札幌市の運営指導は何を見るのか——札幌市指導監査要綱を読み解く

介護事業者向け

運営指導の通知が届いたとき、多くの事業者が最初に開くのは全国向けの解説記事です。しかし実際に来るのは札幌市の職員であり、その職員が依拠しているのは、札幌市が自ら定めた「札幌市介護保険施設等指導監査要綱」です。この要綱は市のウェブサイトで公開されています。読めば、何を、どの頻度で、どういう手順で見に来るのかが書いてあります。

この記事では、要綱の条文に沿って、札幌市の運営指導の仕組みを整理します。あわせて、毎年公開されている集団指導資料のどこを見るべきかも書きます。

この記事の内容

1. 札幌市指導監査要綱とは何か

正式名称は「札幌市介護保険施設等指導監査要綱」。平成24年4月1日に保健福祉局長決裁で定められ、直近では令和6年5月13日に改正されています。国の「介護保険施設等の指導監督について」(令和4年3月31日老発0331第6号厚生労働省老健局長通知)を受けて、札幌市が自らの指導監督の方針・形態・手順を定めたものです。

要綱は、指導の目的を、介護給付等対象サービスの取扱いと介護報酬請求に関する事項について「周知徹底とその遵守を図ること」と定めています。処分の手続ではなく、遵守を促す手続だという位置づけが明確です。

2. 指導の二形態——集団指導と運営指導

集団指導

要綱は、集団指導を「年1回以上、一定の場所に集めて講習等の方法により行う」ものと定めています。内容は、介護給付等対象サービスの取扱い、介護報酬請求の内容、制度改正内容、そして高齢者虐待事案を始めとした過去の指導事例に基づく指導内容です。オンラインやホームページ掲載による実施も認められています。

この「過去の指導事例に基づく指導内容」という部分が重要です。集団指導資料には、札幌市が実際の運営指導で何を指摘してきたかが反映されています。運営指導の準備は、集団指導資料を読むことから始まります。

運営指導

個別の事業所に対して行う指導です。要綱は、運営指導を次の三つに区分しています。

  1. 介護サービスの実施状況指導——個別サービスの質に関する指導。施設・設備や、利用者等に対するサービスの提供状況を含む
  2. 最低基準等運営体制指導——基準等に規定する運営体制に関する指導。人員基準、運営規程、各種委員会の設置・開催など
  3. 報酬請求指導——加算等の介護報酬請求の適正実施に関する指導

この三区分は、当日に確認される文書の種類とそのまま対応しています。自己点検も、この三つの区分で分けて行うと漏れが出ません。

3. 実施頻度——6年に1回は必ず来る

要綱は、運営指導を「原則として、指定又は許可の有効期間内に少なくとも1回以上」行うと定めています。介護保険法に基づく指定の有効期間は6年ですから、6年に1回は必ず来ることになります。

さらに、居宅サービスのうち居住系サービス、地域密着型サービスのうち居住系・施設系サービス、施設サービスについては「3年に1回以上の頻度で行うことが望ましい」とされています。グループホーム、特定施設、特別養護老人ホーム等は、より短い周期を想定しておくべきです。

4. 通知時期——おおむね1か月前

国の運営指導マニュアル(令和4年3月策定、令和6年7月改訂)は、運営指導について「実施予定日のおおむね1月以上前までに当該介護保険施設等に対し実施する旨の通知を行います」と記載しています。札幌市も同様の運用です。

ただし、同マニュアルは「緊急時等、必要に応じ速やかな状況確認が必要な場合、事前に通知を行わず」に運営指導を行う場合があることも記載しています。事前通知のない運営指導は例外ですが、制度上は存在します。

5. 自己点検——要綱が「励行」を明記している意味

要綱は、運営指導の実施にあたって「基準等への適合性に関し、事業者による自己点検を励行するものとし」と定めています。行政が来る前に、事業者自身で点検しておけ、という趣旨です。

これは単なる推奨ではありません。自己点検をしていれば、運営指導で指摘された事項について「認識していたが改善が遅れていた」と「認識していなかった」の差が生じます。前者は改善の意思があると評価されますが、後者は運営体制そのものへの疑義につながります。

6. 当日に確認されるもの——確認文書の原則

国のマニュアルは、運営指導において「確認文書以外の文書は原則求めないものと介護保険施設等指導指針において定めており」と記載しています。つまり、確認項目と確認文書はあらかじめ標準化されていて、それ以外のものを持ってこいとは原則言われません。

