2025年1月1日から、専任媒介・専属専任媒介で受託した物件をレインズに登録する際、「取引の申込みの受付に関する状況」を登録することが義務になりました。公開中なのか、書面による購入申込みが入っているのか、売主都合で一時紹介を停止しているのか。この登録が事実と異なる場合、宅地建物取引業法65条1項の指示処分の対象になることが、国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」に明記されています。
両手仲介そのものは違法ではありません。違法になるのは、他社からの紹介依頼を「申込みが入っている」「売主が止めている」と偽って断り、自社で買主を見つけるまで物件を抱え込む行為、つまり囲い込みです。改正は、この嘘をレインズ上の登録内容として可視化し、処分の根拠にしたものです。
この記事では、改正の内容、両手仲介と囲い込みの境界、売主に対する説明義務、そして客付業者から問い合わせを受けたときに社内でどう記録するかを整理します。
この記事の内容
- 1. 何が変わったか——施行規則15条の11に「取引の申込みの受付に関する状況」
- 2. 両手仲介と囲い込みの境界
- 3. 売主に対する説明義務
- 4. 社内の運用ルール——記録が身を守る
- 5. 売主側・買主側それぞれの視点
- 6. 施行後の確認チェックリスト
- よくある質問
1. 何が変わったか——施行規則15条の11に「取引の申込みの受付に関する状況」
宅建業法34条の2第5項は、専任媒介契約を締結した業者に、国土交通省令で定める期間内に、物件の所在、規模、形質、売買すべき価額その他省令で定める事項を指定流通機構(レインズ)に登録することを義務づけています。登録期間は専任媒介で契約締結の日から7日、専属専任媒介で5日で、休業日は算入しません(施行規則15条の10)。
省令で定める登録事項は施行規則15条の11に列挙されており、改正でここに「当該宅地又は建物の取引の申込みの受付に関する状況」が加わりました。レインズの実装上は「公開中」「書面による購入申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」の三つの状態を登録します。
宅地建物取引業者は、指定流通機構に物件を登録したときは、登録証明書を交付する際に、レインズのステータス管理機能を通じて当該物件に係る取引の申込みの受付に関する状況等の最新の登録内容が確認できることに関し、依頼者に対して分かりやすく説明を行うことが望ましい。
なお、宅地建物取引業者が専属専任媒介契約及び専任媒介契約に基づき指定流通機構に登録した物件について、当該物件に係る取引の申込みの受付に関する状況等の登録内容が事実と異なるときは、法第65条第1項の指示処分の対象となる。
国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」第34条の2関係 9(1)(令和8年4月1日以降版)
登録内容が事実と異なることが指示処分の根拠になる、というのが改正の核心です。指示処分は宅建業法65条1項に基づく監督処分であり、指示に従わない場合は業務停止処分(同条2項3号)に進みます。処分は公表されるため、地域で営業する仲介会社にとっての影響は処分そのものより公表にあります。
2. 両手仲介と囲い込みの境界
同じ業者が売主と買主の双方を媒介し、双方から報酬を受ける両手仲介は、宅建業法上禁止されていません。売主から専任媒介を受けた業者が、自社の顧客の中から買主を見つけて成約させることも正常な業務です。
囲い込みは、これとは別の行為です。他社(客付業者)から「この物件を紹介したい」「内見させたい」と連絡があったときに、実際には申込みがないのに「申込みが入った」と答える、売主が止めていないのに「売主の都合で紹介停止中」と答える、連絡を放置して内見の機会を与えない。こうして他社の買主を排除し、自社の買主で両手を狙う行為です。売主は、自分の物件がより多くの買主に紹介される機会を奪われ、より高く、より早く売れる可能性を失います。
改正前も、囲い込みは媒介契約上の善管注意義務違反として売主に対する損害賠償の問題になり得ましたし、宅建業法上の不当な行為として監督の対象になる余地はありました。ただ、他社への虚偽の回答を客観的に立証することが困難でした。改正で明確化されたのは、取引状況の登録が省令上の義務となり、その登録内容と事実の食い違いが指示処分の対象になると「解釈・運用の考え方」に明記された点です。改正後は、レインズの登録内容と事実の食い違いという客観的な形で残ります。客付業者が「申込みありと言われたが、レインズでは公開中だった」「レインズでは申込みありだったが、売主に確認したら申込みは入っていなかった」と記録すれば、処分の根拠になります。
3. 売主に対する説明義務
売主が自身の物件の登録内容と取引状況をレインズ上で確認する仕組み(売主専用の物件確認画面)は、2016年1月から導入されています。2025年1月の改正で強化されたのは、取引状況の登録が省令上の義務になったことと、事実と異なる登録が指示処分の対象になることの明確化であり、売主による確認機能そのものの導入時期とは区別する必要があります。「解釈・運用の考え方」は、登録証明書を交付する際に、売主がステータス管理機能で最新の登録内容を確認できることを分かりやすく説明することが望ましいとしています。
宅建業法34条の2第6項は、登録した業者に登録を証する書面を遅滞なく依頼者に引き渡すことを義務づけています。この書面の交付時に、売主が確認できる仕組みを説明し、説明した事実を記録することが、改正後の標準的な運用です。売主が確認できることを前提にすると、業者側で「申込みあり」と登録するには、実際に書面による申込みを受けている必要があり、「一時紹介停止中」と登録するには、売主の指示があったことを記録で示せる必要があります。
4. 社内の運用ルール——記録が身を守る
改正後の仲介会社に必要なのは、レインズの登録内容を常に事実と一致させる運用と、一致していることを後から示せる記録です。
