親が亡くなった後に通帳を見ると、予想より残高が少なく、多額の現金が引き出されていることがあります。ただし、引出しがあったというだけで、管理をしていた家族の使い込みと決まるわけではありません。親自身の生活費、医療費、贈与、口座間の移動などを区別する必要があります。
返還を求めるためには、誰が、いつ、いくらを、どのような権限で引き出し、何に使ったのかを調べます。ここでは、生前の預金の動きを調査し、相続の話合いと返還請求を整理する際の進め方を説明します。[1]
この記事の内容
- まず死亡時の残高と生前の動きを分ける
- 出金を一覧にして重複を防ぐ
- 親の意思と管理を任された範囲を確認する
- 管理していた家族へ説明を求める
- 遺産分割と返還請求の関係を整理する
- 時効と調査費用を見ながら進める
- よくある質問
まず死亡時の残高と生前の動きを分ける
残高証明書は、指定した時点の預金額を確認する資料です。一方、取引履歴は一定期間の入出金を確認する資料です。死亡時の残高が分かっても、それ以前に減った理由までは分かりません。知りたい事項に応じて必要な資料を選びます。
通帳にはまとめて記帳されている部分や、途中のページが欠けている場合があります。手元の通帳だけを見て全期間を把握したと考えず、金融機関に照会できる期間、発行される資料、費用、必要書類を確認してください。
調査は預金の解約や払戻しとは目的が異なります。相続人であることを示す戸籍等を準備し、取引履歴を確認したい旨を金融機関の相続窓口へ具体的に伝えます。金融機関の相続手続では、取引内容や相続の状況に応じて必要な書類が案内されます。[2]
親がまだ存命の場合、将来の相続人というだけで自由に口座情報を取得できるわけではありません。本人の委任や適法な代理権などを確認します。生前の財産管理と、死亡後に相続人として行う調査を混同しないことが大切です。
出金を一覧にして重複を防ぐ
取引日、金融機関、支店、口座、出金額、取引方法、分かっている使途、対応する資料を一覧にします。銀行振込と現金引出しでは追跡できる情報が異なるため、分けて整理してください。最初から全てを不正出金という欄に入れるのは避けます。
ある口座から引き出したお金が別の口座へ入っている場合、資産全体では減っていない可能性があります。定期預金の解約、証券口座への送金、保険料の支払なども確認し、出金だけを足して損害額としないようにします。
現金をまとめて引き出して数か月の生活費に充てる家計では、引出日と実際の支出日がずれます。月ごとの通常支出と比べることは手掛かりになりますが、平均額を超えた分が直ちに使い込みになるわけではありません。
例えば説明用に、100万円の出金後に別口座へ80万円が入金され、残り20万円の領収書が見つかった場合を考えます。この場合、100万円全額を使途不明と扱うのは適切ではありません。確認できた部分から表を更新していきます。
親の意思と管理を任された範囲を確認する
家族が通帳やカードを持っていたとしても、自由に贈与を受けたり自分の費用に使ったりする権限まであったとは限りません。他方、本人から生活費の支払や現金の保管を任されていた可能性もあります。何を頼まれていたのかが重要です。
委任状、家族間のメッセージ、家計簿、本人が書いたメモ、過去の精算方法などを確認します。「全部任されていた」「親がくれた」という説明についても、具体的な時期、金額、話合いの状況を確かめていきます。
贈与であれば、渡した側と受け取った側の意思の合致などが問題になります。単に相手の口座へ送金されたという事実だけで、貸付け、預り金、費用精算のいずれかが決まるものではありません。[1]
親の判断能力に疑問がある時期には、その当時の状態も調べます。診断名があることと、個々の支払や贈与を理解していたかは同じ問題ではありません。診療や介護の記録、本人の説明の内容、金額の大きさなどを合わせて検討します。
管理していた家族へ説明を求める
