施設で穏やかに過ごしたいと本人は話していたが、状態が変わると家族から救急搬送を求められた。別の家族は搬送に反対している。こうしたとき、介護職員だけで家族の多数決を取ったり、昔の同意書だけで対応を決めたりしてはいけない。
看取りの方針は、本人の意思と医学的な評価を踏まえ、医療・ケアチームで繰り返し話し合う過程が重要である。本稿では厚生労働省のガイドラインを基に、施設が平時から準備する説明、記録、連絡体制を扱う。個別の治療や救急対応の判断は、主治医等と具体的に確認する。[1][2]
この記事の内容
- 1 入所時の署名でその後の意思を固定しない
- 2 本人の意思を確認する支援を先に考える
- 3 家族の希望と本人についての情報を分けて聞く
- 4 心肺蘇生の方針と日常の治療を混同しない
- 5 話し合いの内容を夜勤者まで届く記録にする
- 6 施設が約束できる体制を点検する
- よくある質問
1 入所時の署名でその後の意思を固定しない
本人の希望は、体調、生活、病状の説明を受けたことなどによって変わり得る。入所時に書面があっても、その時点の理解と現在の状況が同じとは限らない。看取りに関する説明を、事務手続として一度済ませるだけにしないことが必要である。
話し合いでは、どこで過ごしたいか、何を大切にしているか、どのような状態を心配しているかを聞く。「延命を希望する・しない」という選択肢だけでは、具体的なケアの方針まで分からない。本人が話したくない時期や内容にも配慮し、急いで結論を迫らない。
病状や提供できる医療については、医師等から適切な説明を受けられるようにする。施設でできることとできないことを曖昧にしたまま「最期まで対応します」と約束すると、夜間の急変時に本人と家族の期待との間に差が生じる。
2 本人の意思を確認する支援を先に考える
本人の意思が確認できる場合は、その意思決定を基本として、医療・ケアチームとの十分な話し合いを進める。聞こえにくさ、疲れ、環境、説明の難しさが意思表示を妨げていないかを確かめる。家族が答える方が早いという理由で、本人への確認を省略しない。[1]
認知症があることだけで、すべての意思確認ができないと扱うべきではない。理解しやすい言葉で少しずつ説明し、体調のよい時間を選ぶなど、支援を工夫する。日々のケアで見られた希望や生活歴は重要な手掛かりだが、職員の推測を本人の確定した意思に置き換えない。
意思が確認できない場合には、以前の発言や価値観を踏まえ、本人の意思を推定できるかを検討する。推定が難しい場合も、本人にとって何が最善かをチームで慎重に考える。家族がいないことを理由に検討を止めない。[1]
3 家族の希望と本人についての情報を分けて聞く
家族の意見が割れたときは、「本人は以前どう話していたか」と「家族自身は何を希望しているか」を分ける。遠方の家族は日常の変化を知らず、近くの家族は長期間の介護負担を抱えていることもある。どちらかを非協力的と評価する前に、持っている情報の違いを確認する。
本人が信頼する人は、必ずしも戸籍上の近親者に限られない。誰と話し合いたいか、意思を伝えられないときに誰の意見を参考にしてほしいかを、可能な時期に確認しておく。単に緊急連絡先の一番上の人がすべて決める運用にはしない。
一度の電話で全員の合意を取ろうとせず、医療職を含めて説明の場を設ける。各人の質問に答え、何が一致し、何がまだ一致していないかを記録する。意見がまとまらない場合などには、ガイドラインが示す、チーム外の者も加えた複数専門家による検討の場を考える。[1]
4 心肺蘇生の方針と日常の治療を混同しない
心肺蘇生に関する意思表示があっても、それがすべての治療や苦痛緩和を行わないという意味とは限らない。どの状態について何を話し合ったのかを明確にし、発熱、転倒、窒息等の別の場面に機械的に当てはめない。医療職の指示と施設の緊急対応手順を確認する。
「看取りだから救急車を呼ばない」という一文だけでは、想定外の急変に対応できない。夜間に誰へ連絡し、つながらないときはどうするか、どの資料を確認するかを具体化する。生命の危険がある場面で、管理者への連絡待ちだけを理由に必要な救護を遅らせない。
