北海道の冬と介護事業——除雪・送迎事故・大雪時のBCPと報酬算定

介護事業者向け

北海道の介護事業者にとって、冬は法的リスクの季節です。送迎車のスリップ、屋根からの落雪、除雪した雪の置き場所をめぐる隣地との対立、大雪でサービスが提供できない日の報酬。毎年繰り返される問題ですが、道外の事務所が書く介護法務の記事には、ほとんど出てきません。

この記事は、札幌手稲の法律事務所が、北海道の介護事業所に向けて書くものです。責任の所在を条文で整理し、雪害を組み込んだBCPの点検項目を示します。雪が降る前に読んでください。

この記事の内容

1. 送迎中のスリップ事故——誰が、どこまで責任を負うか

通所介護の送迎車が凍結路面でスリップし、利用者が負傷した。あるいは対向車と衝突した。冬の北海道で最も起こりやすい事故です。責任の構造を整理します。

事業者の責任

送迎は事業の一部であり、運転していた職員は事業者の被用者です。職員の過失による事故について、事業者は民法第715条の使用者責任を負います。さらに、事業者は送迎車の運行供用者として、自動車損害賠償保障法第3条に基づく責任を負います。運行供用者責任は、運転者の過失がなくても原則として負う責任であり、免責されるためには、自己および運転者が注意を怠らなかったこと、被害者または第三者に故意・過失があったこと、自動車に構造上の欠陥・機能の障害がなかったことを証明する必要があります。冬道での事故で、この免責が認められることは極めて稀です。

利用者との契約上の責任

利用者に対しては、不法行為責任に加えて、利用契約に基づく安全配慮義務違反の責任も問われます。送迎は契約上のサービスの一部であり、安全に送迎する義務を負っています。

冬タイヤ・整備の管理

冬道の事故で責任を重くする要素が、車両の整備状況です。冬タイヤの溝の深さ、装着時期、チェーンの携行、ワイパー・ヒーターの整備。これらが不十分であった場合、事業者の管理責任が加重されます。北海道では、冬用タイヤの装着そのものは当然として、その状態の管理記録が問われます。

  • 冬タイヤの装着日と溝の深さを車両ごとに記録している
  • 送迎前の車両点検(タイヤ、ブレーキ、ワイパー、ヒーター、灯火)を記録している
  • 送迎ルートの危険箇所(凍結しやすい交差点、坂、日陰)を職員間で共有している
  • 悪天候時の送迎中止・遅延の判断基準を定めている
  • 送迎職員の冬道運転研修を実施し、記録している
  • 自動車保険の補償内容(対人・対物・搭乗者・人身傷害)を確認している

2. 屋根からの落雪——工作物責任

事業所の屋根に積もった雪が落下し、利用者、職員、通行人が負傷した場合、民法第717条の土地の工作物責任が問題になります。土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者が損害を賠償する責任を負い、占有者が必要な注意をしたときは所有者が責任を負います。

建物を賃借している事業所は「占有者」です。屋根の雪下ろし、雪止めの設置、落雪危険箇所への立入制限、注意表示。これらを怠っていれば、保存の瑕疵として占有者責任を問われます。大家との賃貸借契約で雪下ろしの負担がどちらにあるかは、事業者と大家の間の問題であり、被害者に対する責任の所在を左右しません。

3. 除雪した雪の置き場所——相隣関係

除雪した雪を敷地境界近くに積み上げ、隣地に崩れ落ちる、隣地の日照や通行を妨げる、融雪水が隣地に流れ込む。北海道の事業所でよくある隣地トラブルです。

民法は相隣関係について、隣地の使用、水流、境界などに関する規定を置いています。除雪した雪は事業所の所有物であり、それが隣地に崩れて損害を与えれば、不法行為責任が生じます。また、隣地の土地利用を継続的に妨げる態様で雪を積み上げることは、受忍限度を超えれば違法と評価されます。

実務上の答えは、境界を確認し、雪の置き場所を境界から離し、崩落防止の措置を取り、必要なら排雪業者を手配することです。そして、隣地から苦情が出た場合には、感情的な対立に発展させず、事実を確認して調整する。法的な争いになれば、勝ち負けの前に、地域での事業継続に影響します。

4. 大雪でサービスを提供できない日——報酬はどうなるか

暴風雪で送迎ができない、道路が通れず訪問できない。北海道の冬には現実に起こります。この日の報酬をどう考えるか。

提供していないサービスの報酬は算定できない

原則は明確です。介護報酬は提供したサービスに対して算定するものであり、提供できなかった日の報酬を算定することはできません。天候が理由であっても同じです。この原則を曲げて算定すれば、不正請求になります。

振替と記録

提供できなかったサービスを別の日に振り替えて提供することは、ケアプラン・サービス計画上の位置づけと利用者の同意があれば可能です。振替を行った場合、なぜその日に提供できなかったか、いつ振り替えたか、利用者の同意をいつ得たかを記録に残します。運営指導では、この記録の有無が確認されます。

