自営業者や会社経営者の離婚では、通帳の残高だけを見ても財産の全体が分からないことがあります。店舗の設備、売掛金、借入金、会社の株式、会社に貸した金銭などがあり、個人と法人を区別して整理する必要があります。
事業を続けるために必要な資産だからという理由だけで、財産分与の検討からすべて外れるとは限りません。一方、会社の財産を経営者個人の財産としてそのまま分けることもできません。権利の持ち主と、夫婦の協力で形成された価値を順に確認します。[1][2]
この記事の内容
- 個人事業と法人経営を分けて考える
- 確定申告書と決算書を年度ごとに並べる
- 株式の取得経緯と評価資料を確認する
- 役員貸付金や保証を別項目にする
- 事業への協力は具体的な仕事として説明する
- 事業継続と支払可能性を両方確認する
- 個人と会社の資金移動を整理する
- よくある質問
個人事業と法人経営を分けて考える
個人事業では、事業用の口座や設備が個人に帰属していることがあります。生活用と事業用に口座を分けていても、その区別だけで財産分与の対象かどうかが決まるわけではありません。取得時期、資金の出所、債務との関係を確認します。
法人の場合、会社の預金や建物は会社に帰属します。経営者が全株式を保有していても、会社の口座残高をそのまま個人の預金残高へ足すと、権利関係を取り違えることになります。個人が保有する株式等と会社の資産を区別します。
例えば、会社所有の車を家族が使っていても、利用実態だけで所有者は決まりません。車検証、購入契約、会計帳簿などを確認します。名義と利用状況が食い違うものは、事情を説明できるよう資料をまとめてください。
確定申告書と決算書を年度ごとに並べる
個人事業の確定申告書、青色申告決算書、法人の決算書、勘定科目内訳書などを確認します。売上と所得、会社の利益と経営者の給与、現金残高と帳簿上の数字を混同しないことが大切です。
直近の1年だけでは、資産の動きや一時的な損益を理解できないことがあります。複数年の資料を並べ、別居前後に大きく変動した項目を確認します。増減があること自体を不正と決め付けず、設備購入や借入返済等の理由を調べます。
会計上の帳簿価額が、そのまま売却できる価格とは限りません。古い設備でも使用価値がある場合や、帳簿上の売掛金でも回収が難しい場合があります。評価時点と評価方法を確認し、必要に応じて専門家の検討につなげます。
株式の取得経緯と評価資料を確認する
非上場会社の株式については、取得した時期、出資額、持株数、相続や贈与の有無などを確認します。婚姻前から保有していた株式と、婚姻中に取得した株式を区別することも必要です。[1]
株式の評価は、額面や当初の出資額だけでは決まりません。会社の資産・負債、事業の状況、収益、株式の権利内容等を踏まえた検討が必要になります。相続税の評価額があっても、離婚の場面で同じ数字を当然に使えると判断しないようにします。
株式自体を移転する案では、定款の譲渡制限や会社法上の手続なども確認します。金銭で調整する案なら、その資金をどこから用意するかが問題になります。離婚条件だけで会社の承認や第三者との契約まで処理できるとは限りません。
役員貸付金や保証を別項目にする
経営者が会社に貸した金銭は、株式とは別の債権として問題になることがあります。反対に会社から個人への貸付金がある場合は、その債務を確認します。「会社のお金」とまとめず、貸主、借主、残高、契約、返済の実態を調べます。
株式評価の中で扱った価値を個人の財産一覧にもそのまま加えると、計算上の重複が生じる場合があります。関連する項目を対応させ、評価の前提を説明できるようにしてください。
会社の借入れについて個人保証をしている場合も、現在の借入残高、保証の範囲、返済状況を整理します。保証があるから直ちに同額を個人財産から差し引けるとは限りません。現実の負担と将来のリスクを区別して検討します。
事業への協力は具体的な仕事として説明する
