定期借家契約の三つの要件——書面と事前説明を欠けば普通借家に、終了通知を欠けば6か月間は終了を対抗できない

不動産事業者向け

定期借家契約には、性質の異なる三つの要件があります。①契約を書面(または電磁的記録)で行うこと、②契約前に「更新がなく期間満了で終了する」旨を記載した書面を交付して説明すること、③期間が1年以上なら、満了の1年前から6か月前までの間に終了通知をすること。①②を欠けば、更新がない旨の定めが無効となり、契約は普通借家として扱われ、更新拒絶には正当事由が必要になります。③を怠った場合は、契約が普通借家に変わるのではなく、遅れて通知した日から6か月を経過するまで、期間満了による終了を借主に対抗できません。効果が違うので、分けて理解する必要があります。

2022年5月18日以降、契約と事前説明の書面は電磁的方法で代替できるようになりました。便利になった反面、「借主の承諾を得て」という要件と、事前説明書面が契約書とは別の書面であることを見落とす事例が増えています。

この記事では、38条の各要件、電子化の条件、中途解約、賃料改定特約、そして契約終了時の再契約の扱いを、管理会社が契約書式と運用を点検できる順に整理します。

この記事の内容

1. 三つの要件——書面、事前説明、終了通知

① 書面(電磁的記録)による契約

期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。

借地借家法第38条第1項

「公正証書による等書面」とあるので、公正証書は例示であり、私署の契約書で足ります。2項は、契約が「その内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなす」と定めており、電子契約が可能です。口頭の合意やメールのやり取りだけでは要件を満たしません。

② 事前説明書面の交付と説明

第一項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。

借地借家法第38条第3項

38条5項は、この説明をしなかったときは「契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする」と定めています。最も多い失敗がここです。契約書の中に「本契約は更新がなく期間満了により終了する」と書いてあっても、契約書とは別に事前説明書面を交付し、説明したことが必要と解されています。契約書に説明条項を入れただけで「説明済み」と扱っている書式は、争われたときに定期借家性を否定される危険があります。

説明は「あらかじめ」、つまり契約締結前に行います。契約当日に契約書と一緒に渡して同時に署名させる運用でも、契約書への署名より前に説明書面を交付して説明していれば要件を満たすと考えられますが、順序と時間を記録に残してください。説明書面に借主の受領署名欄を設け、日付を書かせる運用が標準です。

③ 終了通知——期間満了の1年前から6か月前まで

第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。

借地借家法第38条第6項

期間1年以上の定期借家では、満了の1年前から6か月前までの間に終了通知が必要です。通知を忘れても契約が普通借家に変わるわけではありませんが、遅れて通知した場合、その通知から6か月経過するまで終了を対抗できません。管理会社が管理する物件の数が多いほど、この通知漏れが起きます。契約管理システムに満了日から逆算した通知期限を登録し、通知は配達証明付きで行い、控えを保管することが実務です。期間1年未満の定期借家には通知義務はありません。

2. 2022年5月18日の電子化——電磁的記録と電磁的方法

デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)による借地借家法の改正が2022年5月18日に施行され、二つの電子化が可能になりました。

  • 契約の電磁的記録(38条2項)——電子契約システム等で締結した定期借家契約は、書面による契約とみなされる。借主の承諾は要件になっていないが、電子契約を用いること自体に双方の合意が必要
  • 事前説明書面の電磁的方法による提供(38条4項)——賃貸人は「建物の賃借人の承諾を得て」、書面に記載すべき事項を電磁的方法(法務省令で定めるもの)で提供できる。この場合、書面を交付したものとみなされる

事前説明書面の電子提供には、借主の承諾が要件です。承諾を得た事実を記録に残さないまま電子提供すると、説明書面の交付がなかったと主張される余地を残します。承諾は書面またはメールで取得し、提供した電子ファイルと送信記録を保管してください。また、電子化されたのは書面の交付方法であり、「説明」の義務自体はなくなっていません。オンラインで説明する場合も、説明した日時と内容を記録します。

3. 中途解約——借主に認められる場合と、特約の限界

38条7項は、床面積200平方メートル未満の居住用建物の定期借家について、転勤、療養、親族の介護その他やむを得ない事情により借主が建物を生活の本拠として使用することが困難となったときは、借主が解約を申し入れることができ、申入れの日から1か月で契約が終了すると定めています。8項により、6項・7項に反する特約で借主に不利なものは無効です。

