北海道の賃貸物件で冬に起きる法律問題は、四つに整理できます。①屋根からの落雪で人や物に被害が出たときの責任は、土地の工作物責任(民法717条)として占有者と所有者が負う。②水道の凍結破裂は、入居者の水抜き義務の説明と設備側の瑕疵の切り分けで帰責が決まる。③除雪義務は、共用部は賃貸人・管理会社、専用部は契約次第で、契約書に書いていなければ争いになる。④暖房設備が故障して使用できない部分と期間は、民法611条により賃料が当然に減額される。
いずれも、事故や故障が起きてから調べるのでは遅い問題です。契約書と入居時の説明、そして冬前の点検で、責任の所在を先に決めておくことが、管理会社とオーナーを守ります。
この記事では四つの問題それぞれについて条文と考え方を示し、最後に契約書と入居のしおりに入れておくべき条項を整理します。
この記事の内容
- 1. 落雪の責任——民法717条の占有者と所有者
- 2. 水道の凍結破裂——水抜き義務と設備の瑕疵
- 3. 除雪義務の所在——共用部、専用部、駐車場
- 4. 暖房設備の故障と賃料減額——民法611条
- 5. 契約書と入居のしおりに入れておく条項
- よくある質問
1. 落雪の責任——民法717条の占有者と所有者
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
民法第717条第1項
建物は土地の工作物です。屋根からの落雪や落氷で通行人や隣家、駐車中の車に損害が生じた場合、屋根の設置や保存に瑕疵(通常備えるべき安全性を欠いていること)があれば、まず建物の「占有者」が責任を負い、占有者が損害防止に必要な注意をしていたときは「所有者」が責任を負います。所有者の責任は無過失責任であり、注意していたという反論はできません。
賃貸物件では、誰が占有者かが問題になります。建物全体の管理を受託し、共用部や屋根の維持管理を行っている管理会社は、屋根について占有者と評価される可能性があります。オーナーは所有者として、占有者が免責されれば責任を負います。管理会社が「オーナーの物件だから自分たちには関係ない」とは言えず、オーナーが「管理会社に任せているから」とも言えない構造です。
札幌市は建築基準法施行条例12条で、氷雪の落下による危害を防止するための措置を建築物に求めており、雪止め金具の設置や落雪防止機能を備えた屋根材などの方法を示しています。市のページは、措置を講じた建築物でも、新たに氷雪の落下により他に危害を与えるおそれがあることが判明した場合は状況に応じて別途措置を講ずる必要があるとし、確認済証の発行は氷雪が落下しないことを確約するものではないと明記しています。条例上の措置を講じたことは瑕疵の有無の判断で考慮されますが、それだけで免責されるわけではありません。落雪の危険がある箇所に注意表示をする、通路を迂回させる、雪庇を落とす、といった保存上の措置を冬季に継続して行い、記録することが、占有者・所有者双方の防御になります。
2. 水道の凍結破裂——水抜き義務と設備の瑕疵
入居者が冬季に長期不在にし、水抜きをせずに給水管が破裂した。修繕費用と階下への漏水損害を誰が負担するかは、二つの要素で決まります。
入居者側——善管注意義務と通知義務
賃借人は、賃借物を善良な管理者の注意をもって保存する義務を負います(民法400条)。北海道の賃貸住宅で冬季に長期不在にする際に水抜きをすることは、この善管注意義務の内容に含まれると考えられますが、それは入居者が水抜きの必要性と方法を認識していたことが前提です。契約書に水抜き義務が書かれ、入居時に水抜き栓の位置と操作方法を説明し、入居のしおりに記載していれば、水抜きを怠った入居者の責任を問えます。説明の記録がなければ、「知らなかった」という反論を排除できません。また、凍結や漏水を発見した賃借人は遅滞なく賃貸人に通知する義務があり(615条)、通知を怠って被害が拡大した部分は賃借人の責任になります。
設備側——瑕疵と修繕義務
