利用者の状態が変わり、現在の職員体制では対応が難しい。支援方針が合わず、サービスの継続に支障が出ている。こうした場面で、契約書に解除条項があることだけを理由に終了日を通知するのは危険である。契約上の問題と、指定基準上の提供拒否や必要な連携を分けて確認する必要がある。
本稿では訪問介護を主な例に、事業所からの契約終了を検討する順番を整理する。暴言や暴力への対応だけを扱う記事ではなく、サービス提供が難しくなったときの判断、説明、移行を対象とする。施設入所や有料老人ホームでは異なる基準・契約も確認する。
この記事の内容
- 1 困っている理由を具体的に分ける
- 2 契約書と指定基準の両方を確認する
- 3 継続するために試せる調整を検討する
- 4 終了を検討するなら理由と予定を明確に伝える
- 5 支援が途切れないよう引継ぎの役割を決める
- 6 通知前に管理者が確認すること
- よくある質問
1 困っている理由を具体的に分ける
「対応困難」「信頼関係がない」という言葉だけでは、何を改善すれば継続できるか分からない。必要な医療的対応が事業所の範囲を超えるのか、サービス区域や提供時間の問題か、契約外の支援を求められているのか、職員の安全が脅かされているのかを区別する。
利用者の要介護度が高い、所得が低いといった属性だけを理由にしない。国の訪問介護の解釈通知は、正当な理由のない提供拒否を禁じる基準について説明している。提供できない事情があるなら、当該利用者に必要な内容と事業所の具体的な対応能力を照らし合わせる。[1]
記録には、問題が起きた日時、求められた支援、現場の対応、本人や家族の説明を残す。職員の主観的な負担感だけでも、家族の要求だけでも判断しない。管理者が状況を整理し、現場に何をしてよいかを明確にする。
2 契約書と指定基準の両方を確認する
契約書には、終了事由、予告期間、通知方法、料金の精算などが定められていることが多い。しかし、契約上の文言があるだけで、そのとおりの終了が常に有効になるわけではない。条項の内容や利用者への説明、適用される法律、具体的な事実を検討する。
債務不履行を理由に解除する場合、民法541条の催告や不履行の程度等が問題になる。直ちに解除できるとする例外を使うときも、該当する事情を確認する。「契約違反が一度あったから即日終了」と機械的に処理しない。[2]
また、私法上の契約を終了できるかと、指定事業者として行政上どのような対応を求められるかは、完全に同じ問題ではない。訪問介護の基準に関する説明を、あらゆる施設の退去にそのまま当てはめないことも重要である。
3 継続するために試せる調整を検討する
終了を通知する前に、ケアマネジャー等と、提供方法や時間帯、役割分担、他のサービスとの組合せを検討する。医療的な判断が必要なら主治医や看護職につなぐ。変更によって対応できる可能性があるのに、それを検討しないまま事業所の都合だけで終わらせない。
利用者や家族が求めている内容が契約外なら、どこまでが契約上の支援で、何は別の調整を要するかを説明する。「できません」だけでなく、実施可能な方法と相談先を示す。担当職員ごとに約束が違っていた場合には、事業所側の説明をそろえることが先になる。
職員の安全が関係する場合も、複数名対応や連絡方法の変更等を検討する一方、差し迫った危険を職員に我慢させない。緊急の危険回避と恒久的な契約終了を区別し、安全確保をしたうえで組織として次の支援体制を協議する。
4 終了を検討するなら理由と予定を明確に伝える
通知には、問題となる具体的事情、これまでの協議、改善を求める内容、返答期限、予定する対応を記載する。単に「施設長判断により契約解除」と書いても、本人が何を指摘されているか理解できず、紛争が大きくなるおそれがある。
改善を求める場合は、利用者が実行できる内容かも考える。認知症の症状に由来する行動に対して、本人へ抽象的に「二度としないと約束してください」と迫るだけでは、解決にならない。医療・ケアの見直しを要する事項と、家族への協力依頼を分ける。
通知の受領者にも注意する。本人、適法な代理人、連絡窓口の家族は立場が異なる。家族だけへ送って本人への説明を省略したり、逆に本人が内容を理解するための支援を要するのに書面だけを渡したりしない。
5 支援が途切れないよう引継ぎの役割を決める
