生前に多く援助を受けた相続人がいるとき 特別受益を整理する

相続

兄だけ住宅購入資金を出してもらった、妹には事業資金の援助があった。相続の際に、生前の援助も考慮して分けてほしいと考えることがあります。このような場面では、特別受益として相続分を調整するかが問題になります。ただし、家族が受けた援助のすべてが自動的に対象となるわけではありません。[1]

誰が、誰から、いつ、何のために、どれだけ受け取ったのかを整理し、贈与なのか貸付けなのか、通常の扶養の範囲なのかを確認します。不公平という印象から一歩進めて、調整を求める根拠を資料で示すことが大切です。

この記事の内容

特別受益は相続分を計算するための問題

民法903条は、共同相続人が被相続人から遺贈を受けた場合や、婚姻・養子縁組のため又は生計の資本として贈与を受けた場合の相続分の計算を定めています。一定の贈与を計算上加え、その人が既に受けた利益を考慮します。[1]

ここでいう持戻しは、贈与された現金や不動産を必ずそのまま遺産へ返却するという意味ではありません。具体的な相続分を計算するための調整と、金銭の返還請求は分けて考える必要があります。

多額の贈与を受けていた人の今回の取得分がなくなる場合でも、特別受益という理由だけで超過額を必ず返すことになるわけではありません。遺留分等の別の請求が問題になるかは、別途検討します。[1]

最初から返還を求める通知を送るより、どの制度による何の調整を求めたいのかを整理してください。相続人でない人への贈与や、貸金の返済請求を同じ表で扱う場合も、法的な性質を分けて記載します。

援助の目的と家族の状況を確認する

住宅購入や事業開始のためのまとまった資金は、生計の資本としての贈与が問題になり得ます。一方、日常の生活費、医療費、学費等については、金額だけでなく被相続人の資力、家族の生活状況、援助の目的等を確認する必要があります。

兄弟で受け取った金額に差があることだけで、差額すべてが特別受益になるとは限りません。病気への対応、扶養の必要性、教育の事情等を踏まえ、通常の扶養と相続分の前渡しに当たる援助を区別して検討します。

不動産を無償で使っていた、借金を肩代わりしてもらったなど、現金の贈与以外の利益が問題になることもあります。何を取得し、どの負担が減ったのかを具体化し、同じ利益を二重に計上しないようにします。

「兄は昔から優遇されていた」という説明だけでなく、個々の援助を年月、内容、金額、資料に分けます。金額が分からない場合は不明とし、誰から聞いた情報なのかを明記してください。

贈与と貸付けと預り金を区別する

親から子へ振込みがあっても、それだけで贈与と確定するわけではありません。返す約束があった貸付け、親の支払を代行するための預り金、立替えの精算等の可能性があります。送金の前後の連絡や契約も確認します。

借用書がある場合は、返済の実績、残高、利息、後に免除された事情等を調べます。貸付金として遺産に含める問題と、贈与として特別受益を考慮する問題を混同すると、計算が二重になるおそれがあります。

送金元が被相続人自身かどうかも重要です。父の相続を話しているのに、母の固有資金からの援助を同じ贈与として扱っていないか確認してください。夫婦の口座間で資金移動がある場合は、その経緯をたどります。

受け取った人が子本人なのか、子の配偶者や孫なのかも区別します。名義だけでは分からない事情がある場合もありますが、親族の誰かが受けた利益を当然に特定の相続人の特別受益とみなさないことが大切です。

持戻しを免除する意思があるか調べる

被相続人が、贈与等について通常の持戻しの計算と異なる意思を示していた場合には、その意思が問題になります。遺言、贈与契約、手紙等に、援助を相続時にどう扱いたかったか分かる記載がないか確認します。[1]

明確な書面がない場合でも、事情から意思が問題になることがあります。ただし「親はそう思っていたはず」という相続人の推測だけで結論を出さず、発言の内容、時期、聞いた人、他の資料との整合性を整理します。

婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用の建物又は敷地の遺贈・贈与がされた場合には、民法に持戻し免除の意思を推定する規定があります。すべての配偶者への贈与に一律に適用されるわけではなく、対象と要件を確認します。[1]

持戻し免除があるかという問題と、他の相続人の遺留分が侵害されるかという問題も別です。1つの文言だけで関連する権利がすべて消えると考えず、全体の財産と遺言を合わせて検討します。

資料は利益ごとに対応させる

預金取引履歴、贈与契約書、不動産の登記事項、購入時の契約書、住宅ローンの資料、税務書類等を、主張する援助ごとに整理します。資料の原本がない場合は、写しや取得先を記録してください。

例えば住宅資金の援助なら、物件の購入日と代金、本人が用意した資金、親からの送金、ローンを対応させます。購入価格全部が親の援助とは限らず、頭金だけなのか、後の返済も含むのかを分けます。

相手が援助を否定している場合は、どの事実を否定しているかを確認します。送金自体、金額、贈与という性質、特別受益に当たるかという評価では、必要な資料が異なります。

自分自身が受けた援助も同じ基準で整理すると、協議全体を検討しやすくなります。他の相続人の利益だけを計算し、自分の分を除外していると、提案の根拠が不明確になりかねません。

計算と評価の前提を示す

説明のため、相続人が子2人で、相続開始時の遺産が2,000万円、一方に考慮すべき贈与が1,000万円あり、ほかの調整事情がないとします。計算上3,000万円を基に各1,500万円とし、贈与を受けた人の今回の取得分を500万円、他方を1,500万円とする考え方です。

これは単純化した計算例です。実際には贈与の評価、遺言、持戻し免除、寄与分等によって結果が変わります。不動産を贈与された場合の評価と、当時支払われた現金額を、根拠なく同じ扱いにしないようにしてください。

計算表には、対象に含めた援助、含めなかった援助、評価額の根拠を示します。金額が争われている場合には、複数の前提で分割案を比較すると、どの争点が取得額へ影響するか把握しやすくなります。

「昔もらった額を現在の預金からそのまま差し引く」といった独自の計算だけで合意しないようにします。制度上の計算と、全員が納得して別の分け方を合意することは分けて検討してください。

相続からの経過年数にも注意する

2023年4月に施行された規定により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分による調整をしないというルールがあります。例外や施行前の相続に関する経過措置があるため、死亡日と手続状況を確認します。[1][2]

これは、10年以上前の贈与なら必ず考慮しない、という意味とは異なります。贈与が行われた時期と、相続開始後に経過した期間を区別してください。遺留分の算定における贈与の期間のルールとも混同しないようにします。

話合いだけを続けている場合、期限との関係で家庭裁判所への申立てを検討する必要があることもあります。資料が古くなり失われる前に調査を進め、相続関係、財産一覧、援助の一覧を持って相談しましょう。

よくある質問

Q. 学費はすべて特別受益になりますか

A. 一律ではありません。援助の目的、金額、家族の資力や生活状況等を確認します。

Q. 振込記録があれば贈与と確定しますか

A. 貸付けや預り金の可能性もあります。送金理由と前後の資料を確認します。

Q. 受け取った贈与は全部返してもらえますか

A. 特別受益は主に相続分の計算の問題です。返還請求や遺留分は別に検討します。

Q. 親が持戻しを免除すると言っていました

A. 発言の内容と資料を確認します。遺言や贈与契約、他の事情との整合性も重要です。

Q. 10年以上前の贈与は必ず対象外ですか

A. そうとは限りません。相続開始から10年という分割のルールと、贈与時期の問題を区別します。

参考資料(一次資料)

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