親の遺言書に自分が遺言執行者として指定されていて、何から始めればよいか戸惑うことがあります。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために財産管理や必要な手続を行う役割を担います。家族の代表として自由に分け方を決められる地位ではありません。[1]
就任を引き受けるか、相続人へ何を知らせるか、財産をどう管理するかを順に確認します。自分も財産を受け取る場合には、受取人としての利益と執行者としての任務を区別し、後から説明できる記録を残すことが大切です。
この記事の内容
- 遺言の内容と就任の判断を確認する
- 任務開始後は相続人へ通知する
- 財産目録を作って管理の出発点にする
- 自分の資金と相続財産を混ぜない
- 遺言の内容に応じて権限を確認する
- 報酬と終了時の報告を整理する
- よくある質問
遺言の内容と就任の判断を確認する
最初に、遺言書全体を読み、執行すべき内容、対象財産、受取人、権限や報酬に関する指定を確認します。特定の預金だけの遺言なのか、全財産を対象にするのかで作業の範囲が変わります。複数の遺言がある場合は、その関係も調べます。[1]
指定されたことと、就職を承諾して任務を開始することは区別します。ただし、相続人等から相当の期間を定めた就職の催告を受け、期間内に相続人へ確答しない場合には、承諾したものとみなす規定があります。連絡を放置しないでください。[1]
未成年者及び破産者は遺言執行者になれません。また、引き受けられるかは、居住地、仕事、財産の種類、相続人との関係、必要な専門知識などを踏まえて検討します。作業量を確かめずに全て自分で行うと約束しないことが大切です。[1]
執行者がいない、又はなくなった場合には、利害関係人が家庭裁判所へ選任を申し立てる方法があります。申立先は遺言者の最後の住所地の家庭裁判所です。遺言の写し等の必要書類は裁判所の案内を確認します。[2]
任務開始後は相続人へ通知する
遺言執行者は就職を承諾したときは直ちに任務を行い、任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人へ通知しなければなりません。自分が連絡しやすい相続人だけへ説明して終わらせないようにします。[1]
相続人の確認には戸籍等を用い、住所や連絡先も整理します。疎遠な親族、前婚の子、代襲相続人などがいる場合も、家族の記憶だけで通知先を決めないことが大切です。調査中の事項はそのまま記録します。
通知では、遺言の内容、執行者として任務を開始したこと、今後の連絡方法等を分かるようにします。どの書類をいつ誰に送ったか、配達や返信の状況を保存してください。電話で補足する場合も、書面と説明内容を一致させます。
相続人が遺言に不満を持っていても、通知をしない理由にはなりません。有効性や解釈に争いがある場合は、その主張を記録して対応を相談します。相手の反論があることと、執行をどこまで進められるかは別に検討する必要があります。
財産目録を作って管理の出発点にする
民法1011条は、遺言執行者が遅滞なく相続財産の目録を作成し、相続人に交付することを定めています。目録は自分だけが把握するメモではなく、相続人に財産の内容を説明するための資料です。[1]
預金、不動産、有価証券、現金、債権等を種類ごとに整理し、口座や物件を特定できる情報を記載します。残高証明書、登記事項証明書、取引報告書などの裏付け資料と対応させ、確認した日付も残してください。
財産が見つからない又は金額が未確定の項目は、推測で数字を入れず調査中と区分します。遺言に書かれた口座が解約されている場合には、解約時期や移動先、条項への影響を確認します。後から判明した事項は目録の更新につなげます。
相続人から目録作成への立会いを求められた場合についても、法律に規定があります。面倒だからという理由で自己流の対応をせず、請求内容と必要な方法を確認してください。目録の範囲と執行権限が問題になる場合は専門家に相談します。[1]
自分の資金と相続財産を混ぜない
払戻しを受けた預金や売却代金は、自分の生活費等と区別して管理します。専用の管理方法を金融機関と確認し、入金元、出金先、目的、残高が追える記録を残します。現金で扱う必要がある場合には、領収書等を特に注意して保存します。
費用を立て替えたときは、日付、金額、支払先、何の手続に必要だったかを記録します。交通費、証明書の取得費用、専門家への依頼費用などについて、根拠なく一括で差し引くのは避けてください。
自分も受取人である場合、先に自分の分を取り、後から計算を合わせるような管理は説明を難しくします。遺言の内容と手続の進行に沿い、ほかの受取人への引渡しと同じ基準で記録を残すことが大切です。
税金、債務、葬儀費等を全て執行者が自由に支払ってよいとは限りません。遺言の対象と権限、各支出の負担者を確認し、相続財産から支出する根拠を明確にします。不明な請求には契約書や明細を求めて確認します。
遺言の内容に応じて権限を確認する
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他必要な行為を行う権利義務を持ちます。ただし、遺言が特定財産だけに関する場合等には対象が限定されます。相続人の個人的な財産まで管理できるわけではありません。[1]
特定財産を相続人へ承継させる遺言では、対抗要件を備えるための行為や預貯金の払戻し等に関する規定があります。口座全体を解約できるかなどは遺言の指定内容によって確認します。「執行者ならどの口座も解約可能」と考えないでください。[1]
不動産を売却して代金を分ける内容なら、売却権限、条件、費用、買主への説明等を検討します。特定の不動産をそのまま渡す遺言を、執行者の判断だけで売却案に変更することはできません。
相続人が独自に遺言の執行を妨げる処分をしようとしている場合には、民法1013条等との関係を確認します。執行者自身も対立に任せて実力で物を取り戻すのではなく、記録を残し、必要な法的措置を相談してください。[1]
報酬と終了時の報告を整理する
報酬は遺言の定めを確認し、定めがない場合の家庭裁判所による報酬の決定など、適切な方法を検討します。自分がかけた時間に好きな単価を掛け、財産から勝手に受け取ることは避けます。[1]
手続を終える際は、何を調査し、いくら受け取り、何に支出し、誰へ引き渡したかを一覧にします。残高と計算が一致するか、未処理の事項がないかを確認し、領収書や受領記録を整理して報告できる形にします。
就任後に続けられなくなった場合は、単に家族へ辞めると伝えて放置しないでください。遺言執行者の辞任には、正当な事由と家庭裁判所の許可に関する規定があります。財産の保管と引継ぎを含めて手続を確認します。[1]
相談には、遺言書、就任に関する連絡、相続人一覧、財産目録、入出金記録、困っている手続の資料を持参します。執行者として何をする必要があるかを明確にすると、相続人への説明と専門家への依頼範囲を決めやすくなります。
よくある質問
Q. 遺言執行者は家族の取り分を変更できますか。
A. 遺言の内容を実現する役割です。自分の判断だけで分け方を変更できる地位ではありません。
Q. 指定されたら返事をしなくてもよいですか。
A. 就職の催告に対する無回答を承諾とみなす規定があります。書面と期限を確認し、放置しないでください。
Q. 相続人へ財産目録を渡す必要がありますか。
A. 民法は目録の作成と相続人への交付を定めています。裏付け資料と対応させて整理します。
Q. 手間がかかった分を自由に報酬にできますか。
A. 遺言の定めや家庭裁判所の決定等を確認します。自己判断で金額を決めて財産から差し引かないでください。
Q. 就任後に辞めたくなったらどうしますか。
A. 正当な事由と家庭裁判所の許可等を確認します。管理中の財産や記録の引継ぎも必要です。
参考資料(一次資料)
- [1] 民法(現行条文)
- [2] 裁判所 遺言執行者の選任
- 資料確認日 2026年9月23日
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