手付解除とローン特約による解除は、根拠も条件も異なります。融資が通らないという事情だけで、当然に手付金を放棄しなければならないわけでも、当然に無条件で契約を解消できるわけでもありません。まず契約書の特約と、期限までの手続を確認します。[1・4]
札幌の不動産仲介会社が契約解消の相談を受けたときは、「キャンセルしたい」という言葉を、そのまま法的な解除の種類に置き換えないことが重要です。どの制度による終了なのかが変われば、手付金、違約金、仲介報酬の扱いも変わり得ます。
この記事の内容
- 1.手付解除は「契約違反への制裁」ではない
- 2.履行着手と、その前の準備を分けて確認する
- 3.ローン特約は、文章の構造を読む
- 4.買主の申込みと協力状況を記録する
- 5.「通知を送った日」と「相手に届いた日」を分ける
- 6.売買契約の精算と、仲介報酬の精算は別に確認する
- よくある質問
1.手付解除は「契約違反への制裁」ではない
民法557条は、買主が手付を交付した場合に、買主は手付を放棄し、売主は倍額を現実に提供して、契約を解除できる旨を定めています。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この方法による解除はできません。特約や特別法の適用も確認します。[1]
条文上の基準は、解除しようとする者の「相手方」の履行着手です。自分が準備を始めたから双方とも解除できない、という理解は正確ではありません。また、売主については、倍額を返すと口頭で述べることと、倍額を現実に提供することを区別する必要があります。[1]
実務では、手付解除期限の特約、解除の意思表示、金銭の提供、相手方の行為の内容を確認します。「契約後何日以内なら必ず可能」という一律の説明は避けてください。
2.履行着手と、その前の準備を分けて確認する
何が履行着手に当たるかは、具体的な行為と契約の内容に応じて検討します。担当者の予定表に決済日が入ったことや、当事者が準備を進めていることだけで、直ちに結論を出さないことが重要です。[1]
確認資料としては、支払状況、登記・引渡しに向けた実際の行為、相手の求めに応じて実施した作業、各行為の日時と根拠となる連絡を整理します。法的な評価に使う前に、「誰が何をしたか」を時系列で確定するのが先です。
売主が宅建業者で、買主が宅建業者でない取引では、宅建業法39条の特則も確認します。買主に不利な特約は同条の制限を受けるため、手付解除の期間等を自由に短縮できるとは限りません。宅建業者相互間の取引には、同条の適用除外があります。[2]
3.ローン特約は、文章の構造を読む
ローン特約は、融資が実行されない場合の危険を契約上どう分担するかを定めるものです。融資が不成立となったときに契約が効力を失う形と、当事者が解除の意思表示をすることを必要とする形では、必要な手続が異なります。[3・4]
仲介担当者は、少なくとも、対象となる金融機関、融資額、申込期限、承認に関する期限、解除を申し出る期限、通知先・方法を読み分けます。融資の一部しか承認されなかった場合、希望条件と異なる融資が提示された場合をどう扱うかも、条項と経過の確認が必要です。[4]
「ローンが通らなかったら白紙」といった口頭説明だけで運用せず、実際に署名した契約書の文言と一致しているかを確認してください。国土交通省の標準媒介契約約款も、融資不成立による契約の終了について、複数の形式を区別しています。[3]
4.買主の申込みと協力状況を記録する
融資不成立の連絡を受けたら、申込先、申込日、金融機関への提出資料、審査結果、追加資料の依頼、買主側の対応を確認します。事前審査と本審査の結果も混同しないようにします。
契約で求められた申込みをしていない、必要な協力をしていない、事実と異なる申告をしたといった事情がある場合は、ローン特約を利用できるかが争いになり得ます。反対に、融資が否決されたという結果だけから、買主の責任を推測してはいけません。条項と資料を照合して判断します。[4]
特約にない金融機関への申込みまで必ず必要だと断定したり、特約の対象外の高い金利の融資を受けなければ解除できないと説明したりする前に、契約内容を確認する必要があります。[4]
5.「通知を送った日」と「相手に届いた日」を分ける
意思表示は、原則として相手方に到達した時に効力が生じます。解除を申し出る必要がある特約では、期限の意味、指定された通知方法、受領権限のある相手を確認します。仲介会社に連絡しただけで、当然に売主へ有効な解除通知が届いたことになるとは限りません。[1]
期限が迫っているときは、金融機関の結果を待つだけでなく、期限延長の合意が必要かを検討します。延長が合意された場合は、対象となる期限と新たな日付を、後から確認できる形で残します。
6.売買契約の精算と、仲介報酬の精算は別に確認する
手付金の返還、違約金、既払代金等は、売買契約の終了原因に応じて検討します。仲介報酬については、媒介契約と約款を別に読みます。
国土交通省の標準媒介契約約款では、定められた融資不成立による終了・解除の場合に、受領済みの約定報酬を全額返還する条項があります。すべての契約解消で同じ扱いになるわけではありません。[3]
詳しくは、売買契約がキャンセルされた場合の仲介手数料もご確認ください。
よくある質問
Q. ローンが否決されたら、必ず手付金を放棄するのですか。
A. そうとは限りません。ローン特約の適用があるか、必要な手続を満たしているかを先に確認します。手付解除とローン特約による解除は別です。[1・4]
Q. 仲介会社へ電話したので、解除期限は守れていますか。
A. 通知先、受領権限、方法、期限の定めを確認する必要があります。原則として意思表示は相手方への到達が問題になるため、仲介会社への連絡だけで判断しないでください。[1]
Q. 契約書に書かれた手付解除期限を過ぎたら、必ず解除できませんか。
A. 特約の内容・有効性、相手方の履行着手、宅建業法39条の適用等を確認します。ローン特約や債務不履行解除など、別の根拠が問題になることもあります。[1・2]
札幌の仲介会社の方へ
契約解消への返答前に、契約書、特約、融資の経過、期限管理表を揃えることを勧めます。期限が迫る案件や当事者の主張が食い違う案件は、不動産事業者向けの法律支援をご確認ください。
関連記事
参考法令・公表資料
- 民法。本記事の参照箇所:97・557条等。
- 宅地建物取引業法(35・37・39・40・46・78条等)。本記事の参照箇所:39条・78条2項等。
- 国土交通省「標準媒介契約約款」(令和6年4月1日施行版)。本記事の参照箇所:専任媒介の約款8・9条等。
- 不動産適正取引推進機構「不動産のQ&A:ローン特約・買換え特約」。本記事の参照箇所:融資不成立時の特約の形式・対象金融機関等。
本記事は一般的な法制度と実務上の留意点を説明するものです。個別の対応は、契約内容、契約時期、事実関係、適用される法令等によって異なります。
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