遺言で実家などを相続した後、きょうだいから遺留分侵害額の請求書が届くことがあります。高額な数字を見てすぐに支払を約束する前に、請求する人の資格、計算の根拠、通知の時期、自分が取得した財産を確認しましょう。[1]
請求書に書かれた回答期限と、法律上の権利行使の期間は別のものです。一方で、無視してよいという意味でもありません。この記事では2019年7月1日以後に開始した相続を前提に、請求を受けた側が整理したい事項を説明します。[2]
この記事の内容
- 封筒と通知書をそのまま保存する
- 請求資格と適用される制度を確かめる
- 計算の前提を1項目ずつ照合する
- 生前贈与と複数の受取人の関係を調べる
- 通知の時期と期間の主張を慎重に確認する
- 現金が足りない場合の支払案を作る
- よくある質問
封筒と通知書をそのまま保存する
最初に、請求書の全文、添付資料、封筒、配達日が分かる資料を保存します。代理人からの通知なら、その氏名と連絡先、依頼者を確認します。電話で説明を受けた場合も、日時と話した内容を記録しておいてください。
通知が複数回届いているときは、最初の通知を探します。後の書面だけを見て期限を判断すると、既に権利行使がされていたことを見落とす場合があります。電子メールや過去の親族間のやり取りも関連するものをまとめます。
相手が指定した短い期限までに調査が終わらない場合は、その事情と回答予定を伝えることを検討します。十分な確認をせず「全額払う」と述べたり、請求を認める趣旨の書面へ署名したりする前に内容を点検しましょう。
裁判所から届いた書類は、私的な請求書とは対応が異なります。期日や提出期限を確認し、放置しないでください。封筒の種類だけで自己判断せず、書類名と事件番号が分かる状態で相談すると手続を確認できます。
請求資格と適用される制度を確かめる
請求者が遺留分を有する相続人又はその承継人に当たるかを確認します。兄弟姉妹には遺留分がなく、相続放棄等がある場合には立場の確認も必要です。ただし、家族と疎遠だったことや介護をしなかったことだけで権利がなくなるものではありません。[1]
被相続人の死亡日を確認し、改正前後のどちらの制度かを調べます。現行制度では金銭の請求が中心ですが、2019年7月1日より前に開始した相続を同じ前提で扱うことはできません。[2]
自分が遺言で何を取得したかも正確に読みます。不動産1件だけなのか、全財産なのか、生前贈与もあるのかを区分します。「遺言執行者に指定された」という立場と、「財産を受け取った」という立場は異なります。
遺言に「ほかの子には渡さない」と書かれていても、それだけで遺留分の請求を排除できるとは限りません。故人の希望を尊重することと、法律上の請求へ対応することを分けて考える必要があります。
計算の前提を1項目ずつ照合する
請求額の総額を見る前に、基礎財産、遺留分割合、請求者が取得した財産、債務などの計算表を求めます。民法は計算と負担について複数の調整を定めており、遺産総額の半分をそのまま払う仕組みではありません。[1]
不動産がある場合は、対象となる土地や建物、持分、評価時点、評価資料を確認します。固定資産税の評価、相続税の評価、売却査定の数字を混ぜていないかを点検し、異なる資料を使う場合はその理由を説明できるようにします。
預金は死亡時の残高と、その後の払戻しを区別します。有価証券についても数量と評価の時点を確認してください。葬儀費や自分の立替金を全て当然に控除できると考えず、計算に入れる法的根拠を確かめます。
請求者が生前に住宅資金等を受け取っていた場合には、その内容と資料を整理します。ただし、単に「昔、親に世話になっていた」という説明だけでは計算できません。時期、金額、目的、当事者を具体化してください。[1]
生前贈与と複数の受取人の関係を調べる
贈与の算入には、相手、時期、目的などによる規律があります。相続人への一定の贈与についての10年という期間だけを見て判断せず、例外や請求者自身の受益を控除する問題との違いを確認します。[1]