最初の連絡では、対象期間と確認したい取引を示すと回答しやすくなります。「全財産を返せ」と要求するより、一覧表の何番について、どのような支出だったか、領収書や振込先の資料があるかを尋ねる方が調査につながります。
電話だけでは説明の細部が残りにくいため、やり取りの日付と内容を記録します。回答が来たら、説明された事項、資料で確認できた事項、なお不明な事項を分けてください。回答に納得できないことと、返還義務が証明できたことは異なります。
介護費や葬儀費をまとめて説明された場合は、生前の支出と死亡後の支出を区分します。誰が契約し、誰のために支払い、誰が最終的に負担する話だったかによって整理が変わるため、支払名目だけで判断しません。
原本を相手へ渡す必要がある場面では、先に写しを確保し、何を渡したか記録します。調査中の疑いを親族以外へ広く伝える行為は、別の紛争を生むことがあります。資料の取得と説明の要求を中心に進めましょう。
遺産分割と返還請求の関係を整理する
死亡時に残っている遺産をどう分けるかという問題と、生前に無断で使われたお金の返還を求める問題は、常に同じ手続で解決できるわけではありません。不当利得返還請求や損害賠償請求など、事実に応じた法律構成を検討します。[1]
家族全員が金額と取扱いに合意できれば、分割の話合いと関連させて精算する余地があります。しかし、引き出した事実、権限、使途、返還義務自体に争いがある場合には、民事訴訟等の別の手続が必要になることがあります。
親から有効な贈与を受けていた場合は、無断使用の返還ではなく、特別受益などの問題を検討することになります。返してほしいという希望だけで請求の種類を決めず、出金ごとにどの関係に当たるかを整理します。[1]
請求できる人と範囲の確認も必要です。1人の相続人が、当然に全相続人分をまとめて回収できると考えないでください。相続関係や請求権の性質を踏まえて、当事者と金額を決める必要があります。
時効と調査費用を見ながら進める
返還請求等の期限は、請求の法的根拠、権利行使が可能になった時期、事実を知った時期、適用される改正前後の法律などによって検討します。死亡した日から一律に数えればよいわけではありません。[1]
古い出金について調査を続けている間にも、期限の問題が進むことがあります。取引履歴が全て集まるまで相談を待たず、疑わしい取引の日付と分かっている事情を持参してください。請求書を1度送れば永久に時効が止まるという理解も適切ではありません。
調査範囲は、対象額、資料取得費用、見込まれる争点を考えて決めます。まず高額又は集中した出金を確認し、その結果によって期間を広げる方法もあります。感情的な対立だけが深まらないよう、確認済みの事実を少しずつ増やすことが重要です。
よくある質問
Q. 多額の現金引出しがあれば使い込みですか。
A. それだけでは判断できません。本人の支出、別口座への移動、管理の委任、贈与などの可能性を確認します。
Q. 残高証明書だけで調査できますか。
A. 残高証明書と取引履歴は分かる内容が異なります。生前の動きを確認したい場合は、金融機関へ必要な資料を相談してください。
Q. 通帳を管理していた人が全て返すべきですか。
A. 管理していたことだけで全額の返還義務が決まるわけではありません。権限、実際の取引、使途を具体的に調べます。
Q. 遺産分割調停で必ず返還まで解決できますか。
A. 必ず同じ手続で解決できるとは限りません。返還義務自体に争いがある場合は、別の民事手続を検討します。
Q. 古い出金なので相談する意味はありませんか。
A. 期限の判断には事実関係の確認が必要です。出金日と気付いた日、手元の資料を整理して、早めに相談してください。
参考資料(一次資料)
- [1] 民法(現行条文)
- [2] 全国銀行協会 預金相続の手続の流れ
- 資料確認日 2026年9月23日
ご相談について
札幌手稲ポプラの丘法律事務所では、相続に関するご相談を承っています。手元の資料とこれまでの経緯を基に、必要な手続と対応の順序を整理します。

