自分で遺言書を作れば、希望する相手に財産を残す準備ができます。しかし、気持ちが伝わる文章であっても、法律で決められた方式を満たさなければ、遺言として効力が認められない問題が生じます。内容と書き方の両方を確認することが大切です。[1]
自筆証書遺言では、本文と財産目録で自書に関する扱いが異なります。さらに法務局の保管制度を使う場合には、用紙や余白などのルールも加わります。完成してから慌てて直すことがないよう、書き始める前に整理しましょう。[2]
この記事の内容
- 本文と日付と氏名は本人が書く
- 財産目録だけに認められる例外
- 財産と受取人を具体的に特定する
- 記載しなかった財産と将来の変化を考える
- 訂正と書き直しには方式がある
- 保管方法と実行する人まで準備する
- よくある質問
本文と日付と氏名は本人が書く
民法968条は、遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印する方式を定めています。財産目録についての例外を除き、家族が代筆した本文や、パソコンで印刷した本文に本人が署名しただけのものを、通常の自筆証書遺言として扱うことはできません。[1]
本人の手が不自由な場合に、家族が代わりに書けばよいとは考えないでください。全文の自書が難しいときは、公正証書遺言など、本人の状態に合った方法を検討します。作成を急ぐ場合も、利用できる方式を先に確認する必要があります。
日付は作成日を特定できるように記載します。「今月の吉日」などの日が特定できない表現は避けます。日付は形式のためだけでなく、複数の遺言の前後関係や作成時の状態を調べる際にも重要です。[2]
署名と押印を後回しにすると、下書きのまま残るおそれがあります。本文を書き終えたら、全文、日付、氏名、押印を順番に確認してください。鉛筆や消せるインクなど、後から文字が消えやすい筆記具も避ける方が保管に適しています。
財産目録だけに認められる例外
本文と一体のものとして添付する財産目録は、自書によらずに作成できます。パソコンで作った一覧や、不動産の登記事項証明書、通帳の写し等を用いる方法が考えられます。ただし、どの財産を指すか分かる内容が必要です。[1][2]
自書によらない財産目録には、各ページへの本人の署名と押印が必要です。自書によらない記載が両面にある場合、民法上は両面への署名押印が必要になります。一方、法務局で保管してもらう用紙は片面記載という別の条件があります。[1][2]
「目録なら印刷できる」という説明を、財産の渡し方を書く本文にも広げないことが大切です。誰に何を相続させるかを定める本文と、財産を特定する別紙が曖昧に混ざっている場合は、書式から見直します。
目録のページを差し替えた場合は、本文との対応や署名押印を再確認します。古い目録と新しい目録が同じ封筒に残ると、どちらが遺言の一部なのか争いになるおそれがあります。完成版と検討用の資料は区別して保管してください。
財産と受取人を具体的に特定する
不動産は普段使っている住所だけでなく、登記事項と照合して所在、地番、家屋番号、持分などを確認します。自宅と呼んでいる土地が数筆ある、私道持分がある、建物だけ別名義ということもあるため、思い込みで書かないようにします。
預金は金融機関名、支店、口座の種類や番号等を確認します。通帳を写す場合は、残高のページだけでなく口座を特定する情報が必要です。作成後に解約や支店の変更があった際の見直しも考えておきます。
受取人も、家族内の呼び名だけではなく、氏名や続柄などで明確にします。同姓同名の親族がいる場合や、法人に遺贈する場合には、どの人又は団体かを特定できる資料を準備してください。
相続人に財産を承継させる場合と、相続人ではない人に遺贈する場合では、適切な表現を検討する必要があります。ひな型の名前だけを入れ替えると、家族関係に合わない文言を残すことがあります。[2]
記載しなかった財産と将来の変化を考える