確認文書の一覧はマニュアルの別添に、サービス種別ごとに掲載されています。自己点検は、この一覧を印刷して、一項目ずつ現物を確認する作業です。

ただし、マニュアルには「内容に不備がある等、確認文書では確認項目が確認できない場合は、当該確認文書以外の文書等を提示等するよう介護保険施設等側に求めることは可能です」ともあります。確認文書に不備があると、確認の範囲が広がります。

7. 令和7年度集団指導資料の読み方

札幌市は令和7年度の集団指導資料をウェブサイトに掲載しています。すべての事業所を対象とする「共通事項」と、サービス種別ごとの資料に分かれています。

  • 共通事項——制度改正、虐待防止、身体拘束、BCP、各種減算の取扱いなど、全サービスに共通する指摘事項
  • サービス種別資料——訪問介護、訪問看護、居宅介護支援など、種別ごとの人員・運営基準と報酬請求上の留意点

読み方の要点は、「留意事項」「指摘事例」「よくある誤り」といった見出しの部分を先に読むことです。そこに書かれているのは、札幌市が過去の運営指導で実際に見つけた問題です。同じことをしていれば、指摘されます。

8. 通知が届いてからの30日——準備の工程

おおむね1か月前に通知が来るとして、週ごとに何をするかを示します。

第1週——全体把握

  • 通知文書を確認し、対象サービス、日時、出席を求められている者、事前提出書類を把握する
  • 国のマニュアル別添から、該当サービスの確認項目・確認文書一覧を印刷する
  • 集団指導資料の該当部分を読み、指摘されやすい項目に印をつける

第2週——三区分での自己点検

  • 運営体制——人員基準(勤務表と実態の一致)、運営規程、重要事項説明書、各種委員会の議事録、研修記録、BCP
  • サービス実施——ケアプランとサービス提供記録の整合、モニタリング、利用者・家族への説明と同意
  • 報酬請求——算定している加算の要件を一つずつ確認し、根拠資料を揃える

第3週——不備の整理

  • 不備が見つかった項目を、当日までに改善できるものと、改善に時間を要するものに分ける
  • 時間を要するものは、改善計画の形で説明できるよう準備する
  • 複数の職員が対応する場合、説明の統一を図る

第4週——当日想定

  • 想定問答を作る。とくに加算の算定根拠と、記録の不備について
  • 当日の応対者、資料の配置、説明の順序を決める
  • 推測や記憶に基づく断言をしない、という共通認識を持つ

よくある質問

Q. 札幌市の運営指導は、北海道の運営指導とどう違うのですか。

A. 指定権者が札幌市であるサービスは札幌市が、北海道であるサービスは北海道が行います。居宅サービスの多くは政令市である札幌市が指定権者です。要綱の内容は概ね国の指針に沿っていますが、細部の運用は自治体ごとに異なります。

Q. 通知が来る前に自己点検を始めるべきですか。

A. 要綱が自己点検の励行を明記している以上、通知の有無に関係なく年に1回程度は行うのが適切です。通知が来てから始めると、改善の時間が足りません。

Q. 集団指導に出席しないと不利になりますか。

A. 要綱上、集団指導は事業者に対して行うものとされており、資料の確認状況をアンケートで回答するよう求められる年度もあります。出席・確認の記録は残しておくべきです。

Q. 運営指導で弁護士を同席させると、印象が悪くなりませんか。

A. 目的は対立ではなく、説明の統一と論点の管理です。丁寧に応対しつつ、不要な論点を広げないために同席する、という位置づけであれば、印象が悪くなることは通常ありません。

Q. 確認文書一覧にない書類を求められました。

A. 確認文書で確認項目が確認できない場合には、他の文書の提示を求めることが可能とされています。求められた理由を確認し、記録しておいてください。

参考資料(一次資料)

ご相談について

当事務所は札幌市手稲区にあり、札幌市・石狩市・小樽市の介護事業者の運営指導対応をお受けしています。通知が届いた段階でご連絡いただければ、自己点検の進め方と当日の想定問答を一緒に組み立てます。運営指導は準備が終わってから相談するのでは間に合わないことが多いです。

運営指導・監査・労務でお困りではありませんか

通知が届いた、指摘を受けた、返還を求められている、職員との間で問題が起きている。介護・障害福祉の現場で起きる問題は、制度と実務の両方を知らなければ対応できません。

札幌手稲ポプラの丘法律事務所は、弁護士として約17年の実務経験をもとに、札幌市・石狩市・小樽市の介護・障害福祉事業者の法務をお受けしています。就業規則の整備、運営指導への同席、返還請求への対応、処分に対する弁明まで。

準備が終わってから相談するのでは、間に合わないことが多いです。

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