売買契約がキャンセルされた場合の仲介手数料は、「キャンセルだから返還」「契約書があるから必ず全額請求」と一律には判断できません。売買契約の成立・終了原因と、媒介契約の報酬条項を分けて確認する必要があります。[1・4]
札幌の不動産会社にとって、手数料の請求・返還の説明は、顧客との新たな紛争を生みやすい場面です。売主・買主間の精算だけでなく、自社の媒介契約に基づく権利義務を整理してから返答することが重要です。
この記事の内容
- 1.最初に確認するのは「売買契約が成立していたか」
- 2.請求できることと、いつ受け取れるかは別
- 3.ローン特約による終了では、返還条項を確認する
- 4.手付解除・違約解除・合意解除を一括りにしない
- 5.実費・広告費を「別名目の仲介手数料」にしない
- 6.返答前に作る「精算の確認表」
- よくある質問
1.最初に確認するのは「売買契約が成立していたか」
国土交通省の標準媒介契約約款では、媒介によって売買・交換契約が成立したときに報酬を請求できる旨が定められています。停止条件付きの契約の場合は、条件が成就した場合に限るとされています。[1]
申込書や買付証明書を受け取った段階と、売買契約が成立した段階は同じとは限りません。他方、民法上の契約成立は原則として申込みと承諾によるため、「契約書にまだ押印していない」という一点だけで、常に未成立と判断することも避ける必要があります。[3]
交渉経過、合意された事項、残っていた条件、当事者がいつ契約を成立させる予定だったかを確認します。成立前の取引について、当然に成功報酬全額を請求できるという説明はしないでください。
2.請求できることと、いつ受け取れるかは別
標準媒介契約約款では、報酬を請求できる場面と、実際に受領できる時期が区別されています。宅建業法37条の書面の交付等に関する条項と、媒介契約で定めた支払時期を確認します。[1]
また、宅建業法46条と関係告示による報酬の限度額は、請求してよい上限の問題です。上限額が、そのまま自社と依頼者の間で合意した報酬額になるわけではありません。請求の根拠となる合意、金額、受領時期を別々に確認してください。[1・2]
本記事は、一般的な売買媒介の報酬問題を扱います。賃貸借媒介の特則や、個別の報酬特例をそのまま当てはめないようにします。
3.ローン特約による終了では、返還条項を確認する
標準媒介契約約款には、融資不成立を解除条件とする売買契約で融資不成立が確定した場合や、融資不成立時に解除できる売買契約について、融資不成立が確定し、それを理由として解除された場合に、受領済みの約定報酬を全額返還する旨の条項があります。[1]
これは「買主がローンを使う予定だった」というだけで適用されるものではありません。売買契約にどのような特約があるか、契約がその特約に基づいて終了したか、自社の媒介契約にどの約款が組み込まれているかを確認します。
なお、標準約款の内容を、採用の有無や契約内容を問わず当然に適用される法律上の一律ルールとして説明するのは避ける必要があります。適用される法令と、実際の合意内容を照合してください。
4.手付解除・違約解除・合意解除を一括りにしない
有効に成立した売買契約が手付解除等によって終了した場合、契約が実行されなかったという結果だけで、媒介報酬の請求権が当然に消滅するとは限りません。媒介契約、解除原因、自社の業務履行の内容等を確認します。[1・4]
特に、顧客が「仲介会社の説明が違っていたため解約した」と主張している場合は、通常の顧客都合の解約と同じ扱いにはできません。自社の調査・説明に問題がなかったか、報酬請求に対して損害賠償等の主張がされているかを検討します。[3]
合意解除についても、誰が何を合意したかが重要です。売主と買主が仲介会社を当事者とせずに合意しただけで、媒介報酬についても当然に処分できるとは限りません。売買の解除合意書と、自社の報酬精算の合意を混同しないでください。[1・3]
