親が亡くなって何年もたってから、借金や保証債務の請求書が届くことがあります。驚いてすぐ支払を約束する前に、請求の根拠、相続を知った時期、これまでの財産の取扱いを確認してください。死亡から時間がたっている場合でも、相続放棄を検討できる余地があるかは具体的な事情によります。[1][2]
ただし「借金の通知を受けた日から必ず新しく3か月ある」という制度ではありません。なぜ財産や負債を知らなかったのか、知るきっかけがなかったのかを含めた検討が必要です。通知を受けた後は、日付と書類を残して早めに相談しましょう。
この記事の内容
- まず請求書と封筒を保存する
- 原則の起算点と例外的な検討を分ける
- 死亡前後からの経緯を時系列にする
- 遺産を取得したり使ったりしていないか確認する
- 先順位者の放棄で初めて相続人になった場合
- 債権者への返答と裁判所の手続を並行する
- 相談の際に伝えるべき項目
- よくある質問
まず請求書と封筒を保存する
請求書は一部だけを撮影するのではなく、表裏、添付資料、封筒を保存します。差出人、債権者名、元の契約者、契約日、請求額、回答期限を確認し、実際に自分が受け取った日も記録してください。
債権回収会社からの通知であれば、もとの債権者と債権が移った経緯を確認します。亡くなった方が主債務者なのか保証人なのかも重要です。同じ「借金」という言葉でも、契約内容や残高を確かめる資料は異なります。
知らない会社からの請求である場合は、通知に記載された連絡先だけを頼りに個人情報やお金を渡さず、相手の実在性と請求の根拠を確認します。一方、本物か分からないという理由で書類を捨てたり、裁判所からの書類を放置したりしないようにします。
裁判所から届いた訴状や支払督促等には、通常の催告書とは別の対応期限があります。相続放棄を検討しているだけでその手続が止まるわけではないため、相談予約の際に裁判所名と書類の種類、受領日を伝えてください。
原則の起算点と例外的な検討を分ける
相続放棄の熟慮期間は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月です。死亡と自分が相続人となったことを知っていた場合、負債の存在を知らなかったという事情だけで当然に期間が始まらないとはいえません。[1]
札幌家庭裁判所の案内では、相続財産が全くないと信じ、それに相当な理由がある場合などには、財産の存在を認識してからの申述が受理されることもあると説明されています。個々の事情を踏まえた判断であり、受理が保証されるものではありません。[2]
亡くなった方と疎遠だったことは事情の1つですが、それだけで結論が決まるわけではありません。生前の交流、死亡時の説明、手元にあった資料、財産を調べた経緯を合わせて整理する必要があります。
相続財産が全くないと思っていた場合と、預金や不動産は受け取ったが借金だけ知らなかった場合を混同しないようにします。似た相談例の結論をそのまま当てはめず、自分の事実関係を確認してください。
死亡前後からの経緯を時系列にする
最初に、亡くなった日、死亡を知った日、知らせた人、知らせの内容を記録します。葬儀に参加したか、遺品や書類を受け取ったか、誰が財産を管理していたかも、分かる範囲で整理します。
次に、財産や借金について誰から何を聞いたかを記載します。「財産はない」と言われた場合は、誰が、いつ、どのような調査を基に説明したのかを確認してください。自分の推測と、他人から聞いた説明を分けることが大切です。
今回の請求以前に届いた通知や、通帳の引落し、保証に関する話を聞いた記憶があれば、それも記載します。不利に見える事情を除くと、相談での判断と実際の手続が食い違うおそれがあります。
日付を思い出せない場合は、無理に正確な日を作らず、「葬儀の翌週ごろ」「このメールより前」といった分かる範囲を示します。メール、手帳、郵便の記録等で裏付けられる部分を後から補ってください。
遺産を取得したり使ったりしていないか確認する
過去に預金を払い戻した、不動産を自分名義にした、自動車を売却したなどの行為があれば、単純承認との関係を検討する必要があります。今回の請求が初めてだからといって、過去の財産処分を確認しなくてよいわけではありません。[1]
