利用料の未払いが続くと、事業所はサービスを維持する費用を負担し続けることになる。しかし、連絡先に書かれた家族へ当然に請求できるとは限らず、請求書を送った直後に介護を打ち切ることにも問題がある。回収の相手と根拠を確かめ、生活支援の調整と並行して進めたい。
本稿は、介護サービスの利用者負担や契約上の費用について、未収金を把握した段階からの対応を扱う。介護報酬の返還や不正請求に伴う加算金とは別の問題である。施設の種類と契約によって扱いが変わるため、共通の順番を押さえたうえで個別に確認する。
この記事の内容
- 1 まず請求の内容と金額を説明できる状態にする
- 2 契約者と連絡先と保証人を分ける
- 3 本人の事情を確認し支援制度につなぐ
- 4 分割払いは金額だけでなく充当方法を決める
- 5 督促とサービス終了を一つの判断にしない
- 6 月次の確認で滞納を見えるようにする
- よくある質問
1 まず請求の内容と金額を説明できる状態にする
未払いを確認したら、利用月、費目、請求日、支払期限、既払金を並べた明細を作る。介護保険の利用者負担、食費、居住費、保険外サービス等を一つにまとめず、契約や説明に対応させる。金額の根拠が分からない請求では、家族へ督促しても話が進まない。
口座振替の失敗や請求先変更の行き違いなのか、内容に異議があるのか、支払能力の問題なのかを区別する。例えば入院中の費用に疑問がある場合は、まず請求条件と契約の説明を確認する。すべての未入金を支払拒否とみなすと、事業所側の誤りを見落とす。
会計担当と現場で連絡が分断されないことも大切である。利用者の入退院や負担割合の変更など、請求に影響する情報を確認し、誤りがあれば訂正する。訂正前の請求書と訂正理由を残せば、後の残高照合も容易になる。
2 契約者と連絡先と保証人を分ける
本人が契約上の支払義務を負う場合、家族であるという理由だけでその家族が当然に同じ義務を負うわけではない。契約者、代理人、請求書の送付先、緊急連絡先、保証人の欄を確認する。「身元引受人」という名称だけで責任の内容を決めないことが重要である。
保証契約は民法446条の書面等の要件が問題になる。継続的に発生する利用料等を個人が保証する契約が個人根保証に当たる場合には、465条の2の極度額も確認する。本人の署名や家族の連絡先だけをもって、有効な保証契約が成立したと扱わない。[1]
古い契約では締結時期、更新や変更の経緯も調べる。契約書が見つからないまま「以前から家族が払っていたから」と請求を続けるより、支払の法的根拠を先に整理する方が、交渉方針を立てやすい。回収の難しさを現場職員の説得力だけの問題にしない。
3 本人の事情を確認し支援制度につなぐ
本人に支払の意思はあっても、通帳の管理や手続が難しくなっている場合がある。親族が対応できない、年金等の管理がうまくいかない、負担軽減の申請が未了といった事情も考えられる。事業所が勝手に本人の財産を動かすのではなく、ケアマネジャーや市町村等の窓口と支援方法を検討する。
支援制度は、利用者の収入・資産、サービスの種類などで対象が異なる。施設側から利用できると断定せず、窓口へ確認する。支援につなぐことと債権を放棄することは別なので、現在の未払い残高と今後の費用を引き続き記録する。
家族へ連絡する場合も、本人の状況と情報提供の範囲に留意する。親族間の対立がある事案で全員へ請求情報を一斉送信することは避けたい。交渉窓口と請求の相手を整理し、本人の生活が途切れない調整を並行して進める。
4 分割払いは金額だけでなく充当方法を決める
分割払いを合意する場合は、対象となる債務、確認した残高、各回の支払額、期日、送金先を明記する。過去の滞納分を払っている間にも新しい利用料が発生するため、その支払をどうするかも決める。月々の入金額だけを合意すると、総額が減らないことがある。
例えば毎月の利用料に加えて一定額を過去分へ充当する場合、入金の内訳が分かる管理表を作る。支払が遅れたときの連絡方法や見直しの条件も確認する。書面を作る目的は強い文言を並べることではなく、双方が同じ残高を把握できるようにすることである。