5.実費・広告費を「別名目の仲介手数料」にしない
標準媒介契約約款は、依頼者が特別に依頼した広告の料金や遠隔地への出張旅費について、実費負担の条項を設けています。また、媒介契約の種類や終了原因に応じた費用償還の条項もあります。[1]
通常の営業活動で発生した費用を、契約終了後にすべて顧客へ転嫁できるという意味ではありません。特別な依頼の有無、合意内容、実際の支出、適用条項を確認します。報酬の上限規制を、別名目の請求によって回避できるわけでもありません。[1・2]
請求書を作る際には、媒介報酬、特別依頼による実費、契約上の費用償還等を分け、それぞれの根拠を説明できるようにしておくことを勧めます。
6.返答前に作る「精算の確認表」
実務上は、次の項目を一枚にまとめると、説明の食い違いを防ぎやすくなります。
- 売買契約の成立日、条件、終了日、終了の根拠。
- 媒介契約の種類、報酬額、支払時期、採用約款と特約。
- 受領済みの金額、相手から求められている返還額、その理由。
- 自社が行った業務、特別な依頼と実費、説明内容についての争い。
相手への回答では、最初に終了原因を特定し、その上で適用条項と精算額を説明します。手付金の放棄額や売主が受領する違約金を、そのまま自社の報酬の根拠にしないことが重要です。
よくある質問
Q. 決済前に解約されたら、仲介手数料は必ずゼロですか。
A. そうとは限りません。売買契約の成立、解除原因、媒介契約の報酬条項等を確認します。請求権の発生と受領時期も区別します。[1・4]
Q. ローン特約で終わった場合も、契約時の半金は返さなくてよいですか。
A. 標準媒介契約約款には、所定の融資不成立による終了・解除の場合に、受領済みの約定報酬全額を返還する条項があります。「半金」という名目だけで返還を免れるものではありません。実際の約款と終了原因を確認します。[1]
Q. 報酬上限額までなら、事前の合意なしに請求できますか。
A. 法令上の上限と、当事者間の報酬合意は別です。自社の媒介契約の成立、報酬の合意内容、業務の履行を確認する必要があります。[1・2]
札幌の不動産会社の方へ
報酬の請求と返還は、取引の終了原因を取り違えないことが出発点です。媒介契約や顧客への回答文の検討については、不動産事業者向けの法律支援をご確認ください。
関連記事
- 手付解除とローン特約は別の制度|札幌の不動産仲介会社が確認する期限と通知
- 仲介会社自身が損害賠償を請求されたら|札幌の不動産会社が行う初動対応
- 不動産会社が弁護士へ相談するときの準備資料|札幌の管理・仲介・買取再販事業者向け
参考法令・公表資料
- 国土交通省「標準媒介契約約款」(令和6年4月1日施行版)。本記事の参照箇所:専任媒介の約款8〜10・14条等。
- 宅地建物取引業法(35・37・39・40・46・78条等)。本記事の参照箇所:37・46条等。
- 民法。本記事の参照箇所:522条、債務不履行等に関する規定。
- 不動産適正取引推進機構「不動産のQ&A:宅建業者や媒介報酬等」。本記事の参照箇所:Q1・Q2。
本記事は一般的な法制度と実務上の留意点を説明するものです。個別の対応は、契約内容、契約時期、事実関係、適用される法令等によって異なります。
仲介・管理・買取再販の判断に、継続して相談できる弁護士を
契約書の一文、入居者からの一本の電話、買取物件の一枚の告知書。不動産業の日常には、後から効いてくる法的な判断が詰まっています。
札幌手稲ポプラの丘法律事務所は、弁護士として約17年の実務経験をもとに、札幌・小樽・石狩の不動産事業者の顧問業務をお受けしています。契約前・回答前の相談から、原状回復・滞納・明渡し・告知義務の対応、交渉・訴訟まで。
判断に迷った時に、その日のうちに聞ける相手がいるかどうかで、結果は変わります。
お電話でのご相談
TEL 011-558-1763(平日9時〜18時)
札幌市手稲区手稲本町2条4丁目8-1 杉本ビル201 JR手稲駅南口から徒歩2分

