騒音や迷惑行為の苦情が寄せられても、それだけで直ちに契約解除や退去が認められるとは限りません。何が、いつ、どこで起きたかを記録し、契約上の義務違反の内容や、改善要請後の状況を確認することが出発点です。[1]
札幌の賃貸管理会社が対応するときは、被害を訴える入居者への対応と、行為を指摘された入居者への確認を並行して進めます。苦情を放置しないことと、一方の説明だけで相手を加害者と決めつけないことは両立させる必要があります。
この記事の内容
- 1.苦情の件数より、具体的な内容を記録する
- 2.生活音、設備音、契約違反を分けて考える
- 3.注意・改善要請は、対象となる行為を特定する
- 4.契約解除は「注意を何回したか」だけで判断しない
- 5.苦情を申し出た人への対応も設計する
- 6.弁護士に渡す資料は、時系列と原資料をセットに
- よくある質問
1.苦情の件数より、具体的な内容を記録する
「毎日うるさい」「何度も注意した」という記録だけでは、後から状況を検証しにくくなります。実務上は、発生日時、継続時間、音や行為の内容、聞こえた場所、申出者、管理担当者が直接確認した事実を分けて残します。
同じ出来事について複数回電話があったのか、別の日に繰り返し発生したのかも区別します。件数を数えるだけでなく、睡眠や使用への具体的な影響、他の入居者にも同じ現象が確認されているかを整理してください。
録音・写真等がある場合は、元データと作成日時を保存します。短く編集した抜粋だけでは前後関係が分かりにくくなるため、提出用の整理資料とは別に原データを残します。記録のためであっても、無断で住戸へ入ったり、私生活を過度に監視したりする方法は避ける必要があります。
2.生活音、設備音、契約違反を分けて考える
民法616条が準用する594条1項により、賃借人には契約等で定まった用法に従って使用する義務があります。もっとも、日常生活で生じる音がすべて契約違反になるわけではありません。音の性質、時間帯、頻度、建物の状況等を確認する必要があります。[1]
音源が入居者ではなく、給排水設備、換気設備、暖房設備などである可能性も検討します。実務上は、設備の作動時間と苦情の発生時刻を照合し、必要に応じて設備業者に確認します。設備不良であれば、入居者への注意だけでは解決せず、貸主の修繕義務も問題になります。[1]
測定値は検討材料ですが、「この数値を超えたから必ず解除できる」とは整理しません。測定場所・時間・方法や発生源の確認を伴って、契約関係と具体的な被害を検討します。
3.注意・改善要請は、対象となる行為を特定する
最初の連絡では、確認できていないことまで断定せず、把握した内容を示して事情を聞きます。改善を求める場合には、問題となる行為、契約や使用規則の該当部分、求める対応、確認方法を具体化します。
例えば「迷惑をかけないでください」だけでは、何をどう改めればよいか不明確です。これに対し、夜間の特定行為や共用部分の使用方法を対象として説明すれば、改善の有無を後から確認しやすくなります。ただし、確認していない事実や法的効果を、通知の中で既成事実にしてはいけません。
口頭で伝えた場合も、日時、相手、内容、相手の回答を記録します。書面や配達記録は証拠を残す方法の一つであり、あらゆる改善要請が内容証明郵便でなければ無効になるわけではありません。解除を見据えた催告・通知は、内容と到達の確認も含めて検討します。[1]
4.契約解除は「注意を何回したか」だけで判断しない
債務不履行解除では、民法541条・542条の要件を確認します。賃貸借では、継続的な契約関係を前提として、義務違反の程度や信頼関係への影響を踏まえた検討も必要です。注意の回数を増やせば自動的に解除できる、という制度ではありません。[1・4]
改善可能な問題なのか、相当期間を定めた催告が必要なのか、重大な行為で別の対応が必要なのかを区別します。改善要請後に落ち着いたのか、行為が続いているのか、別の原因が判明したのかも重要です。解除が有効でも、管理会社が自ら鍵を交換して占有を排除してよいことにはなりません。[1]
管理会社の通常の事実確認・連絡調整と、貸主のために対立する法律問題を代理交渉することは区別します。交渉の内容によっては弁護士法72条との関係が問題になるため、争いが具体化した段階で役割を確認してください。[3]
5.苦情を申し出た人への対応も設計する
申出者には、事実確認の方法、連絡窓口、追加で記録してほしい内容を伝えます。他方、相手の私的な事情や、未確認の情報まで共有することは避け、対応に必要な範囲にとどめます。
国土交通省が公開する管理委託契約書の条項例も、苦情の聴取、現状確認、所有者への報告、方針の協議、処理結果の報告という役割分担を示しています。ただし、実際の管理会社の義務は、自社の契約内容や個別の状況を確認して判断する必要があります。[2]
暴力、脅迫、火災等の危険がある場合は、担当者だけで訪問して説得を続けず、警察・消防など適切な窓口への連絡と安全確保を優先します。通常の騒音苦情と、身体に危険が及ぶ場面を同じ手順で処理しないことが重要です。
6.弁護士に渡す資料は、時系列と原資料をセットに
賃貸借契約書、使用規則、管理委託契約書、苦情の一覧、録音等の原資料、注意文書、相手の回答、設備点検の結果を準備します。管理会社が直接確認した事実、入居者から聞いた説明、担当者の推測を区別してください。
相談したい点も、「退去させたい」だけでなく、まず行為を止めたいのか、解除の判断をしたいのか、管理会社自身への請求に対応したいのかを明らかにします。検討すべき契約と依頼者が変わるためです。
よくある質問
Q. 3回注意して改善しなければ、解除できますか。
A. 回数だけでは判断できません。行為の内容・継続性、契約上の義務、改善の状況、信頼関係への影響などを検討します。催告の要否も個別に判断します。[1・4]
Q. 苦情が1件だけなら、対応しなくてもよいですか。
A. 件数だけで対応の要否を決めるのは適切ではありません。まず内容と緊急性を確認し、管理委託契約等に応じた事実確認や報告を行います。[2]
Q. 設備が音源でも、入居者に退去を求めるべきですか。
A. まず設備の状態と音源を調べる必要があります。貸主側の設備の問題であれば、修繕等を検討します。原因を確かめないまま、入居者の義務違反と決めつけないことが重要です。[1]
札幌の管理会社の方へ
苦情対応を長期化させないためにも、早い段階で記録の形式と担当者の権限を揃えておくことを勧めます。対応文書、契約解除、管理会社自身の責任については、不動産事業者向けの法律支援をご確認ください。
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参考法令・公表資料
- 民法。本記事の参照箇所:541・542・594条1項・606・616条等。
- 国土交通省「賃貸住宅標準管理委託契約書」公開モデル。本記事の参照箇所:管理業務における苦情対応の条項例。
- 弁護士法(23・25・72条等)。本記事の参照箇所:72条。
- RETIO130号「借主の迷惑行為と信頼関係破壊」(東京地裁令和4年4月28日判決の解説)。本記事の参照箇所:迷惑行為・義務違反・信頼関係の判断に関する解説。
本記事は一般的な法制度と実務上の留意点を説明するものです。個別の対応は、契約内容、契約時期、事実関係、適用される法令等によって異なります。
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