普通建物賃貸借では、建物が古いことや建替えの予定があることだけで、当然に入居者へ立退きを求められるわけではありません。貸主・借主双方の使用の必要性、これまでの経過、建物の状態などを踏まえた「正当事由」と、適切な通知の確認が必要です。[1]
札幌で管理物件の建替えを検討するとき、最初に作るべきなのは「退去してください」という通知ではありません。どの契約を、どの根拠で、いつ終了させるのかという整理です。本記事は、主として普通建物賃貸借を対象に、管理会社が通知前に確認したい点を解説します。
この記事の内容
- 1.「契約期間が終わる」と「明け渡してもらえる」は別
- 2.老朽化は重要な事情だが、築年数だけで決まらない
- 3.立退料に、一律の「家賃何か月分」はない
- 4.管理会社の連絡調整と、法律紛争の代理を分ける
- 5.安全確保と、契約を終わらせる手続は別に進める
- 6.弁護士への相談前に準備したい資料
- よくある質問
1.「契約期間が終わる」と「明け渡してもらえる」は別
普通建物賃貸借では、期間満了だけを見て、貸主が自由に更新を拒絶できるわけではありません。期間の定めがある場合の更新拒絶は、原則として満了の1年前から6か月前までの通知と、貸主側の正当事由が問題になります。通知をしていても、満了後の使用継続に対する対応が別途問題となります。[1]
期間の定めのない普通建物賃貸借では、貸主の解約申入れから6か月の経過と正当事由を確認します。これは「6か月前に言えば必ず出てもらえる」という意味ではありません。また、期間の定めがある契約を、期間のない契約と同じように途中で終わらせられるわけでもありません。[1]
一方、有効な定期建物賃貸借では、期間満了による終了について別の規律が適用されます。契約書に「定期」と書いてあることだけで判断せず、契約方式や事前説明などの成立要件、必要な終了通知を確認します。[1]
管理会社では、契約書の表題だけでなく、契約日、更新の経過、期間、特約、これまでの通知を一つの表に整理すると、次の判断に進みやすくなります。
2.老朽化は重要な事情だが、築年数だけで決まらない
借地借家法28条は、貸主・借主の使用の必要性、賃貸借の従前の経過、利用状況、建物の現況、明渡しの条件として申し出た財産上の給付などを考慮する仕組みです。したがって、「築40年だから」「耐用年数を過ぎたから」という一つの事情だけで、結論を決める説明は避ける必要があります。[1]
老朽化を理由にするなら、実務上は、危険の内容を資料で具体化します。建築士等の調査結果、劣化箇所の写真、修繕履歴、補修の可否と費用、工事中に居住を続けられるかなどが検討材料になります。調査報告書の結論だけでなく、調査範囲や未確認部分も残しておきます。
札幌の物件で積雪期に外壁や屋根の一部を十分に確認できなかった場合には、その事情を調査資料に記載し、追加調査の要否を検討します。「確認できなかった」ことと「問題がなかった」ことを同じにしないためです。これは札幌だけの法的基準ではなく、現地調査の限界を誤解なく扱うための実務上の注意です。
3.立退料に、一律の「家賃何か月分」はない
立退料等の申出は、正当事由を判断する際の考慮要素です。法律に「家賃の何か月分を払えば必ず退去を求められる」という一般的な計算式が定められているわけではありません。金銭の提示だけで当然に問題が解決するという前提は置かず、建物の状態や双方の事情と合わせて検討します。[1]
合意による解約を目指す場合には、金額だけでなく、転居先の確保、引越し時期、敷金の精算、残置物、明渡しの確認方法を整理します。事業用物件では、設備移転や営業への影響も交渉上の検討事項になり得ますが、相手が求めた額をそのまま法的な支払義務とみなすことはできません。
4.管理会社の連絡調整と、法律紛争の代理を分ける
所有者の意向を確認し、資料を集め、日程や連絡先を調整することと、対立がある立退き条件を貸主に代わって交渉することは、同じではありません。報酬を得る目的で業として他人の法律事件に関する法律事務を扱う場合には、弁護士法72条との関係を確認する必要があります。管理委託契約や委任状があれば、あらゆる交渉が許されるということではありません。[3]