通所介護の中止と代替対応

通所介護を天候により中止した場合、利用者の状態確認のための電話連絡や訪問を行うことがあります。これは利用者の安全確認として重要ですが、通所介護費として算定できるものではありません。安全確認の記録として残し、報酬とは切り離して扱います。

5. BCPに雪害が組み込まれているか

業務継続計画(BCP)の策定は、令和6年度から未策定減算の対象です。介護施設・事業所における業務継続ガイドラインでは、感染症と自然災害の二つの計画が求められています。

問題は、自然災害編の中身です。地震・水害を想定した雛形をそのまま使い、雪害の想定がないBCPは、北海道の事業所としては実質的に機能しません。運営指導で「BCPはありますか」と問われれば「あります」と答えられますが、暴風雪で職員が出勤できず、送迎車が動かず、停電と断水が同時に起きたときに、その計画は何も示してくれません。

北海道の事業所が組み込むべき想定

  • 暴風雪による職員の出勤不能——最低限の人員でのサービス継続、優先する利用者の判断基準
  • 送迎不能——通所中止の判断基準、利用者・家族への連絡手順、安全確認の方法
  • 訪問不能——訪問介護・訪問看護における優先順位、電話による状態確認、他事業所・家族との連携
  • 停電——暖房の確保、医療機器使用者への対応、非常用電源の有無と燃料
  • 断水・凍結——給水の確保、トイレ・入浴の対応
  • 長期化——3日以上の孤立を想定した備蓄(食料、水、暖房燃料、医薬品)
  • 施設系——入所者の暖房確保が最優先。灯油・ガスの備蓄と供給業者との連絡体制
  • 訓練——冬季を想定した訓練を、実際に冬に入る前(10月〜11月)に実施

BCPの研修・訓練は未策定減算の要件でもあります。雪害を想定した訓練を秋に実施し、記録を残すことは、減算対策と実効性の確保を同時に満たします。

6. 札幌市の除排雪体制と、事業所が自前で備える範囲

札幌市は市道の除排雪を行っていますが、事業所の敷地内、駐車場、玄関前の除雪は事業所の責任です。また、市の除排雪は幹線道路が優先され、生活道路は遅れます。送迎ルートの中に生活道路が含まれていれば、市の除雪を前提にした計画は立てられません。

排雪(積み上げた雪を敷地外へ運び出すこと)は、多くの事業所で業者に委託しています。冬の前に排雪業者と契約し、緊急時の対応も含めて取り決めておくことが、隣地トラブルと落雪事故の両方を防ぎます。

よくある質問

Q. 送迎中のスリップ事故で利用者が負傷しました。運転していた職員に過失はありません。事業者は責任を負いますか。

A. 運行供用者責任(自賠法3条)は運転者の無過失だけでは免責されません。冬道での事故で免責が認められることは極めて稀で、事業者は原則として責任を負います。保険による対応が中心になります。

Q. 建物の屋根から落雪して通行人が負傷しました。建物は賃借です。責任は大家ですか。

A. 占有者である事業者が第一次的に工作物責任を負います。雪下ろしの負担が契約上大家にあっても、被害者に対する責任の所在は変わりません。大家との間の負担は、別途求償の問題になります。

Q. 大雪で通所介護を中止しました。利用者に電話で安否確認をしましたが、報酬は算定できますか。

A. 算定できません。提供していないサービスの報酬は算定できないのが原則です。安否確認は記録に残し、報酬とは切り離して扱います。

Q. BCPは策定済みですが、地震・水害の雛形のままです。問題ありますか。

A. 未策定減算の形式的な要件は満たしているかもしれませんが、北海道の事業所として実効性がありません。雪害の想定を追加し、冬季前に訓練を実施することをお勧めします。

Q. 隣地から「雪をこちら側に積むな」と苦情が来ました。

A. 境界を確認し、雪の置き場所を境界から離し、崩落防止措置を取ってください。苦情の内容と対応を記録し、必要であれば排雪業者を手配します。感情的な対立に発展させないことが、地域での事業継続には重要です。

参考資料(一次資料)

  • 民法第715条(使用者等の責任)、第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)、第709条(不法行為による損害賠償)
  • 自動車損害賠償保障法第3条(自動車損害賠償責任)
  • 厚生労働省 介護施設・事業所における業務継続ガイドライン(自然災害発生時・感染症発生時)
  • 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)
  • 札幌市 雪対策関連ページ(除排雪体制)

ご相談について

北海道の冬に固有の法的問題——送迎事故、落雪、隣地トラブル、大雪時の報酬算定、雪害BCP——について、札幌手稲の事務所として実務的にお手伝いします。雪が降る前の点検をお勧めします。

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