本人や家族に示す書面も、専門用語へのチェックだけで終えない。説明した選択肢、本人の理解、未決定の事項を残す。介護職員が医学的な指示を独自に解釈して変更することは避け、曖昧な表現は平時に医療職へ確認しておく。
5 話し合いの内容を夜勤者まで届く記録にする
記録には、日時、参加者、医師等の説明内容、本人の言葉、家族の意見、合意した事項、未決定事項、次の見直し時期をまとめる。「家族了承済み」だけでは、何に了承したのか分からない。本人の希望が変わったときは、変更前の経過を消さずに新しい方針を明示する。
長い面談記録と、緊急時に確認する最新の連絡・対応票は役割を分ける。最新の方針、主治医等の連絡先、文書の作成日、参照する元の記録を短時間で確認できるようにする。ただし要約する際に、条件付きの方針を無条件の指示に変えない。
札幌で家族が道外に住んでいる場合などは、遠隔での説明方法や連絡の順番も決めておきたい。距離があることと、本人の意向を尊重しなくてよいことは無関係である。オンライン面談でも参加者の確認と情報管理に留意する。
最新の方針が複数あるように見える場面
例えば、紙のファイルには搬送を希望しないという古い面談記録があり、直近の連絡帳には家族が受診を希望したと書かれている場合、夜勤者はどちらを参照するか迷う。単に新しい日付を優先するのではなく、誰が何について話し、医療職とどのように確認した方針なのかを整理する。
記録の更新を担当する人を決め、正式な方針を確認した後に要約票へ反映する。元の面談記録は保存し、変更理由や確認者も残す。家族から新しい希望を聞いた職員が、独断で医師の指示欄を書き換えるような運用にはしない。
定期的な職員の確認では、書類があるかだけでなく、実際に夜間に取り出せるかを試す。鍵のかかった事務室にしか置かれていない、電子記録の閲覧権限がない、連絡先が古いといった問題は、急変時になって初めて分かることがある。
看取りの後にも、方針どおりに対応できたか、本人や家族への説明に不足がなかったかを振り返る。誰かを責める会議ではなく、連絡と記録、体制の改善に結び付ける。家族への事後の説明で疑問が残った事項は、医療職と確認して回答する担当者を決める。
6 施設が約束できる体制を点検する
看取りの説明は、夜間の看護体制、医師との連絡、症状への対応、家族の面会等の実態に合わせる。営業時の説明と現場の体制が違うと、方針の合意そのものが不十分になる。職員が交代しても同じ説明ができるよう、説明資料を定期的に見直す。
- 本人の意向を確認した時期と方法が分かる
- 医療職による説明と家族の質問を記録した
- 心肺蘇生、救急対応、日常のケアを区別している
- 意見がまとまらないときの相談先を決めた
- 夜勤者が最新の方針と連絡先を確認できる
よくある質問
Q. 入所時の看取り同意書があれば十分ですか
A. 状況や意思は変わり得ます。病状や生活の変化に応じて話し合い、内容を更新する必要があります。
Q. 家族の多数決で決めてよいですか
A. 本人の意思や推定意思を中心に検討します。まとまらない場合は、外部の専門家等を加えた話し合いも検討します。
Q. 認知症なら本人への説明は不要ですか
A. 不要とはいえません。説明の方法や時間帯を工夫し、本人が理解し意思を示せるよう支援します。
Q. 蘇生を希望しない人には治療もしないのですか
A. 同じ意味ではありません。対象となる状態と対応を医療職と確認し、必要なケアや苦痛緩和を一括して中止しません。
Q. 弁護士が医療方針を決めるのですか
A. 医療上の判断を代わりに行うものではありません。説明・記録・契約や意見対立への対応を法的な観点から整理します。
参考資料(一次資料)
- [1] 厚生労働省 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
- [2] 厚生労働省 同ガイドライン解説編(2018年3月)
- 資料確認日 2026年9月23日
ご相談について
本人・家族への説明記録、契約、施設の連絡体制を確認します。医療上の判断は医療職と連携しながら、意見対立への対応と記録を法的な観点から整理します。
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