離婚の時点でまだ退職していなくても、退職金が財産分与の検討対象になることがあります。一方で、将来受け取る予定額をそのまま半分にすればよいわけではありません。勤務先の制度、支給の見込み、婚姻生活と勤続期間の重なり、ほかの財産との調整を確認します。[1][2]
「退職まで長いから関係ない」「会社から本人に払われるので夫婦の財産ではない」と決め付ける前に、資料を集めて整理しましょう。ここでは、支給前の退職金を話し合うための準備を説明します。
この記事の内容
- 退職金制度の有無と内容を確かめる
- 基準日と婚姻生活の期間を整理する
- 将来の支給見込みを具体的に検討する
- 支給済みなら現在の財産との重複に注意する
- 支払方法まで含めて合意を考える
- 相談時には期間と金額の根拠を持参する
- 勤務先の見込額を比較する前の確認
- よくある質問
退職金制度の有無と内容を確かめる
勤務先の退職金規程、就業規則、勤続年数、基準日時点の支給見込額を確認します。制度があるというだけで、どの時点でも同じ金額が支給されるとは限りません。自己都合退職と定年退職で計算が異なることもあります。
会社から見込額の証明を取得できる場合は、いつの時点で、どの退職理由を前提に計算した額なのかを明記してもらいます。額だけが書かれたメモでは、双方が違う条件の数字を比較してしまうおそれがあります。
退職一時金のほかに企業年金等がある場合には、制度ごとに分けて確認してください。年金分割の対象となる公的年金と、会社の退職給付制度を混同しないことが大切です。給与明細だけでは制度の全体が分からないこともあります。
基準日と婚姻生活の期間を整理する
財産分与では、夫婦の協力による財産形成の期間が問題になります。就職日、婚姻日、同居開始日、別居日、退職日を時系列に並べてください。どの期間を評価に用いるかについて争いがあれば、その理由も整理します。[1][2]
裁判所の財産一覧表作成資料には、基準日に自己都合退職した場合の額などを用い、勤続期間と婚姻共同生活の期間を踏まえて算定する例が示されています。これは検討の手掛かりであり、すべての事案に同一の計算結果を当てはめるものではありません。[2]
例えば、就職後しばらくして結婚した場合、勤続期間全体と夫婦として協力した期間は一致しません。また、長い別居期間がある場合には、別居後の勤務分をどう扱うかも問題になります。日付を曖昧にしたまま金額だけ交渉しないようにします。
将来の支給見込みを具体的に検討する
退職が近く制度や見込額が確認できる場合と、退職まで長く制度も変わる可能性がある場合とでは、判断材料が異なります。年齢や勤続年数だけで機械的に結論を出さず、雇用の状況、支給条件、退職予定などを確認します。
「将来はこのくらい受け取れるはず」という本人の予想と、規程に基づく見込額を区別します。転職、休職、制度変更の予定があるなら、その根拠を示す資料も必要です。支給されない可能性を主張する場合も、単なる想像にとどめないことが重要です。
双方で数字が違うときは、計算の前提を一覧にすると争点が見えます。基準日、退職理由、勤続月数、対象期間、税引きの扱いなどを対応させ、どの前提の違いが金額の差につながっているかを確認します。
支給済みなら現在の財産との重複に注意する
既に退職金を受け取っている場合は、支給通知書と入金記録、その後の資金の動きを確認します。預金として残っているのか、住宅ローンを返済したのか、生活費に使ったのかによって、現在の財産一覧への載せ方を整理します。
退職金を原資にした預金を計上したうえで、同じ退職金全額を別項目として加えると、二重計上になるおそれがあります。不動産や金融商品へ形が変わっている場合も、元の資金と現在の資産の関係を示します。
使途が分からない場合は、まず支給日と入金先を特定します。相手が受け取ったはずだと疑うだけでは金額を確定できません。手元の資料で分かる範囲と、追加で確認する事項を分けて弁護士へ相談してください。
支払方法まで含めて合意を考える
