指定取消と効力停止はどう決まるか——監査マニュアルの処分量定表を読む

介護事業者向け

監査を受けた事業者が最も知りたいのは、「自分の事業所はどうなるのか」です。行政処分には段階があり、その段階は厚生労働省の監査マニュアルに処分量定として整理されています。この記事では、その量定表を読み、各段階の意味、指定取消の効果、そして処分の前に設けられる聴聞・弁明の機会で何を主張すべきかを整理します。

結論を先に書けば、指定取消と効力停止の間には、事業の生死を分ける決定的な差があります。弁護士が介入する最大の目的は、この差を守ることにあります。

この記事の内容

1. 処分の階梯——A級からC級、そして指定取消

厚生労働省老健局の「介護保険施設等に対する監査マニュアル」(令和6年4月)は、行政処分の量定を級と号で整理しています。マニュアルに掲載されている態様と内容の対応は、概ね次のとおりです。

  • A級——勧告(人員基準違反、運営基準違反時のみ)、勧告以外の行政指導
  • B級-1号——指定の一部効力停止 1月(新規利用者受入停止等)
  • B級-2号——指定の一部効力停止 3月(新規利用者受入停止等)
  • B級-3号——指定の一部効力停止 6月(新規利用者受入停止等)
  • B級-4号——指定の一部効力停止 1年(新規利用者受入停止等)
  • C級-1号——指定の全部効力停止 1月
  • C級-2号——指定の全部効力停止 3月
  • (以下、全部効力停止の期間が延び、最終的に指定取消へ至る)

A級は行政指導であり、処分ではありません。B級以上が行政処分です。B級は「一部」効力停止で、典型的には新規利用者の受入停止です。既存の利用者へのサービスは継続できます。C級は「全部」効力停止で、期間中はサービス提供そのものができません。そして最終段階が指定取消です。

2. 一部効力停止と全部効力停止の差

B級の一部効力停止では、既存利用者へのサービスは続けられます。売上は新規分が止まるだけで、事業は動き続けます。C級の全部効力停止では、期間中の売上がゼロになります。1か月でも、多くの事業所にとって資金繰り上の重大な打撃です。3か月なら、職員の雇用維持が困難になります。

ただし、効力停止は期間の経過によって終わります。期間を耐えれば、事業は再開できます。ここが、次に述べる指定取消との決定的な違いです。

3. 指定取消の効果——5年間の欠格

指定取消は、介護保険法第77条等に基づく処分で、事業所の指定そのものを取り消します。効果は事業所の閉鎖にとどまりません。

介護保険法は、指定の申請者が、指定を取り消された日から起算して5年を経過しない者である場合等に、指定をしてはならないと定めています(介護保険法第70条第2項の欠格要件)。この欠格は、法人だけでなく、その役員等にも及びます。つまり、指定を取り消された法人の役員は、別の法人を立てても、5年間は新たな指定を受けることができません。

事業の再開が閉ざされる。役員個人の職業にも影響する。これが指定取消の重さです。効力停止であれば期間の経過で再開できるものが、指定取消では5年間閉ざされます。

4. 量定を分ける要素

どの級・号に当たるかは、違反の内容と態様、そして事業者の対応によって決まります。監査マニュアルおよび実務上、量定に影響する要素として整理できるものを挙げます。

重くする方向

  • 不正請求の額が大きい、期間が長い
  • 組織的な関与がある(経営者・管理者が主導、複数職員が関与)
  • 利用者の生命・身体に危険を及ぼした
  • 虚偽の報告、資料の隠匿・改ざん
  • 過去に指導・処分を受けており、繰り返している
  • 監査への非協力

軽くする方向

  • 自主的な申告
  • 返還への協力、不正の範囲の自主的な特定
  • 再発防止策の具体性と実施状況
  • 特定の職員の行為であり、事業者としての管理体制に一定の合理性があったこと
  • 利用者への影響が限定的であったこと

重要なのは、これらの要素の多くが「監査が始まってからの対応」によって左右されるということです。違反の事実そのものは変えられませんが、その後の対応は変えられます。

5. 聴聞と弁明の機会——処分前の手続

行政処分を行う前には、行政手続法に基づく手続があります。行政手続法第13条は、不利益処分をしようとする場合、原則として、許認可等の取消しなど重い処分については「聴聞」、それ以外の処分については「弁明の機会の付与」の手続を執らなければならないと定めています。

指定取消は許認可の取消しに当たり、聴聞の対象です。効力停止は弁明の機会の付与の対象になることが多いですが、処分の内容によります。

聴聞・弁明で主張すべきこと

聴聞は、処分の理由となる事実について、事業者側が意見を述べ、証拠を提出する機会です。ここで主張すべきは、次の点です。

  1. 事実認定に対する反論——行政が認定した事実に誤りがあれば、資料をもって示す
  2. 評価に対する反論——事実は認めるが、不正ではなく誤りである、組織的ではなく個人の行為である、といった評価の争い
  3. 量定に対する主張——仮に処分が避けられないとしても、指定取消ではなく効力停止にとどめるべき事情
  4. 再発防止策の提示——既に実施した措置と、今後の計画

聴聞の場で初めて主張を組み立てるのでは遅すぎます。監査の段階から、聴聞で何を主張するかを見据えて資料を整えておく必要があります。

6. 処分の公表

行政処分は公表されます。北海道・札幌市も、処分を行った事業者の名称、処分内容、処分理由を公表しています。公表は、利用者・家族、他の事業者、金融機関の目に触れます。処分の期間が終わっても、公表された情報は残ります。

効力停止であれば期間終了後に事業を再開できますが、公表の影響は残ります。再開後の利用者確保、職員の採用、取引先との関係。処分そのものと同時に、公表後の事業継続の計画を立てる必要があります。

よくある質問

Q. 監査を受けています。指定取消になりますか。

A. 処分の量定は違反の内容・態様と事業者の対応で決まります。監査を受けているからといって指定取消が予定されているわけではなく、A級(行政指導)で終わる場合も、処分に至らない場合もあります。

Q. 効力停止の期間中、既存の利用者へのサービスはどうなりますか。

A. 一部効力停止(B級)であれば既存利用者へのサービスは継続できます。全部効力停止(C級)では期間中サービス提供ができないため、利用者の他事業所への引継ぎが必要になります。

Q. 指定取消を受けた法人の役員は、別の法人で介護事業を始められますか。

A. 指定取消の日から5年間は、役員等にも欠格が及び、新たな指定を受けることができません。

Q. 聴聞には弁護士が出席できますか。

A. 行政手続法上、当事者は代理人を選任できます。弁護士が代理人として出席し、意見陳述と証拠提出を行うことができます。

Q. 処分の公表は消せますか。

A. 行政による公表は一定期間掲載されるのが通常で、事業者側から削除を求めることは困難です。処分の量定を争う段階で、公表の影響も含めた対応を検討する必要があります。

参考資料(一次資料)

  • 厚生労働省老健局 介護保険施設等に対する監査マニュアル(令和6年4月) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001259199.pdf
  • 介護保険法第70条第2項(指定の欠格要件)、第77条(指定の取消し等)、第76条(報告等)
  • 行政手続法第13条(不利益処分をしようとする場合の手続)、第16条(代理人)
  • 介護保険施設等の指導監督について(令和4年3月31日老発0331第6号)

ご相談について

監査の通知を受けた段階、あるいは聴聞・弁明の機会の通知を受けた段階でご相談ください。事実認定と評価の争い、量定に関する主張、再発防止策の組み立てを、事案に応じて整理します。聴聞の場で初めて主張を組み立てるのでは間に合いません。

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