つまり、居住用200平方メートル未満の定期借家では、契約書に「中途解約はできない」と書いても、やむを得ない事情がある借主の解約権は排除できません。事業用の定期借家や200平方メートル以上の居住用では7項は適用されず、中途解約の可否は契約の定めによります。中途解約条項を置かない事業用定期借家では、借主は期間満了まで賃料支払義務を負うことになり、この点はテナント側にとって重い条件になります。

4. 賃料改定特約——32条の排除

38条9項は、定期建物賃貸借において賃料の改定に係る特約がある場合、借地借家法32条(賃料増減請求権)を適用しないと定めています。「契約期間中は賃料を改定しない」「毎年○%増額する」「指数に連動して改定する」といった特約を置けば、法定の増減請求は排除され、特約どおりに賃料が決まります。普通借家では不可能な賃料の固定が、定期借家では可能です。この点は別の記事で詳しく扱っています。

5. 期間満了後の扱い——再契約と、居座りへの対応

定期借家は期間満了で終了し、更新はありません。同じ借主に住み続けてもらう場合は、新たな定期借家契約を締結する「再契約」になります。再契約も定期借家として有効にするには、①書面、②事前説明書面の交付と説明、③(1年以上なら)終了通知の三要件を改めて満たす必要があります。「前回説明したから今回は不要」ではありません。再契約のたびに事前説明書面を交付し、記録を残してください。

終了通知をしたにもかかわらず借主が退去しない場合、貸主は建物明渡請求訴訟を提起し、判決に基づいて強制執行することになります。定期借家であれば、普通借家の更新拒絶に必要な「正当の事由」(28条)は不要ですが、自力で鍵を換えたり荷物を出したりすることは、普通借家と同じく自力救済として違法です。

6. 契約書式と運用のチェックリスト

  • 定期借家契約書とは別に、更新がなく期間満了で終了する旨を記載した事前説明書面の様式がある
  • 事前説明書面は契約締結前に交付・説明し、借主の受領署名と日付を取得している
  • 電子契約・電子提供を使う場合、借主の承諾を書面またはメールで取得し、送信記録を保管している
  • 契約管理システムに、期間満了1年前と6か月前の終了通知期限を登録している
  • 終了通知は配達証明付きで行い、控えを保管している
  • 居住用200平方メートル未満の物件で、借主の中途解約権を排除する条項を置いていない
  • 賃料改定特約は具体的に記載し、32条を排除する意図を説明書面にも反映している
  • 再契約のたびに事前説明書面の交付・説明を行っている

よくある質問

Q. 契約書に「更新はなく期間満了で終了する」と書いてあれば、別の説明書面は不要ですか。

A. 契約書とは別の書面を交付して説明することが必要と解されています。契約書の条項だけで済ませている書式は、争われたときに更新がない旨の定めが無効とされ、普通借家として扱われる危険があります。

Q. 終了通知を忘れて満了日を過ぎてしまいました。契約は普通借家になりますか。

A. 普通借家に変わるわけではありませんが、遅れて通知した日から6か月経過するまで、終了を借主に対抗できません。直ちに通知を出し、6か月後の明渡しを求めることになります。

Q. 事前説明をオンラインで行い、書面はPDFで送っています。有効ですか。

A. 借主の承諾を得ていれば、電磁的方法による提供は書面の交付とみなされます(38条4項)。承諾の記録、送信記録、説明の日時・内容の記録を残してください。説明そのものを省略することはできません。

Q. 借主から「転勤になったので解約したい」と言われました。契約書には中途解約不可と書いてあります。

A. 居住用で床面積200平方メートル未満の建物であれば、転勤等のやむを得ない事情による借主の解約申入れは認められ、1か月で終了します(38条7項)。これに反する借主に不利な特約は無効です(8項)。

Q. 同じ借主と再契約するとき、事前説明はまた必要ですか。

A. 必要です。再契約は新たな定期借家契約であり、書面、事前説明書面の交付・説明、終了通知の要件を改めて満たさなければ、定期借家として扱われません。

参考資料(一次資料)

ご相談について

当事務所では、定期借家契約書と事前説明書面の様式整備、電子契約導入時の要件確認、終了通知の管理体制、期間満了後の明渡し対応をお受けしています。現在お使いの書式をお持ちいただければ、定期借家性が否定される危険のある箇所を具体的にお示しします。

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