財産分与で一定額を考慮するとしても、退職前には手元に現金がない場合があります。ほかの預金や不動産を含めた分け方、分割払い、将来の支給時を踏まえた支払条件などを具体的に検討します。
将来の支給を待つ合意では、「退職したら払う」だけでは不明確です。対象となる給付、算定方法、支払時期、通知の方法、制度変更時の扱いなどを確認します。条件が複雑なまま合意すると、支払時に新しい争いが生じかねません。
金銭の支払義務については、調停調書や公正証書等をどう利用するかも検討します。ただし、書面を作れば勤務先から当然に直接受け取れるという意味ではありません。合意の相手と支払を求める方法を区別する必要があります。
相談時には期間と金額の根拠を持参する
資料は、勤務先の制度、本人の勤務歴、夫婦の生活歴、金額の根拠、現在の資産の5つに分けると整理しやすくなります。相手の資料がなくても、自分が適法に保有する給与明細や過去の通知などから確認できることがあります。
会社へ問い合わせる場合は、誰がどの権限で請求できるかを確認します。配偶者の勤務先だからといって、本人の情報を無制限に取得できるわけではありません。本人になりすました照会や無断ログインは避けてください。
2026年4月1日以後の離婚では財産分与の家庭裁判所への請求期間は原則5年、それより前の離婚では2年です。退職まで待っているうちに期間を過ぎないよう、離婚日と請求期限を先に確認します。[1][3]
札幌・手稲で退職金を含む財産分与を検討している方は、見込額が判明していない段階でもご相談ください。ほかの財産と合わせて、必要な資料と実現可能な支払方法を整理します。
勤務先の見込額を比較する前の確認
退職金の見込額が複数あるときは、作成日だけでなく、算定の基準日と前提条件を並べます。定年まで勤務した場合の見込み、現時点で自己都合退職した場合の見込み、既に確定した給付では意味が違います。高い方と低い方を単純に平均する方法が適切とは限りません。
企業年金等については、一時金で受け取る場合と年金形式の場合で資料の数字が異なることがあります。制度名、給付の形、受給要件、既に受け取った部分を確認し、公的な年金分割との混同を避けます。資料が難しいときは、勤務先の説明をそのまま持参して相談してください。
今後の支給時に支払う案では、退職せず勤務を延長した場合、転職した場合、複数回の給付になった場合を想定します。何を基準に支払時期と金額を判断するかが分からなければ、条項を見直す必要があります。将来の出来事を条件にするほど、通知と確認の方法が重要になります。
一括でほかの財産と調整する案では、退職金についてどの評価と前提を採用したかを残します。後に実際の支給額が違ったことだけで当然に再計算する約束なのか、今回の合意で清算するのかを明確にし、双方が同じ理解で署名します。
よくある質問
Q. 退職前なら財産分与の対象外ですか
A. 当然に対象外とはいえません。制度、支給見込み、勤務期間などを確認して検討します。
Q. 将来の退職金を必ず半分にしますか
A. 婚姻生活と勤続期間の関係や支給見込みなどを踏まえるため、単純に全額の半分とは限りません。
Q. 支給額の証明が取れなければ諦めるべきですか
A. 規程や勤務歴など別の資料で確認できる事項を整理し、必要な資料の取得方法を相談します。
Q. 受け取った退職金を預金に移しています
A. 預金と退職金を重複して計上しないよう、入金とその後の動きを確認します。
Q. 退職するまで請求を待ってもよいですか
A. 財産分与の請求期間を過ぎるおそれがあります。離婚日と期限を先に確認してください。
参考資料(一次資料)
- [1] 民法(現行条文)
- [2] 東京家庭裁判所 財産一覧表作成の手引き
- [3] 法務省 りこんポータル 財産分与
- 資料確認日 2026年9月23日
ご相談について
札幌手稲ポプラの丘法律事務所では、離婚に関するご相談を承っています。手元の資料とこれまでの経緯を基に、必要な手続と対応の順序を整理します。

