相続放棄前に預金を使ってよいか 遺品整理と単純承認の注意点

相続

相続放棄を考えている間にも、家賃の請求が届いたり、自宅の片付けを求められたりします。「必要な支払だから」「少額だから」と亡くなった方の預金を使う前に、相続放棄への影響を確認してください。相続財産の処分によって、単純承認をしたものとみなされる場合があります。[1]

何もしなければよいとも限りません。財産の保管や緊急の保存が必要になる一方、売却や自分のための消費は異なる問題です。対象となる財産、行為の目的、金額、時期を具体的に整理することが判断の出発点になります。

この記事の内容

単純承認とみなされる場合がある

単純承認は、亡くなった方の権利義務を原則として全面的に受け継ぐことです。本人が「相続します」と言っていなくても、法律の定める行為によって単純承認とみなされる場合があります。相続放棄の申述を予定していたという内心だけでは決まりません。[1]

民法921条は、相続財産の全部又は一部を処分した場合を定め、保存行為等には例外を設けています。また、熟慮期間内に限定承認又は放棄をしない場合や、放棄等の後に財産を隠したり私的に消費したりする場合にも規定があります。[1]

そのため、相続放棄前だけ注意すれば足りるわけではありません。裁判所への申述前、申述後、受理後の行為を、時期ごとに整理します。受理後なら遺産を自分のものとして使える、という理解は避けてください。

預金の払戻しと使途を分けて記録する

預金については、いつ、誰が、どの口座から、いくら払い戻し、その後どう扱ったかを確認します。払戻し、保管、支払、家族への分配を一括りにせず、資金の移動を追える形で記録してください。通帳と領収書の両方が役立ちます。

亡くなった方のお金を、自分の住宅ローンや日常の買物などに使う行為は、相続財産の私的な消費として問題になり得ます。一時的に借りただけ、後で戻す予定だったという説明で必ず問題が解消するわけではありません。

他方、財産が失われることを防ぐための対応と、自分が利益を受けるための支出では事情が違います。名称だけで「管理費だから大丈夫」と判断せず、何のために支出し、ほかの方法があったかも整理して相談します。

既に自分の口座へ移してしまった場合は、慌てて別の名義へ移したり、記録を削除したりしないでください。元の残高、移した日、残っている金額を明らかにし、混在しているお金をどう管理するか確認します。

葬儀費用なら無制限に支払えるわけではない

葬儀に関する支出は、目的や金額、社会的な相当性、財産との関係など、具体的な事情を踏まえた検討が必要です。「葬儀」という名目があれば、どの支出も相続放棄に影響しないと一律に説明することはできません。

葬儀会社との契約者、請求内容、支払日、支払原資を残します。葬儀本体の費用、法要、墓地や仏壇の購入、親族への交通費などをまとめて1つの数字にせず、支出ごとに区別すると判断しやすくなります。

誰が葬儀費用を最終的に負担するかという家族間の問題と、遺産を使ったことで相続放棄に影響するかという問題も別です。後で家族から承諾を得れば、債権者との関係でも必ず問題がなくなるとは限りません。

支払前に相談できる場合は、見積書と支払期限を示し、自己資金による立替えを含めた方法を確認します。ただし自分で立て替えれば必ず遺産から返してもらえるわけでもないため、返還の見通しを前提に無理な負担をしないようにします。

遺品の売却と保管を区別する

家具、貴金属、自動車、趣味の品などを売却すると、相続財産の処分が問題になります。「形見だから」「中古で安いから」という理由だけで判断せず、価値、数量、処分方法を確認してください。売却代金を受け取った場合も記録が必要です。[1]

賃貸住宅の明渡しを求められているときは、退去期限と遺品の保管方法を並行して検討します。急いで清掃業者へ一括廃棄を依頼する前に、契約書、通帳、権利関係の資料、価値のある物が含まれていないか確認します。

腐敗する物への対応や、雨漏りによる損害を防ぐ措置など、保存の必要がある場面もあります。しかし、保存という名目を付ければ何でも許されるわけではありません。現状の写真、緊急性、行った作業、費用を残してください。

形見分けを希望する家族がいる場合も、放棄を検討中であることを共有し、勝手に持ち出さないよう連絡します。誰が持ち出したか分からなくなると、財産調査にも、後の説明にも支障が生じます。

請求書が届いても支払約束を急がない

借入金、医療費、家賃、公共料金などの請求が届いた場合は、契約者と対象期間を確認します。亡くなった方の債務なのか、自分が新たに契約した費用なのか、自分が保証人となっている債務なのかによって問題が異なります。

自分の固有の保証債務等がある場合は、相続放棄をしてもその責任が当然に消えるわけではありません。反対に、相続人だからという理由だけで請求されている場合には、放棄の検討状況を踏まえて対応を整理します。

電話ではその場で分割払いや残額全額の支払を約束せず、契約書と請求明細を求め、回答内容を記録します。相続財産からの弁済や新たな契約への署名を求められた場合は、署名前に書面全体を確認してください。

相手から設定された支払期限と、家庭裁判所へ相続放棄を申述する期限は別です。請求への返答を考えている間に熟慮期間を過ぎないよう、必要なら期間伸長も検討します。[2]

放棄後に残る保存の問題を確認する

現行民法940条は、相続放棄の時に相続財産を現に占有している場合、相続人又は相続財産清算人へ引き渡すまで、その財産を保存する義務を定めています。すべての放棄者に無期限の管理義務がある、という説明とは区別が必要です。[1]

例えば鍵や現物を管理している場合には、何を占有しているか、引渡し先が誰か、引渡しまでの保存方法を確認します。放棄が受理されたからと、他人の土地に遺品を置いたり、無断で処分したりしないようにしてください。

次に相続する人がいない、又は全員が放棄した場合には、相続財産清算人の選任など別の手続が必要になることがあります。誰に引き渡せばよいか分からない場合も、財産の所在と管理状況を整理して相談します。

既に使ってしまったときの相談資料

既に支払いや処分をした場合も、その事実だけで自分で結論を決めず、具体的な経緯を説明します。行為の日、対象、金額、目的、誰の依頼か、利益を受けた人、現在残っている財産を順に記載してください。

相談に不利だと思って記録を省くと、相続放棄の申述や後の債権者対応に支障が生じます。領収書がない支出は、ないことを明記し、分かる範囲で支払先等を確認します。後から作ったメモと当時の資料も区別します。

相続放棄の可否は、期間、財産の認識、具体的な行為などを合わせて検討します。ネット上の似た事例の結論だけを当てはめず、今後の処分を止めるべきか、保存のために何が必要かも含めて早めに確認しましょう。

よくある質問

Q. 少額の預金なら使ってよいですか

A. 金額だけでは判断できません。使途、目的、財産の状況を確認します。

Q. 葬儀費用は必ず相続放棄に影響しませんか

A. 一律にはいえません。支出の内容、金額、原資等を整理して相談してください。

Q. 遺品を売った代金を保管していれば問題ありませんか

A. 売却自体が処分に当たる問題があります。代金を残しただけで解決すると考えないようにします。

Q. 既に預金を使ったら相談しても無駄ですか

A. 具体的な行為を確認する必要があります。記録を残し、期限が過ぎる前に相談してください。

Q. 放棄が受理された後は遺品を捨ててよいですか

A. 自由に処分できるわけではありません。現に占有する財産の保存や引渡しを確認します。

参考資料(一次資料)

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