配偶者が経理、接客、発送、従業員対応などを担当していた場合は、業務内容、期間、報酬、勤務の実態を記録します。「手伝っていた」という一言より、どの仕事をどの程度担っていたかを整理すると協力の内容が伝わります。
事業への直接の関与だけでなく、家事や育児等による夫婦の協力も財産形成を考えるうえで検討します。他方、協力した事実があるからといって、会社の全資産を直接取得できることにはなりません。[1][2]
2026年改正後の民法は、財産の取得・維持への寄与の程度が異なることが明らかでない場合には、相等しいものとして扱う旨を定めています。事業主の名義や収入額だけで判断せず、財産の性質と協力の事情を確認してください。[1]
事業継続と支払可能性を両方確認する
合意額を決めるときは、手元資金、納税、運転資金、借入返済の予定を見ます。帳簿に多額の資産があっても、すぐ現金化できるとは限りません。一括払いが難しい場合の条件は、単に「売上が増えたら払う」とせず具体化します。
資料の共有に当たっては、顧客や従業員の個人情報、営業秘密に配慮します。必要な事項を示す範囲と提出方法を相談し、社内システムへの無断アクセスやデータの大量持出しを避けます。
相談前には、個人資産、事業用資産、会社株式、会社との貸借、保証を別々の一覧にします。分からない項目は空欄にし、推測で金額を埋めないようにします。税務上の問題があるときは税理士との連携も検討します。
札幌・手稲の自営業者・経営者の方やその配偶者の方は、決算書の読み方が分からない段階でもご相談ください。事業への影響と財産分与の条件を整理し、必要な評価資料や交渉の順序を検討します。
個人と会社の資金移動を整理する
役員報酬、立替経費の精算、貸付金の返済、配当など、会社から個人へ入る金銭の性質を分けます。通帳に会社名の入金が並んでいても、すべてが給与とは限りません。振込日、会計上の処理、契約や決議等の資料を対応させて確認します。
個人の口座から会社の支払を立て替えていた場合も、誰に対するどの債権が残っているかを整理します。金銭の出入りだけで、会社への貸付けなのか、経費の立替えなのかを決め付けないようにします。帳簿と本人の説明が異なる場合は、その理由を確認してください。
家族従業員への給与や親族との取引がある場合には、勤務実態、取引内容、契約、実際の入出金を確認します。親族との取引という理由だけで架空と判断せず、反対に帳簿へ載っているだけで内容を確認しなくてよいとも考えないことが重要です。
資産の評価には費用と時間がかかることがあります。争いのある項目と金額への影響を整理し、専門的な評価が必要な範囲を相談します。小さな項目を際限なく争うより、全体の条件に影響する主要な資産と負債から確認すると、協議を進めやすくなります。
相談用の資料には、会社名、決算期、対象期間を明記します。複数の会社を経営している場合は会社ごとに分け、関連会社間の貸借を個人の財産と混ぜないようにします。
よくある質問
Q. 会社の預金も経営者の財産として分けますか
A. 会社と個人は区別します。個人の株式や会社への貸付金などを確認して検討します。
Q. 個人事業用の口座は対象外ですか
A. 口座の用途だけで決まりません。取得経緯、資金、関連する債務などを確認します。
Q. 非上場株式は出資額で評価しますか
A. 出資額だけで決めるとは限りません。会社の資産・負債や事業の状況等を検討します。
Q. 会社の借入れはすべて個人の負債ですか
A. 借主と保証の有無を確認します。法人の債務と個人の債務は同一ではありません。
Q. 決算書が手元になくても相談できますか
A. 相談できます。分かる会社情報や保有資料から、必要な確認と取得方法を整理します。
参考資料(一次資料)
- [1] 民法(現行条文)
- [2] 法務省 りこんポータル 財産分与
- 資料確認日 2026年9月23日
ご相談について
札幌手稲ポプラの丘法律事務所では、離婚に関するご相談を承っています。手元の資料とこれまでの経緯を基に、必要な手続と対応の順序を整理します。

