遺言書に「付言事項」を書くな 〜「想いを伝えましょう」が相続を壊す〜

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「付言事項で想いを伝えましょう」という定番アドバイス

遺言書の作り方を検索すると、こういう記事が山ほど出てきます。

  • 遺言書には「付言事項」を書いて、家族への感謝と、なぜこの分け方にしたのかの理由を残しましょう
  • 遺言の内容は、生前に相続人にきちんと伝えておきましょう
  • そうすれば相続人も納得し、円満な相続になります

書いているのは、たいてい行政書士・司法書士・税理士・FP・終活アドバイザーの方々です。遺言書の「作成」はされていても、その遺言をめぐって家族が法廷で殴り合う場面には立っていません。

私は弁護士として17年、遺言が「あった」のに揉めた事件を数多く扱ってきました。その立場から申し上げます。

付言事項は、原則として書くべきではありません。

「想いを伝える」は美しい言葉ですが、実務では紛争の燃料になることの方が多い。以下、理由を説明します。

そもそも付言事項とは何か

遺言書のうち、法律上の効力が生じる部分(誰に何を相続させるか、遺言執行者を誰にするか等)とは別に、遺言者の気持ちや希望を自由に書き添えた部分を「付言事項」と呼びます。

「長男には介護で世話になったので多く残す」「兄弟仲良く暮らしてほしい」「遺留分の請求はしないでほしい」。こういった文章です。

ポイントは一つ。付言事項には法的効力が一切ありません。 読んだ相続人が従う義務はなく、裁判所も拘束されません。効力がないのに、争いの材料にはなる。ここが問題です。

付言事項が揉め事を生む5つの理由

1 「理由」を書いた瞬間、その理由の真偽が争点になる

遺言書本文だけなら、争える点は「この遺言は有効か無効か」に絞られます。

ところが付言で「長男は献身的に介護してくれた」と書けば、次男は「していない。月に1回顔を出しただけだ」と反論します。「次男には住宅資金を援助した」と書けば、「あれは援助ではなく貸したもので、もう返した」と反論します。

遺言者が良かれと思って書いた一文が、相続人同士の事実認定合戦の火種になる。私の経験では、付言事項がある事案の方が、感情的な対立が長引きます。

2 遺留分侵害額請求に「火をつける」

取り分を減らされた相続人には、遺留分(法定相続分の原則2分の1)を金銭で請求する権利があります。この権利は付言事項で消せません。

「遺留分は請求しないでほしい」と書かれた遺言を読んだ相続人が、素直に従うと思いますか。多くの場合、逆です。「自分の権利を封じようとした」と受け取り、もともと請求する気のなかった人が請求に踏み切る。私は何度もこれを見てきました。

3 遺言無効の主張に材料を与える

付言事項は遺言者の「生の言葉」です。だからこそ、それが不自然だと、無効主張の格好の材料になります。

  • 高齢の遺言者にしては論理的すぎる文章 → 「受益相続人が書かせたのではないか」
  • 家族しか知らない事情への言及 → 「その場に同席していた誰かの意向だ」
  • 事実と異なる記載 → 「認知機能が低下していた証拠だ」

遺言能力や意思の真正性が争われると、本文の効力まで巻き込まれます。余計なことを書かなければ、そもそも生じない争点です。

4 「感謝の言葉」が別の相続人への「当てこすり」に読まれる

長男への感謝を書けば、名前の出なかった長女は「私は感謝されていない」と読みます。遺言者にそんな意図はなくとも、読む側は取り分の少なさと文章を結び付けて解釈します。

付言事項は、その場にいない遺言者の代わりに、相続人の感情を刺激し続ける文書になります。

5 和解の余地を狭める

弁護士が入って交渉すれば、多くの相続紛争は最終的に金銭で調整がつきます。ところが付言事項で「なぜ差をつけたか」の理由が明文化されていると、減らされた側は金銭ではなく「名誉」の問題として受け取り、譲歩できなくなる。

紛争解決の実務からみれば、付言事項は「引き際」を潰す文書です。

生前に相続人へ伝えるのは慎重に

もう一つの定番アドバイスが「遺言の内容を家族に話しておきましょう」です。これも、実務上のリスクが大きい。

  • 取り分が少ない相続人が、遺言者に書き直しを迫る→あえて伝える必要はない
  • 遺言者の存命中から、相続人同士の関係が悪化する→取り分が少ない相続人には伝えなければよい
  • 「口約束で別のことを言われた」という主張が、死後に出てくる
  • 遺言者が高齢になり判断力が落ちた後に、書き直しを誘導される

生前に伝えるべきは、取り分が多い相続人に対してだけです。これが原則です。

では、どう作るのが正解か

弁護士が現場で実践している「揉めない遺言」の作り方は、拍子抜けするほど地味です。

公正証書遺言で作る

自筆証書遺言は形式不備で無効になるリスクがあり、死後に家庭裁判所での検認も必要です(法務局の保管制度を使えば検認は不要)。公証人が関与する公正証書遺言なら、形式面の無効リスクと「本人が書いたのか」という争いをほぼ潰せます。

本文は「法的に効力のある事項」だけ、簡潔に

  • 財産を特定して、誰に相続させる(遺贈する)かを書く
  • 受益者が先に亡くなった場合の予備的な指定を入れる
  • 遺言執行者を指定する(相続人の一人でも構いません。名義変更などの死後の手続を、相続人全員の協力なしに進められます)

これだけです。理由は書かない。感情は書かない。

紛争に備え、二義を許さぬ文書を作る。これが法律文書の基本です。「気持ちを伝える」ことを目的にした付言事項は、この基本と正面から衝突します。

遺留分は「書いて抑える」のではなく「計算して設計する」

取り分に差をつけるなら、最初から遺留分を計算し、侵害しない配分にする。侵害せざるを得ないなら、代償として渡す現金や生命保険を生前に準備しておく。「請求しないでほしい」と書くのではなく、請求されても払える状態を作っておく。これが正解です。

どうしても付言を書きたいなら

私は基本的に止めますが、それでも書きたいという方には、一つだけ条件を付けています。

全員に宛てた感謝を一文だけ。理由は書かない。誰かを名指ししない。

「家族には長年支えてもらい、感謝しています」。この程度なら害はありません。それ以上は、書かない。

当事務所に遺言書作成を依頼した場合の費用

当事務所の遺言書作成の費用は以下のとおりです(税込)。

項目費用
初回相談5,500円/30分
遺言書作成(遺留分を踏まえた配分設計・公正証書遺言の原案作成)165,000円〜 ※資産規模によりお見積もり
公証役場との交渉55,000円
公証役場への同行55,000円
公正証書作成手数料実費(公証役場規定による)

なお、弁護士が遺言書作成を受ける場合の一般的な相場は、定型的な内容で11万〜22万円程度、財産が多額・内容が複雑な場合は経済的利益の額に応じて加算というのが業界の標準です。当事務所の料金もその範囲内です。

自社株の承継が絡む経営者の方は、経営者のための遺言作成のページもあわせてご覧ください。

最後に

遺言書は「想いを伝える手紙」ではありません。遺言者がいなくなった後、家族が余計な争いをせずに済むための、法的な設計図です。

手紙を書きたいなら、遺言書とは別に書いてください。それを遺言書に綴じ込まなければ、家族が法廷でその一文を読み上げられることもありません。

遺言書の作成と、遺留分を踏まえた財産配分の設計は、紛争の現場を知る弁護士にご相談ください。


札幌手稲ポプラの丘法律事務所

弁護士・薬剤師 石垣徹郎

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