国の訪問介護の解釈通知は、正当な理由により適切な提供が困難な場合、居宅介護支援事業者への連絡、ほかの事業者の紹介などの必要な措置を速やかに行うとしている。契約終了を告げたことだけで、事業所の検討が終わるわけではない。[1]
移行先の確保には時間がかかることもあるため、必要な支援内容、本人の希望、空白が生じる時間帯を共有する。札幌市内でも提供区域や時間帯で候補が変わるので、連絡した事業所名だけでなく、対応可否と理由を記録する。
引継ぎでは、本人の同意等と情報の必要性を確認し、最新の支援計画、注意点、緊急時の連絡先などを整理する。事業所間の感情的な評価や家族への悪口を引き継がない。終了後の料金精算、鍵や物品の返却、記録の保存も担当を決める。
医療的な支援が増えた場面
例えば、退院後に必要な支援が変わり、従来の訪問介護だけでは生活を支えきれない場合、事業所は「医療行為があるから終了」と一括して処理しない。どの行為を誰が行う必要があり、訪問看護等との連携で担当できる部分が残るかを確認する。
病院や家族へ提供可能な時間と内容を伝え、退院日との関係を調整する。できない業務を引き受けることも、相談を受けたまま回答を放置することも適切ではない。本人の安全に関わる不足が残る場合は、その内容と協議先を明示し、関係者に判断を求める。
協議の結果として契約を終了する場合は、最後の提供日、次の事業所の開始日、鍵や書類の受渡しを一つの予定表にする。予定がずれた場合の連絡者も決める。書面上の契約終了日だけ整っていても、実際の支援の空白が残れば、本人は困る。
終了後に問い合わせを受ける範囲や、未精算の費用についても説明を残しておく。継続できなかったことの責任をすべて家族へ帰す文章ではなく、事業所の対応可能範囲、検討した代替策、合意した移行内容を具体的に記載することが、後の紛争を減らすうえで役立つ。
6 通知前に管理者が確認すること
終了通知は一度出すと関係の修復が難しくなることがある。事実、契約、代替策、移行について、現場を知らない責任者でも経過を追える形にしてから決裁する。終了が難しいことと、どんな要求にも従わなければならないことは同じではない。
- 提供困難の理由を具体的事実で説明できる
- 契約条項とサービス種別の指定基準を確認した
- ケアマネジャー等と継続・変更の方法を検討した
- 改善の求め方と通知の相手・方法を確認した
- 移行先との調整、精算、物品返却の担当を決めた
よくある質問
Q. 契約書に1か月前通知とあれば必ず終了できますか
A. 予告期間だけで決まりません。終了事由、事情、条項の有効性、指定基準、移行対応等を確認します。
Q. 要介護度が上がったら断れますか
A. 要介護度だけを理由に一律に拒否できません。必要な支援内容と具体的な対応能力、調整の可能性を検討します。
Q. 職員に危険があっても訪問を続ける必要がありますか
A. 危険を放置する必要はありません。緊急の安全確保を行い、ケアマネジャー等と代替支援や今後の契約対応を速やかに協議します。
Q. 次の事業所を探すのは家族だけの責任ですか
A. 指定基準上求められる連絡や紹介等を確認します。終了通知だけで事業所の対応を終えないようにします。
Q. 契約終了の通知は弁護士に見てもらうべきですか
A. 対立が大きい、医療・生活への影響が大きい、条項の適用が曖昧な場合は、通知前に事実と契約を整理して相談すると方針を検討しやすくなります。
参考資料(一次資料)
- [1] 厚生労働省 指定居宅サービス等の基準について(訪問介護の提供拒否・提供困難時の対応)
- [2] 民法(415条・446条・465条の2・541条・709条等)
- 資料確認日 2026年9月23日
ご相談について
提供困難となった経緯、契約、関係機関との協議記録を確認し、継続・変更・終了の方針を整理します。終了通知を出す前の段階でご相談ください。
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通知が届いた、指摘を受けた、返還を求められている、職員との間で問題が起きている。介護・障害福祉の現場で起きる問題は、制度と実務の両方を知らなければ対応できません。
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