家族が分割協議に参加しただけで、本人の債務を引き受けたことになるとは限らない。誰がどの立場で合意するかを明確にする。新たな保証や債務引受を求めるなら、その意思と法的な要件を別に確認し、署名欄だけを付け足さない。
5 督促とサービス終了を一つの判断にしない
支払を求める通知には、請求の対象と金額、支払期限、問い合わせ窓口を示す。本人に届く方法と、連絡経過を確認できる記録を選ぶ。必要性のない職場や近隣への連絡、掲示等によって支払を迫ることは避ける。
未払いがあるからといって、必要な介護を翌日から一律に停止できるわけではない。契約の解除条項、滞納の程度、催告の経過、指定基準、利用者の状態、代替サービスへの移行を検討する。民法541条による解除でも、催告や不履行の程度などが問題になる。[1][2]
解決しない場合は、回収見込み、金額、証拠、継続費用を踏まえて法的手続を検討する。請求を繰り返せばいつまでも権利が維持されると考えず、時効等の問題も早めに相談する。施設の経営を守るためにも、長期化した案件を担当者一人に抱え込ませない。
分割払いの途中で入金が止まった場面
例えば、本人が当月分と過去の滞納分を払う約束をしたものの、途中から入金が減った場合、最初に残高の計算を合わせる。どの月の何に充当したかが双方で違っていないかを確認し、二重請求や未計上を除く。入金の都度に担当者が違う説明をしないよう、窓口を一本化する。
次に、合意が守られない理由を確認する。本人の病状や家族の支援状況が変わった場合と、請求内容を争っている場合では、次の対応が異なる。支払計画を変更するなら、旧合意と変更後の関係が分かる書面を残し、その場しのぎの約束が何本も併存しないようにする。
保証人への請求を検討するときは、保証の対象に今回の費用が含まれるか、上限や契約の有効性に問題がないかを確認する。家族への連絡を介護職員に繰り返させる前に、経営者や事務担当が根拠を整理する必要がある。本人への支援関係を、請求の説得だけに使わないことも大切である。
事業所内では、滞納月数だけでなく、争いの有無、支援制度への相談状況、保証の有無、次の対応日を管理する。長い間連絡しない案件がある一方で、短期間に何人もが督促する案件がある、といったばらつきを減らせる。回収できた金額と、適切な手順で対応したかを分けて評価したい。
6 月次の確認で滞納を見えるようにする
- 未入金の費目と月を契約に対応させている
- 契約者、代理人、連絡先、保証人を区別した
- 保証条項と極度額、契約時期を確認した
- 分割払いと当月分の支払を分けて合意した
- 生活支援の調整と回収方針の担当を決めた
よくある質問
Q. 子どもなら親の利用料を請求できますか
A. 家族関係だけで当然に同じ支払義務が生じるわけではありません。契約や保証等の根拠を確認します。
Q. 身元引受人と書いてあれば保証人ですか
A. 名称だけでは決まりません。条項の内容、本人の意思、書面等の要件を確認する必要があります。
Q. 極度額がない保証書は使えませんか
A. 個人根保証に当たり現行の規律が適用される場合は、極度額を定めない契約は効力を生じません。締結時期等を含めて検討します。
Q. 滞納があれば通所利用を直ちに断れますか
A. 自動的には決まりません。契約、滞納の経緯、指定基準、利用者の安全と移行調整を確認します。
Q. 分割の合意は口頭だけでもよいですか
A. 後の食い違いを避けるため、対象残高、支払日、当月分との関係、合意した人の立場を記録に残すことを勧めます。
参考資料(一次資料)
- [1] 民法(415条・446条・465条の2・541条・709条等)
- [2] 厚生労働省 指定居宅サービス等の基準について(訪問介護の提供拒否・提供困難時の対応)
- 資料確認日 2026年9月23日
ご相談について
利用契約、保証条項、請求明細を確認して、回収の相手と手順を整理します。滞納が長期化する前に、分割協議や支援調整を含めてご相談ください。
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