遺産分割前に預金を引き出せるか 払戻し制度と精算の注意点

相続

亡くなった方の預金から葬儀費用や当面の生活費を支払いたいのに、相続人の話合いが終わっていないことがあります。遺産分割前でも、一定の範囲で相続人が単独で払戻しを受けられる制度があります。ただし、預金残高を自由に全部引き出せる制度ではありません。[1][2]

制度を利用する前には、払戻し可能額、必要書類、遺言の有無、後の遺産分割での扱いを確認します。相続放棄を検討している場合は、払戻しによる影響を先に相談してください。銀行で払戻しができることと、相続上の問題がないことは同じではありません。

この記事の内容

通常の相続手続と分割前の払戻しを分ける

預金の相続手続は、遺言があるか、遺産分割協議が済んでいるか等によって必要な書類が異なります。口座名義人が亡くなったことを銀行へ連絡し、その事案でどの手続を使えるか確認するところから始めます。[3]

分割前の払戻し制度には、家庭裁判所の判断を経ず金融機関へ請求する方法と、家庭裁判所の手続を通じて仮に取得する方法があります。両者は要件と限度が異なるため、1つの制度として混同しないことが大切です。[2]

キャッシュカードと暗証番号を知っているからATMで引き出してよい、ということでもありません。誰がどの権限で取得したお金か分からなくなると、ほかの相続人との精算や使途の説明が難しくなります。

遺言によって預金の取得者が定められている場合など、制度を利用できないこともあります。遺言や既存の協議書を隠して、一般的な払戻し制度だけを申し込まないようにしてください。[2]

裁判所を経ない払戻し額の計算

民法909条の2では、相続開始時の預貯金債権額の3分の1に、払戻しを行う相続人の法定相続分を掛けた額について、単独で権利を行使できると定めています。さらに、同じ金融機関からの払戻しには150万円の上限があります。[1][2]

計算は口座ごと、定期預金は明細ごとに確認し、同じ金融機関の複数支店を利用していても、支店ごとに150万円の枠が増えるわけではありません。口座と金融機関を分けて一覧にしてください。[2]

説明のため、相続人が配偶者と子1人で、対象となる1口座の相続開始時残高が900万円だったとします。配偶者の法定相続分が2分の1なら、900万円×3分の1×2分の1で150万円となります。これは他の事情がない場合の計算例です。

同じ前提で残高が300万円なら、計算結果は50万円です。誰でも必ず150万円を受け取れるという意味ではありません。相続人の範囲や遺言、既に行われた払戻しなどを金融機関へ示し、実際に利用できる額を確認します。

必要書類と入金までの時間を確認する

利用には、本人確認書類のほか、被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、払戻しを希望する人の印鑑証明書等が求められます。具体的な書類と代用できる資料は金融機関ごとに確認してください。[2]

窓口へ行った当日に必ず現金を受け取れるとは限りません。戸籍の確認や内容審査に時間を要することがあるため、支払期限が迫っている場合は、その事情と必要額を早めに伝えます。[2]

相続人の中に先に亡くなった人がいる場合や、相続放棄をした人がいる場合は、相続関係の確認が複雑になります。親族が作った簡単な一覧だけで足りるとは考えず、裏付け資料を準備します。

複数の銀行へ請求するときは、提出書類の原本還付や有効期間の取扱いも確認します。同じ原本を別々の銀行へ同時に出せない場合があります。提出先、提出日、返却予定を記録すると、手続を管理しやすくなります。

裁判所を利用する方法の要件

家庭裁判所に遺産分割の調停又は審判が申し立てられている場合、預金の仮取得について裁判所の判断を求める方法があります。生活費の支出等のため仮払いの必要性があり、ほかの共同相続人の利益を害しないことなどが問題になります。[2]

銀行での上限を超えてお金が必要だから、裁判所へ申し立てれば必ず認められるというものではありません。必要な支出、その金額と期限、他に使える資金、遺産の内容等を説明する資料を準備します。

例えば生活費の支出を説明するなら、月ごとの収支、請求書、預金残高等を整理します。相続債務の支払が必要な場合には、契約と請求根拠、支払わない場合の影響も確認してください。

裁判所の手続と、審判後に金融機関へ提出する資料は別です。必要な審判書等と、その後の払戻し方法を確認します。手続に要する時間も見込み、目前の支払をどうするかを並行して検討します。

払い戻した額は後の分割で調整する

制度を使って払い戻した預金は、受け取った相続人が取得したものとして、後の遺産分割で調整されます。最終的な取得分とは別枠で追加にもらえるお金ではありません。[1][2]

そのため、残っている預金だけを相続人で均等に分けると、既に受け取った人の取得額が計算から落ちることがあります。財産一覧に、相続開始時残高、払戻日、払戻額、取得者、現在残高を残してください。

葬儀費用等に使った場合も、誰が最終的に負担する費用かという問題を別に整理します。制度の利用目的として費用を支払ったことだけで、全相続人が当然に同じ額を負担すると決まるわけではありません。

家族へ説明するときは、銀行の払戻し書類、振込記録、使途と領収書を対応させます。まだ使っていない額は、自己資金と混ざらないように管理すると、後の精算と説明をしやすくなります。

相続放棄を考えている場合の注意

相続財産の処分等は、単純承認とみなされる問題を生じさせることがあります。分割前の払戻し制度を使えば、相続放棄への影響が一律になくなるということではありません。[1]

借金の調査が終わっていない場合は、必要な生活費と、相続を承認するかどうかの判断を分けて相談します。払戻しをしてから負債を調べればよいという順序にしないことが大切です。

既に引き出してしまった場合は、日時、金額、利用した手続、使途、残額を正確に伝えます。資金を戻したり別の口座へ移したりすれば必ず解決するとは考えず、追加の処分をする前に確認してください。

相続放棄等の熟慮期間と、銀行の確認期間も別です。金融機関からの返事待ちを理由に期限を過ぎないよう、必要なら家庭裁判所への期間伸長を検討します。[1]

家族間で対立があるときの進め方

払戻しの必要性を他の相続人へ説明する際は、必要額、予定する支出、後の精算方法を具体的にします。事前の全員同意が制度上必要かという問題と、説明不足による対立を防ぐ工夫を区別して考えます。

他の相続人が既に引き出している場合は、すぐに横領と決めつけず、手続、金額、使途、取得者を確認します。相続開始前の引出しなのか、開始後の制度利用なのかでも検討する内容が違います。

相談には、口座の資料、相続関係、遺言、必要な支払の明細、他の相続人との連絡を持参します。いくら引き出せるかだけでなく、必要額をどの手続で確保し、その後どう精算するかまで整理しましょう。

よくある質問

Q. 相続人なら誰でも150万円を引き出せますか

A. 必ずではありません。残高と法定相続分による計算額があり、150万円は同一金融機関での上限です。

Q. 同じ銀行の別支店でもう150万円受け取れますか

A. 支店ごとに枠が増えるわけではありません。同一金融機関全体で確認します。

Q. 払戻しを受けた額は自分の相続分とは別ですか

A. 別枠ではありません。後の遺産分割で、受け取った人の取得分として調整します。

Q. 葬儀に使えば他の相続人へ説明しなくてもよいですか

A. 費用負担や精算は別に確認が必要です。支出と領収書を記録してください。

Q. 相続放棄をする予定でも利用できますか

A. 払戻しや使用が放棄に影響する可能性があります。利用前に具体的な事情を相談してください。

参考資料(一次資料)

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