一方、水抜きをしても凍結する構造(配管の断熱不足、凍結防止帯の故障、外壁に接する配管の露出)であれば、設備の瑕疵であり、賃貸人が修繕義務を負います(606条)。入居者が水抜きをしていたのに破裂した場合や、共用部の配管が破裂した場合は、賃貸人負担です。冬前に凍結防止帯の通電確認と配管の点検を行い、記録を残しておくことが、設備側に瑕疵がなかったことの証明になります。
階下への漏水損害は、原因が入居者の過失なら入居者が、設備の瑕疵なら賃貸人(所有者)が、被害者である階下の入居者に対して責任を負います。管理会社の初動は、原因の切り分けと、双方の保険の確認です。保険は種類を分けて確認します。入居者が借りている部屋について貸主に負う賠償責任は借家人賠償責任補償、階下の入居者など第三者に負う賠償責任は個人賠償責任補償、オーナーが建物の所有者・管理者として負う責任は施設賠償責任保険が対象です。凍結による水道管の修理費用なども含め、補償の有無・範囲は保険契約の内容により異なります。
3. 除雪義務の所在——共用部、専用部、駐車場
除雪義務について直接定めた法律はなく、契約と一般的な管理義務の解釈で決まります。共用部(通路、階段、出入口、ごみステーション周り)は、賃貸人が賃借人に使用収益させる義務(601条)と建物の保存義務の一部として、賃貸人・管理会社が除雪する義務を負うのが原則です。共用部の除雪を怠って入居者が転倒すれば、工作物責任や安全配慮の問題になります。
専用部(戸建賃貸の敷地、専用庭、専用駐車区画)の除雪は、契約に定めがあればそれに従い、定めがなければ争いになります。「駐車場の除雪は入居者が行う」「屋根の雪下ろしは賃貸人が行う」「排雪は年○回管理会社が手配し費用は共益費に含む」といった負担区分を契約書に明記してください。札幌市は、民有地の雪を道路(車道・歩道)に出すことを法律で禁止されている行為として注意喚起しています。入居者が敷地の雪を道路に出す行為は、賃貸人・管理会社が近隣から苦情を受ける原因になるため、入居のしおりで禁止事項として明示しておくべきです。
屋根の雪下ろしは、落雪の責任と建物の保全の両面から賃貸人・管理会社の責任範囲です。札幌市は、過大な積雪により建築物が倒壊しないよう、所有者・管理者に早めの雪下ろしと適切な維持管理を求めています。雪下ろしを業者に委託する場合、作業中の事故の責任分担を委託契約で確認しておいてください。
4. 暖房設備の故障と賃料減額——民法611条
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
民法第611条第1項
2020年4月施行の改正民法で、611条は「減額を請求することができる」から「減額される」に変わりました。賃借人の請求を待たず、使用収益できなくなった部分の割合に応じて当然に減額されます。北海道の冬に暖房設備が故障し、修理までの間、居室を通常の用法で使用できなければ、その期間について賃料は減額されます。暖房が使えない部屋が居住不能に近い状態になる北海道では、減額の割合は本州の感覚より大きく評価される余地があります。
賃貸人には修繕義務があり(606条1項)、賃借人の責めに帰すべき事由による故障を除き、速やかに修繕する必要があります。灯油ストーブやFF式暖房機は、国土交通省の原状回復ガイドラインで耐用年数6年の設備とされており、寿命による故障は賃貸人負担です。冬季に故障した場合、修理部品の調達や業者の手配に時間がかかることを見込み、代替暖房機の貸与を用意しておくことが、減額の範囲を小さくし、入居者との紛争を防ぎます。減額の割合と期間は、代替暖房の有無、使用できなかった部屋の範囲、期間の長さで判断されます。管理会社側から割合を提案し、合意を書面にしておく方が、後日の争いを避けられます。
賃借物の残存部分だけでは賃借の目的を達することができない場合、賃借人は契約を解除できます(611条2項)。真冬に暖房がまったく使えない状態が長期間続けば、この解除の問題にもなります。
5. 契約書と入居のしおりに入れておく条項
