2024年4月1日以降、相続で不動産を取得した人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務を負い、正当な理由なく怠れば10万円以下の過料の対象になります。施行日より前に相続で取得したことを知っていた未登記の不動産は、原則として2027年3月31日までに登記が必要です(施行後に取得を知った場合は、知った日から3年以内が基本です)。空家については、2023年12月13日施行の改正空家法で「管理不全空家」の区分が新設され、勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例が外れる仕組みになりました。
不動産業者にとっての意味は、登記名義人が亡くなっている物件が、放置される物件から動かさざるを得ない物件に変わったということです。相続人からの売却相談、空家所有者からの処分相談は今後増えます。同時に、仕入れと仲介の場面で、誰が売主なのか、遺産分割は済んでいるのか、相続人は全員特定できるのかを確認しないまま契約すれば、決済できない取引になります。
この記事では、相続登記義務化の内容、空家法改正の内容、そして名義人死亡物件を扱うときの実務手順と札幌市の空家対策の窓口を整理します。
この記事の内容
- 1. 相続登記義務化——不動産登記法76条の2
- 2. 空家法改正——管理不全空家と住宅用地特例の解除
- 3. 登記名義人が亡くなっている物件——仕入れ・仲介の手順
- 4. 札幌市の空家対策——窓口と制度
- 5. 実務チェックリスト
- よくある質問
1. 相続登記義務化——不動産登記法76条の2
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
不動産登記法第76条の2第1項
義務の起算点は、相続の開始と所有権の取得の両方を知った日です。法定相続分で登記した後に遺産分割があった場合は、分割の日から3年以内に分割による移転登記を申請する義務が別に生じます(同条2項)。正当な理由がないのに申請を怠った者は、10万円以下の過料に処されます(同法164条1項)。法務省の説明では、過料は登記官の催告を経て、期限内に登記がなければ裁判所に通知され、裁判所が判断する手続です。
施行日である2024年4月1日より前に発生した相続については、相続による所有権の取得を知った日と施行日のいずれか遅い日から3年以内が期限です。したがって、施行日より前に取得を知っていた場合は、原則として2027年3月31日までに登記する必要があります。施行後になって初めて対象不動産の相続を知った場合は、その知った日から3年以内が基本であり、すべてが2027年3月31日になるわけではありません。法務省が「正当な理由」の例として挙げるのは、相続人が極めて多数で戸籍等の収集に時間を要する、遺言の有効性や遺産の範囲が争われている、相続人が重病である、配偶者からの暴力の被害者で避難中である、経済的に困窮している、といった場合です。「面倒だった」「知らなかった」は正当な理由になりません。
相続人申告登記——義務を果たす簡易な方法
遺産分割がまとまらない、相続人が多くて書類が揃わない、という場合のために、相続人申告登記が新設されました(76条の3)。所有権の登記名義人について相続が開始したこと、自らがその相続人であることを登記官に申し出れば、申出をした相続人は申請義務を履行したものとみなされます。特定の相続人が単独で申し出ることができ、戸籍で自分が相続人であることを示せば足ります。ただし、これは所有権の移転登記ではないため、相続人申告登記だけでは不動産を売却したり抵当権を設定したりすることはできません。売買の場面では、正式な相続登記が前提になります。
2. 空家法改正——管理不全空家と住宅用地特例の解除
空家等対策の推進に関する特別措置法は2023年12月13日施行の改正で、従来の「特定空家等」(そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態等)の手前に、「管理不全空家等」の区分を設けました。
市町村長は、空家等が適切な管理が行われていないことによりそのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にあると認めるときは、当該状態にあると認められる空家等(以下「管理不全空家等」という。)の所有者等に対し、基本指針(第六条第二項第三号に掲げる事項に係る部分に限る。)に即し、当該管理不全空家等が特定空家等に該当することとなることを防止するために必要な措置をとるよう指導をすることができる。
空家等対策の推進に関する特別措置法第13条第1項
指導をしても改善されず、特定空家等になるおそれが大きいときは、市町村長は修繕や立木竹の伐採などの具体的な措置を勧告できます(13条2項)。この勧告を受けた管理不全空家等の敷地は、固定資産税の住宅用地特例(課税標準の軽減)の対象から外れます。特定空家等については、助言・指導、勧告、命令、行政代執行の手続が22条に定められており、命令に従わない場合の代執行や、所有者を確知できない場合の略式代執行も規定されています。
不動産業者にとっての実務上の意味は、空家所有者が「固定資産税が上がるなら売る」「除却して土地で売る」と動くきっかけが増えたことです。同時に、管理不全空家や特定空家として指導・勧告を受けている物件を仲介・仕入れする場合、その事実は買主の判断に重要な影響を及ぼす事項であり、重要事項説明や告知書で扱う必要があります。
3. 登記名義人が亡くなっている物件——仕入れ・仲介の手順
相談者が「親が亡くなって家が空いている」「祖父名義のままの土地を売りたい」と来たとき、業者が最初に確認するのは、誰が売主になれるのかです。
- 登記事項証明書で名義人を確認する。名義人が死亡していれば、相続登記が済むまで名義人からの売却はできない
- 相続人を確定する。被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人の現在戸籍を集め、相続関係説明図を作る。数次相続(相続人がさらに亡くなっている)があれば、相続人の範囲は広がる
- 遺言の有無を確認する。公正証書遺言は公証役場で検索でき、自筆証書遺言は法務局の保管制度の利用の有無を確認する
- 遺産分割の状況を確認する。分割協議が済んでいれば協議書を、済んでいなければ全相続人の合意が得られる見込みを確認する