財産を受け取った人が複数いる場合、誰が先に、いくらまで負担するかは法律の定めによります。自分が連絡窓口だからという理由で全員分の支払を約束しないようにしてください。遺言の指定内容も確認が必要です。[1]
贈与と貸付けの区別に争いがある場合は、契約書、振込記録、返済記録、本人の説明を集めます。資料のない部分を推測で埋めず、「贈与との主張があるが確認できていない」と整理して争点を見える形にします。
自分で債務を支払っていた場合にも、その支払が遺留分の負担へどう影響するかを検討します。同じ支出を基礎財産の計算と別途精算の両方で二重に差し引かないよう、計算表の各項目を対応させることが重要です。
通知の時期と期間の主張を慎重に確認する
遺留分の権利行使には、相続開始と侵害する贈与又は遺贈を知った時から1年、相続開始から10年という期間の定めがあります。請求書を受け取った日と死亡日だけで、必ず期間が過ぎていると判断できるわけではありません。[1]
相手がいつ遺言を受け取ったか、以前に請求の意思を伝えていたかなどを確認します。自分の記憶と相手の認識が違う場合には、手紙やメール、書類送付の記録を照合します。期間に関する主張も資料が重要です。
時効等を主張できるか確認せずに、支払義務を認める返答や一部入金をすることは避けて検討してください。単に相手をなだめるつもりだったとしても、その行動が後の法的評価に影響する場合があります。
相手の権利行使が済んだ後の金銭債権の管理にも別の問題があります。最初の1年だけを確認して対応が終わるわけではありません。通知から現在までの経緯を一続きの時系列にして相談しましょう。
現金が足りない場合の支払案を作る
実家を取得したものの預金は少ないという場合には、請求額の検討と同時に資金計画を作ります。手元資金、金融機関への相談、売却の可能性、生活費への影響を確認し、根拠のない支払日を約束しないことが大切です。
分割払いや支払猶予は、相手との合意内容として検討できます。民法1047条5項には、受遺者等の請求により裁判所が相当の期限を許与できる規定もありますが、資金不足を述べれば自動的に猶予されるものではありません。[1]
不動産を渡して解決する提案をする場合は、相手の合意に加え、登記、評価、税務上の影響を確認します。金銭債務を自分の判断だけで土地の引渡しに置き換えることはできません。各案の実行費用も比較してください。
合意書には総額、各回の支払日、振込方法、遅れた場合の残額の扱い、清算の範囲を記載します。家庭裁判所の調停を利用する場合も、履行できる案と資料を用意します。金額を争う部分と支払方法の相談を分けると交渉を進めやすくなります。[2]
よくある質問
Q. 遺言どおり取得しただけでも支払が必要ですか。
A. 有効な遺言による取得でも遺留分が問題になる場合があります。請求資格、計算、期間を確認して判断します。
Q. 請求書の金額をそのまま払うべきですか。
A. まず計算の根拠と資料を照合してください。受領した財産や債務など、調整すべき項目がある場合があります。
Q. 介護をしなかったきょうだいの請求は拒めますか。
A. 介護をしなかったことだけで遺留分がなくなるわけではありません。感情的な不満と法的な反論を分けて整理します。
Q. 現金がなければ支払わなくてよいですか。
A. 資金不足だけで義務がなくなるものではありません。金額を確認したうえで、合意による支払方法や期限許与等を検討します。
Q. 返事をしないまま様子を見ても大丈夫ですか。
A. 裁判手続へ進む可能性があります。書面を保存し、回答や相談の予定を立て、裁判所の期限は特に確認してください。
参考資料(一次資料)
- [1] 民法(現行条文)
- [2] 裁判所 遺留分侵害額の請求調停
- 資料確認日 2026年9月23日
ご相談について
札幌手稲ポプラの丘法律事務所では、相続に関するご相談を承っています。手元の資料とこれまでの経緯を基に、必要な手続と対応の順序を整理します。