- 冬季の長期不在時の水抜き義務、水抜き栓の位置と操作方法の説明、不在時の連絡義務
- 凍結・漏水・暖房不調を発見したときの連絡先と連絡義務(民法615条)
- 共用部・専用部・駐車場の除雪と排雪の負担区分、費用の扱い(共益費に含むか実費か)
- 敷地内の雪を道路に出すことの禁止、落雪危険箇所への立入り注意
- 屋根の雪下ろし・雪庇処理の実施主体と、入居者が自ら行わないこと
- 暖房設備の種類・設置年、故障時の連絡先、代替暖房機の貸与の有無
- 灯油タンクの所有関係、給油の手配、油漏れ発見時の連絡義務
- 入居者の借家人賠償責任補償・個人賠償責任補償の加入と、オーナーの施設賠償責任保険の確認
冬前の点検(凍結防止帯の通電、雪止め金具の状態、暖房機の動作、灯油タンクの腐食)を毎年実施し、日付と結果を記録してください。この記録が、落雪・凍結・故障が起きたときに、賃貸人・管理会社が保存上の注意を尽くしていたことの証拠になります。
よくある質問
Q. 屋根から落ちた雪で通行人が怪我をしました。管理会社にも責任がありますか。
A. 屋根を含む建物の維持管理を受託し実際に管理している管理会社は、民法717条の占有者と評価される可能性があり、責任を負い得ます。占有者が損害防止に必要な注意をしていた場合は所有者が責任を負います。雪庇処理や注意表示などの保存措置の記録が防御になります。
Q. 入居者が水抜きをせずに配管が破裂しました。全額請求できますか。
A. 契約書に水抜き義務が明記され、入居時に説明した記録があれば、善管注意義務違反として修繕費用と漏水損害を請求できます。説明の記録がない場合や、水抜きをしても凍結する設備の瑕疵があった場合は、賃貸人負担に傾きます。
Q. 駐車場の除雪は誰がすべきですか。
A. 契約の定めによります。定めがなければ争いになるため、専用区画は入居者、共用通路は管理会社、排雪は年○回管理会社が手配し費用は共益費に含む、といった負担区分を契約書に明記してください。
Q. 暖房が壊れて修理まで1週間かかりました。賃料は下げなければなりませんか。
A. 賃借人に帰責事由がなければ、使用収益できなくなった部分の割合に応じて賃料は当然に減額されます(民法611条1項)。代替暖房機を貸与していれば減額の範囲は小さくなります。割合と期間を提案し、合意を書面にしてください。
Q. 入居者が敷地の雪を道路に出して近隣から苦情が来ました。
A. 札幌市は民有地の雪を道路に出すことを禁止行為として注意喚起しています。入居のしおりと契約書で禁止事項として明示し、繰り返す場合は用法遵守義務違反として書面で警告してください。
参考資料(一次資料)
- 民法(明治29年法律第89号)第400条・第601条・第606条・第611条・第615条・第717条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 札幌市「氷雪の落下による危害を防止するための措置について」(札幌市建築基準法施行条例第12条) https://www.city.sapporo.jp/toshi/k-shido/kakuninn/yukidome/yukidome.html
- 札幌市「落氷雪事故防止」 https://www.city.sapporo.jp/kensetsu/dokan/rakuhyousetsu/rakuhyousetsu.html
- 札幌市「積雪による建築物の倒壊等の防止について」 https://www.city.sapporo.jp/toshi/k-shido/anzen/snow.html
- 札幌市「冬の暮らし・除雪」 https://www.city.sapporo.jp/kensetsu/yuki/index.html
- 国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
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