- 相続登記の申請を司法書士に依頼する。売買の決済と同時に相続登記と所有権移転登記を連件で申請する運用が一般的だが、相続人全員の協力が前提
- 相続人の一部と連絡が取れない、行方不明、協力を拒む場合は、不在者財産管理人の選任、遺産分割調停など家庭裁判所の手続が必要になり、業者だけでは進められない。この段階で弁護士に相談する
相続人の一人が「自分が全部相続することになっている」と言っても、遺産分割協議書か遺言がなければ、その人だけを売主として契約することはできません。手付金を受領した後に他の相続人が現れて決済できなくなる事例は、この確認を飛ばしたときに起きます。
相続人が全く分からない、または相続人がいない場合
相続人の存否が明らかでない場合、利害関係人は家庭裁判所に相続財産清算人の選任を請求できます(民法952条)。選任された清算人が財産を管理・清算し、公告を経て、最終的に国庫に帰属するか、特別縁故者に分与されます。隣地の所有者が空家の処分を望む場合、清算人の選任を申し立てて清算人から買い取るという経路がありますが、時間と予納金がかかります。2023年4月施行の改正で、相続財産の保存に必要な処分として相続財産管理人の選任を請求できる制度も整理されています(民法897条の2)。
4. 札幌市の空家対策——窓口と制度
札幌市は、空家等対策の推進に関する特別措置法に基づき、適切に管理されていない空家について現地確認を行い、所有者への指導・勧告・命令等を行っています。市の担当窓口は建築安全推進課で、近隣の空家に困っている人、市内に空家を持ち売却や改修の相談先が分からない人からの相談を受けています。札幌市は空家等対策計画を策定し、民間事業者等と連携した相談体制も整えています。
また、札幌市は危険空家等除却補助制度を実施しています(年度ごとに募集条件が定められるため、最新の要件は市のページで確認が必要です)。市のページは、住宅を解体すると住宅用地の特例措置が適用されなくなり土地の固定資産税等が上がることがある、と注意喚起しています。除却して土地として売却するか、建物付きで売却するかは、税負担と買主層の両面から検討する事項です。不動産業者が空家所有者の相談に乗るとき、この市の窓口と補助制度を案内できると、相談の入口が広がります。
5. 実務チェックリスト
- 相続物件の相談時に、登記事項証明書で名義人と登記の状態を確認し、戸籍等の必要資料で死亡の事実と相続関係を確認している
- 相続人確定のための戸籍収集と相続関係説明図の作成を、司法書士と連携して行う体制がある
- 遺言の有無(公証役場検索・法務局保管制度)を確認する手順がある
- 遺産分割協議書または全相続人の同意がない段階で売買契約を締結しない
- 相続人の一部と連絡が取れない場合の家庭裁判所手続(不在者財産管理人・遺産分割調停)を弁護士に相談する経路がある
- 管理不全空家・特定空家として指導・勧告を受けている事実を告知書・重要事項説明で扱う運用がある
- 空家所有者の相談に対し、札幌市の窓口・除却補助・住宅用地特例の扱いを案内できる
- 施行前に取得を知っていた相続分の期限(原則2027年3月31日)と、施行後に知った場合の期限(知った日から3年)を区別して、相続物件の売主候補への案内に組み込んだ
よくある質問
Q. 相続登記をしないまま売却できますか。
A. できません。登記名義人が亡くなっている場合、相続登記を経てからでなければ買主への所有権移転登記ができません。実務上は決済時に相続登記と移転登記を連件で申請しますが、相続人全員の協力が前提です。
Q. 相続人申告登記をすれば売却の準備は済みますか。
A. 済みません。相続人申告登記は申請義務を履行したとみなされる制度ですが、所有権の移転登記ではないため、売却や抵当権設定には別に相続登記が必要です。
Q. 過料は誰が、いつ科すのですか。
A. 法務省の説明では、登記官が申請を催告し、期限内に申請がなければ裁判所に通知し、裁判所が10万円以下の範囲で過料を科すかを判断します。正当な理由があれば科されません。
Q. 管理不全空家の勧告を受けると、税金はどうなりますか。
A. 勧告を受けた管理不全空家等の敷地は、固定資産税の住宅用地特例の対象から外れます。特例が外れると土地の固定資産税が上がることがあります。
Q. 相続人が誰もいない空家を買いたいという買主がいます。
A. 利害関係人として家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、清算人から買い取る経路があります。ただし、選任と清算の手続には時間と予納金がかかるため、弁護士を交えて見通しを立ててから進めてください。
参考資料(一次資料)
- 不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の2・第76条の3・第164条 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)第13条・第22条 https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC1000000127
- 民法(明治29年法律第89号)第897条の2・第952条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
- 法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00590.html
- 札幌市「空き家対策」 https://www.city.sapporo.jp/toshi/k-shido/akiya-tekiseikannri.html
- 札幌市「令和8年度札幌市危険空家等除却補助制度のご案内」 https://www.city.sapporo.jp/toshi/k-shido/akiya/akiyahojyo.html
ご相談について
当事務所では、相続人の確定と遺産分割協議の代理、相続人の一部が不明・非協力の場合の家庭裁判所手続、相続財産清算人の選任申立て、空家の処分に関する相続人間の調整をお受けしています。名義人が亡くなっている物件の相談を受けた段階でご連絡いただければ、売買に進める見通しを一緒に立てます。
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