遺言に書いた預金だけを分け、ほかの財産について何も定めていないと、その部分は別途の手続や話合いが必要になることがあります。現在把握している財産の一覧を作り、遺言がどこまでを対象にするか確認します。
新しく取得する財産、後から見つかる財産、売却して別の形になった財産も想定します。残りの財産をどう扱うかという条項は便利ですが、既に書いた個別の指定と矛盾しないよう、全体を通して読む必要があります。
財産を渡す予定の人が先に亡くなる可能性もあります。その場合に誰へ残したいかを考え、必要なら予備的な定めを相談します。単に「子孫へ」と書けば必ず希望どおりになるとは限りません。
借入金や保証関係も財産一覧とは別に確認しておきます。遺言で家族の内部負担を決めても、債権者に対する責任がそのとおり変更されるとは限りません。資産だけを配り、負担を見落とさないことが大切です。
訂正と書き直しには方式がある
自筆証書遺言の加除その他の変更には、場所を指示し、変更した旨を付記して特に署名し、変更箇所に押印するという民法の定めがあります。修正液で消して書き直せば済むというものではありません。[1]
訂正が複雑になる場合は、全文を書き直す方法も検討します。その際は新たな日付、署名、押印、目録との対応を確認してください。訂正方法の誤りを避けたいからと、空欄のまま他人に後から埋めてもらうことは適切ではありません。
以前に遺言を作っている場合は、その写しも見ながら新しい内容を検討します。新しい遺言があれば古い遺言の全条項が必ず消えるとは限りません。どの部分を撤回し、どの部分を残すかを明確にする必要があります。[1]
夫婦が1通の書面で共同して遺言することはできません。家族で相談して方針をそろえる場合も、各人の財産と意思を区別し、それぞれの遺言として方式を満たすよう作成します。[1]
保管方法と実行する人まで準備する
自宅で保管する場合は、紛失、持出し、未発見の問題を考えます。封をすれば有効性が保証されるわけではなく、死後の検認が必要になる場合もあります。保管場所を誰に伝えるか、写しをどう管理するかを決めておきましょう。
法務局の保管制度を使う場合には、A4用紙、片面記載、所定の余白、ページ番号等の条件を確認します。保管は内容の有効性を保証するものではないため、誰に何を渡すかの法律上の検討を済ませてから申請することが大切です。[2][3]
遺言執行者を指定するかも検討します。家族に指定する場合は、必要な作業や連絡の負担を考え、住所等を正確に記載します。指定したから全ての相続手続を無条件に代行できるわけではなく、権限は遺言の内容や法律によります。[1]
最後に、遺留分や税金、家族の住まいへの影響を確認します。形式が正しくても、資金不足や財産の特定不足で実行しにくい遺言になる場合があります。本人の希望を短いメモにし、財産資料と一緒に相談すると内容を詰めやすくなります。
よくある質問
Q. パソコンで本文を作って署名すればよいですか。
A. 通常の自筆証書遺言では本文の自書が必要です。自書を要しない財産目録の例外と混同しないでください。
Q. 通帳のコピーを付けるだけで足りますか。
A. 財産を特定する内容と、各ページへの署名押印等を確認します。本文との対応も必要です。
Q. 日付は年月だけでもよいですか。
A. 作成日が特定できる具体的な日付を記載してください。曖昧な日付は方式の問題を生じさせます。
Q. 夫婦で1通の遺言書を作れますか。
A. 共同遺言はできません。それぞれ本人の意思と財産を分け、個別の遺言として作成します。
Q. 法務局へ預ければ内容も確実に有効ですか。
A. 保管制度は内容の有効性を保証しません。方式の確認に加えて、法的な意味や実行方法を検討する必要があります。
参考資料(一次資料)
- [1] 民法(現行条文)
- [2] 法務省 遺言書の様式等についての注意事項
- [3] 法務省 自筆証書遺言書保管制度
- 資料確認日 2026年9月23日
ご相談について
札幌手稲ポプラの丘法律事務所では、相続に関するご相談を承っています。手元の資料とこれまでの経緯を基に、必要な手続と対応の順序を整理します。

