内容に含まれていたと整理できます。いずれも、まず原因を調査し結果を文書で伝えることが先です。
Q. 雨漏りの修繕に時間がかかります。賃料はどうなりますか。
A. 使用できない部分と期間に応じて、611条により当然に減額されます。減額の範囲は実態によるため、貸主側から割合と期間を提案し合意しておくと、後の争いを避けられます。
Q. 仲介会社は、貸主が教えてくれなかったことに責任を負いますか。
A. 原則として負いません。ただし、賃借人の判断に重要な影響を及ぼす事項について、貸主・管理会社に照会もせず、疑わせる事情を確認もしなかった場合は、調査義務を尽くしていないと評価されることがあります。募集前の書面照会が備えになります。
Q. 賃借人が「契約不適合だから解除する」と言っています。
A. 解除には、催告しても追完がないこと、または追完不能・契約目的不達成といった要件が必要で、不適合が軽微なときは解除できません。修繕の実施と賃料の減額で対応できる事案が大半です。応じられない要求には、条文上の要件を示して説明してください。
参考資料(一次資料)
- 民法(明治29年法律第89号)第415条・第541条・第542条・第559条・第562条〜第564条・第601条・第606条・第608条・第611条・第615条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第35条・第47条 https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176
ご相談について
当事務所では、賃借人から契約不適合を主張された場合の貸主・管理会社・仲介会社の対応、賃料減額の範囲の整理、募集前の貸主照会書と重要事項説明書の様式整備をお受けしています。「契約と違う」と言われた当日にご連絡いただければ、最初の返答の内容から一緒に決めます。
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