- 取引状況の登録変更は、書面による購入申込書の受領、または売主からの紹介停止の指示(メール・書面)を確認してから行い、根拠書類を物件ファイルに保存する
- 購入申込みが撤回・不成立となったときは、直ちに「公開中」に戻す。戻し忘れが「事実と異なる登録」になる
- 客付業者からの問い合わせ(日時・業者名・内容・回答)を記録する。「申込みあり」「紹介停止中」と回答した場合は、レインズの登録内容と一致していることを確認する
- 売主に対して、登録証明書交付時にステータス管理機能の説明を行い、説明日と方法を記録する
- 専任媒介の業務処理状況報告(2週間に1回以上、専属専任は1週間に1回以上、34条の2第9項)に、問い合わせ件数と内見件数を含める
- 成約時はレインズへの成約情報の通知(34条の2第7項、施行規則15条の13)を確実に行う。通知漏れも法違反になる
とくに二つ目と三つ目は、意図的な囲い込みをしていない会社でも違反になり得る場面です。申込みが流れた後に登録を戻し忘れたまま他社に「申込みあり」と伝えれば、結果として事実と異なる登録と説明になります。担当者個人の記憶ではなく、物件ファイルの記録で回す仕組みにしてください。
5. 売主側・買主側それぞれの視点
売主から相談を受けたとき
売主が「他社から内見の申込みがあったはずなのに断られていたらしい」と疑いを持った場合、売主自身がレインズで登録内容を確認できるようになったことを伝え、媒介業者に業務処理状況の報告を求めるよう助言できます。媒介契約上の義務違反が疑われれば、契約の解除と損害賠償の問題になり、行政への申出も選択肢になります。
客付業者として断られたとき
「申込みあり」と回答されたら、レインズの登録内容を確認し、日時と回答内容を記録してください。登録が「公開中」のままなら、その食い違いが記録として残ります。買主に対しては、他社の対応を断定的に非難するのではなく、事実として「現在申込みが入っていると回答を受けた」ことを伝え、状況が変わり次第連絡する、という対応が適切です。
6. 施行後の確認チェックリスト
- レインズ登録時に取引状況(公開中・申込みあり・一時紹介停止中)を登録する手順を業務フローに組み込んだ
- 取引状況の変更は根拠書類(申込書・売主指示)の確認後に行うルールを定めた
- 申込み不成立時に「公開中」へ戻す担当と期限を決めた
- 客付業者からの問い合わせ記録の様式を用意した
- 登録証明書交付時に売主へステータス管理機能を説明し、記録している
- 業務処理状況報告に問い合わせ・内見の件数を記載している
- 成約情報のレインズ通知を確実に行っている
- 囲い込みが指示処分・業務停止・公表の対象になることを営業担当者に周知した
よくある質問
Q. 両手仲介は違法になったのですか。
A. なっていません。両手仲介自体は宅建業法上認められています。違法となるのは、他社からの紹介を虚偽の理由で断る囲い込みであり、改正はその虚偽をレインズの登録内容として可視化し、指示処分の根拠にしたものです。
Q. 一般媒介の物件も取引状況の登録が必要ですか。
A. 登録義務は専任媒介・専属専任媒介に課されています(34条の2第5項)。一般媒介で任意にレインズ登録した場合も、登録するなら事実と一致させるべきですが、義務の根拠は異なります。
Q. 売主から「他社には紹介しないでほしい」と言われました。
A. 売主の指示があれば「売主都合で一時紹介停止中」と登録できます。指示は書面またはメールで受け、保存してください。口頭の指示だけでは、後日「そんな指示はしていない」と言われたときに事実と異なる登録と評価されるおそれがあります。
Q. 申込みが入ったので「申込みあり」にしましたが、その後キャンセルされました。
A. 直ちに「公開中」に戻してください。戻し忘れの間に他社へ「申込みあり」と回答すれば、事実と異なる登録・説明になります。
Q. 囲い込みをされた売主は、業者に何を請求できますか。
A. 媒介契約上の善管注意義務違反として、契約解除と損害賠償の問題になります。損害の立証は容易ではありませんが、改正後はレインズの登録記録と売主自身の確認履歴が証拠になり得ます。行政への申出も選択肢です。
参考資料(一次資料)
- 宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第34条の2・第65条 https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176
- 宅地建物取引業法施行規則(昭和32年建設省令第12号)第15条の10・第15条の11・第15条の13 https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50004000012
- 国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(令和8年4月1日以降版) https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001881261.pdf
- 国土交通省「不動産業:宅地建物取引業法 法令改正・解釈について」 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000268.html
- 国土交通省報道発表「レインズの機能強化について、物件の売主向けのリーフレットを作成しました!」(令和6年12月24日) https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00087.html
- 国土交通省不動産・建設経済局不動産業課 レインズ機能強化に関する売主向けリーフレット https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001853467.pdf
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