親の遺言に「財産は全て1人の子へ渡す」と書かれていたとしても、ほかの相続人が必ず何も請求できないとは限りません。一定の相続人には遺留分が認められ、侵害された場合には金銭の支払を求められる可能性があります。[1]
ただし、法定相続分どおりの財産を取り戻す制度ではありません。誰に権利があるか、計算の基礎となる財産はいくらか、いつまでに何をする必要があるかを確認します。この記事は2019年7月1日以後に開始した相続の遺留分侵害額請求を扱います。[2]
この記事の内容
- 遺留分がある相続人を確認する
- 遺言の無効を争うこととは異なる
- 財産と贈与と債務を一覧にする
- 自分が既に受け取ったものも確認する
- 1年の期間と意思表示の方法に注意する
- 交渉と調停で金額や支払方法を詰める
- よくある質問
遺留分がある相続人を確認する
民法1042条は、兄弟姉妹以外の相続人について遺留分を定めています。配偶者や子、相続人となる直系尊属などが問題になりますが、親族であれば誰にでも認められるわけではありません。まず戸籍に基づいて相続人の範囲を確定します。[1]
兄弟姉妹には遺留分がなく、その代襲相続人であるおい・めいにも認められません。また、相続放棄をした人などについては、相続人としての立場自体を確認する必要があります。遺言に名前がないという事実だけで請求の可否は決まりません。
遺留分全体の割合は、直系尊属だけが相続人となる場合は3分の1、それ以外は2分の1です。複数の相続人がいる場合には、その割合に各人の法定相続分を掛けて個々の割合を考えます。「子なら全財産の半分」とは限りません。[1]
相続関係が複雑なときは、配偶者、子、亡くなった子の子、養子などを図にします。家族の認識だけで人数を決めず、戸籍と照合することで、最初の割合計算の誤りを防ぐことができます。
遺言の無効を争うこととは異なる
遺留分の請求は、有効な遺贈等があっても一定の金銭を求める制度です。遺言の全文が無効であると主張することとは異なります。方式の不備や作成時の能力が問題になる場合は、それらの争点を別に整理してください。[1]
現在の遺留分侵害額請求では、原則として侵害額に相当する金銭を求めます。遺言で相手が取得した自宅の持分が、請求しただけで当然に自分へ戻るという制度ではありません。解決方法を考えるときは、この違いが重要です。
遺言の有効性を調べている間にも、遺留分についての期間が問題になります。無効の主張を準備しているから別の期限は気にしなくてよいと考えず、複数の対応をどう両立するか早めに確認しましょう。
2019年7月1日より前に開始した相続には、改正前の制度が問題になります。遺言を書いた日だけで判断せず、被相続人が亡くなった日を基準に、適用される制度を調べてください。[2]
財産と贈与と債務を一覧にする
計算の基礎は、相続開始時の財産に対象となる贈与を加え、債務を控除するなどして求めます。死亡時の預金残高だけに遺留分の割合を掛ければ終わるわけではありません。不動産や有価証券、借入金も確認します。[1]
贈与を算入する期間は、誰に対するどのような贈与かによって異なります。相続人以外への贈与は原則として相続開始前1年間、相続人への一定の特別受益に当たる贈与は原則として10年間が問題となり、当事者の認識に関する例外もあります。[1]
「10年以上前の贈与だから必ず無関係」「親からの送金は全て加算する」といった一律の判断は避けます。贈与の日、相手、目的、金額、契約書や送金資料を並べ、どの規定によって計算に入るかを検討します。
不動産の価格は、固定資産税の評価額や売却査定額がそのまま結論になるとは限りません。評価の時点と方法をそろえ、双方の資料の前提を比較します。数字だけが食い違っているのか、対象財産の範囲から違うのかを分けましょう。
自分が既に受け取ったものも確認する
遺留分の額と実際に請求する侵害額は同じとは限りません。自分が受けた遺贈や一定の贈与、取得すべき遺産の価額、承継する債務などを反映して計算します。相手が受け取った財産だけを調べるのでは不十分です。[1]
説明用に、相続人が子2人だけで、基礎財産が4,000万円、贈与や債務などの調整がなく、1人が全て取得した場合を考えます。他方の子の遺留分割合は4分の1となり、計算上1,000万円が問題になります。実際の事案では追加の調整を確認します。
自分への住宅取得援助や事業資金の提供があった場合も、資料を隠さず相談してください。相手から指摘されてから全体計算をやり直すより、初めから有利な事情と不利な事情の両方を踏まえる方が現実的な見通しを立てられます。
請求先が複数いる場合には、誰がどの順序と限度で負担するかという規定があります。最も資力がありそうな人に全額請求すればよいとは限りません。遺言による取得と生前贈与を分けて一覧を作ります。[1]
1年の期間と意思表示の方法に注意する
遺留分侵害額請求権は、相続開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知った時から1年間行使しないと、時効によって消滅します。相続開始から10年という期間もあります。単に死亡から必ず1年と決めつけず、知った内容と日付を確認します。[1]
資料が全部そろうまで待つと、権利行使が遅れるおそれがあります。正確な額の調査と、期限内に適切な相手へ権利行使の意思表示をすることを分けて検討します。遺言の写しを受け取った日や説明を受けた日の記録も保存してください。
裁判所は、調停を申し立てただけでは相手に対する権利行使の意思表示にはならないため、別に内容証明郵便等による意思表示が必要であると案内しています。申立書を出した安心感だけで対応を終えないことが大切です。[2]
通知は、宛先、対象となる相続、権利を行使する趣旨、送付と到達の記録を確認します。内容証明郵便を使えば文面の不備まで自動的に解消されるわけではありません。送付前に内容と必要な相手方を点検してください。
交渉と調停で金額や支払方法を詰める
権利行使後は、財産資料を照合して争いのある項目を絞ります。相手が財産を取得していても、現金を十分持っていない場合があります。金額の妥当性と、合意した金額をいつ受け取れるかは別に検討する必要があります。
話合いができない場合などには家庭裁判所の調停を利用できます。申立てには戸籍、遺言、財産や債務を示す資料等を準備し、裁判所の案内で不足を確認します。調停で合意できないときの訴訟等の対応も相談してください。[2]
合意書には金額だけでなく、期限、振込先、費用、分割払いの場合の遅延時の扱い、清算の範囲を定めます。まだ調査していない財産まで一切請求しない内容になっていないか、署名前に全文を確認しましょう。
よくある質問
Q. 遺言に名前がなければ相続の権利はありませんか。
A. 一定の相続人には遺留分が問題になります。遺言の内容、相続関係、受け取った財産を確認して判断します。
Q. 亡くなった兄の遺産について妹にも遺留分はありますか。
A. 兄弟姉妹には遺留分が認められません。遺言の有効性など別の問題があるかは区別して検討します。
Q. 請求すると実家の共有者になりますか。
A. 現行の遺留分侵害額請求は金銭請求です。請求だけで実家の持分を当然に取得するものではありません。
Q. 調停を申し立てれば通知は不要ですか。
A. 裁判所は、申立てとは別に権利行使の意思表示が必要と案内しています。期間内の通知を確認してください。
Q. 金額がまだ分からないので待つべきですか。
A. 期限を過ぎないよう、権利行使と金額の調査を分けて相談します。全資料がそろうまで対応を遅らせないことが重要です。
参考資料(一次資料)
- [1] 民法(現行条文)
- [2] 裁判所 遺留分侵害額の請求調停
- 資料確認日 2026年9月23日
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