管理会社がオーナーに説明する段階で、「通知すれば半年で退去」「この金額で確実に解決」と約束しないことも重要です。見通しを伝える場合には、前提資料と未確認事項を併記しておきます。
5.安全確保と、契約を終わらせる手続は別に進める
建物に危険が疑われるときは、点検、応急措置、関係機関への相談など、安全確保を優先します。他方で、安全上の措置を口実に、退去を迫るための施錠やライフラインの停止を行うことは避けなければなりません。賃貸借が続いている間は、貸主の使用収益させる義務や修繕義務も問題になります。[2]
合意が成立しない場合は、正当事由や通知の効力を検討した上で、交渉・訴訟等の適切な手続を選びます。工事着手日を先に確定し、その日程に合わせて法律上の要件を省略する進め方にはしないことが重要です。
6.弁護士への相談前に準備したい資料
まず、賃貸借契約書と更新書類、過去の通知、建物調査資料、修繕履歴、建替え計画、これまでの話合いの記録を揃えます。借主の事情は、把握している事実と推測を分け、知らない点を無理に埋めないようにします。
相談時には、「いつまでに明渡しを受けたいか」に加え、「その時期が必要な理由」「修繕で対応できる可能性」「既に相手へ伝えた内容」を説明してください。通知発送前に検討できれば、通知の根拠や交渉方針の不整合を避けやすくなります。
よくある質問
Q. 築年数が相当に古ければ、立退料なしで明渡しを求められますか。
A. 築年数だけでは判断できません。建物の具体的な状態や双方の使用の必要性などを総合的に検討します。立退料の要否・金額についても、個別の事情から離れて一律に決めることはできません。[1]
Q. 6か月前に通知すれば、普通借家は終了しますか。
A. 貸主からの解約申入れでは、6か月の経過だけでなく正当事由が必要です。期間の定めがある契約の更新拒絶や、中途解約の可否は区別して確認します。[1]
Q. 建物が危険なときも、何もできないのでしょうか。
A. そうではありません。安全確保のための措置と、契約終了・明渡しの法的処理を分けます。専門家の調査等を踏まえ、必要な安全措置を取りながら、契約関係に応じた対応を検討します。[2]
札幌の管理会社の方へ
老朽化による立退きは、建物の調査、契約の確認、借主への説明をつなげて進める必要があります。オーナーに退去時期や条件を約束する前に、通知案と資料を整理してください。相談先の業務内容は、不動産事業者向けの法律支援をご確認ください。
関連記事
- 騒音・迷惑行為で入居者に退去を求められる?札幌の管理会社の初動と証拠整理
- 不動産会社が弁護士へ相談するときの準備資料|札幌の管理・仲介・買取再販事業者向け
- 管理会社の顧問弁護士はオーナーの代理もできる?札幌の不動産業者が知っておきたい依頼者と利益相反
参考法令・公表資料
- 借地借家法(26〜30条・38条等)。本記事の参照箇所:26〜30条・38条。
- 民法。本記事の参照箇所:601条・606条等。
- 弁護士法(23・25・72条等)。本記事の参照箇所:72条。
本記事は一般的な法制度と実務上の留意点を説明するものです。個別の対応は、契約内容、契約時期、事実関係、適用される法令等によって異なります。
仲介・管理・買取再販の判断に、継続して相談できる弁護士を
契約書の一文、入居者からの一本の電話、買取物件の一枚の告知書。不動産業の日常には、後から効いてくる法的な判断が詰まっています。
札幌手稲ポプラの丘法律事務所は、弁護士として約17年の実務経験をもとに、札幌・小樽・石狩の不動産事業者の顧問業務をお受けしています。契約前・回答前の相談から、原状回復・滞納・明渡し・告知義務の対応、交渉・訴訟まで。
判断に迷った時に、その日のうちに聞ける相手がいるかどうかで、結果は変わります。
お電話でのご相談
TEL 011-558-1763(平日9時〜18時)
札幌市手稲区手稲本町2条4丁目8-1 杉本ビル201 JR手稲駅南口から徒歩2分