家族から受け取ったお金についても、何のお金だったかを確かめます。遺産の分配なのか、家族自身からの贈与なのか、立替金の返還なのかで問題が異なります。振込記録や当時のメッセージを保存してください。
遺産分割協議書に「自分は取得しない」と書いた場合も、家庭裁判所で相続放棄をした場合とは違います。取得額がゼロという合意だけで、債権者に対する相続債務の負担が当然になくなるとは限りません。
以前に相続放棄をした記憶がある場合は、受理通知書や受理証明書を探します。対象となる被相続人と申述した人を確かめ、別の相続の手続と取り違えていないか確認してください。
先順位者の放棄で初めて相続人になった場合
子などの先順位の相続人が全員放棄したことにより、父母や兄弟姉妹に相続の問題が移る場合があります。死亡自体を知っていた日と、自分が相続人となったことを知った日が異なることがあるため、その経緯を分けて整理します。[1]
親族から口頭で「全員放棄した」と聞いただけの場合は、誰が、どの裁判所で、いつ手続をしたのかを確認します。単に遺産を受け取らないと話し合っただけの可能性もあるため、正式な相続放棄の有無を資料で確かめます。
複数の相続人について同じ日付を一律に当てはめず、それぞれが事情を知った時期を確認します。親族の1人が相談しているから自分の期限も守られる、と考えないようにしてください。
債権者への返答と裁判所の手続を並行する
債権者には、請求の根拠となる契約書、保証関係、残高や返済履歴等の資料を確認します。電話で即答を求められても、支払義務を認める文書への署名や一部入金を急がず、具体的な対応を相談してください。
その一方で、相手の回答を待ってから相続放棄を検討するという順序では、必要な申述が遅れるおそれがあります。申述の準備に必要な戸籍等の収集と、請求内容の確認を同時に進めます。[3]
相続放棄の申述書や照会への回答では、遅れた経緯を正確に説明します。文章を短くするために重要な事実を省かず、当時知らなかったことと、今回初めて知ったことを区別してください。根拠資料があれば対応させて提出を検討します。
受理された場合には、請求している債権者に受理の事実を連絡し、必要に応じて証明書等を示します。ただし受理によって、後に相続放棄の有効性が争われる可能性まで必ずなくなるわけではありません。請求が続く場合は、書類を残して再度相談します。[2]
相談の際に伝えるべき項目
相談には、請求書一式、死亡等の日付、家族関係、相続財産がないと考えた理由、財産を取得又は処分した記録を用意します。資料が足りなくても、今回いつ請求を知ったかと、裁判所から書類が来ているかを先に伝えてください。
「何年前の相続か」だけでは判断できません。時間がたった経緯と財産の認識を説明できる資料を集め、相続放棄の可能性、債務自体への対応、裁判の期限を分けて検討することが大切です。結論を自分で決めて放置する前に、確認を進めましょう。
よくある質問
Q. 借金を知ってから必ず3か月ありますか
A. 必ずではありません。相続を知った時期や財産の認識、過去の行為を合わせて検討します。
Q. 死亡から数年たっていれば絶対に放棄できませんか
A. 例外的に検討できる場合があります。財産がないと信じた理由など具体的な事情を確認します。
Q. 親族から何も受け取っていなければ借金も関係ありませんか
A. 取得がゼロでも相続放棄とは限りません。家庭裁判所での手続の有無を確認します。
Q. 一部だけ支払って時間を稼いでもよいですか
A. 支払や約束には法的な影響があり得ます。入金前に請求内容と対応を相談してください。
Q. 書類が全部そろうまで相談を待つべきですか
A. 待つ必要はありません。受領日と届いた書類を先に伝え、必要な準備を確認します。
参考資料(一次資料)
- [1] 民法(現行条文)
- [2] 札幌家庭裁判所 相続放棄の申述とQ&A
- [3] 裁判所 相続の放棄の申述
- 資料確認日 2026年9月23日
ご相談について
札幌手稲ポプラの丘法律事務所では、相続に関するご相談を承っています。手元の資料とこれまでの経緯を基に、必要な手続と対応の順序を整理します。

