退職者が、患者さん(顧客)情報や取引先情報を持ち出して、新しい職場・独立先に誘導する――。薬局では「そんなことある?」と思われがちですが、実際にはアクセス権限の甘さや紙の情報管理の弱さから起きやすい類型です。
この記事では、「差止めができるのか?」という結論だけでなく、薬局が現実的に効かせられる予防策と、起きてしまった後の初動を整理します。
1. まず結論:差止めは“ケース次第”で、準備がないと厳しい
退職者の引き抜きや顧客持ち出しは、感情としては許せないですが、法的には「何でも止められる」わけではありません。
- 競業避止(辞めた後に同業で働かない約束)は、範囲・期間・代償が適切でないと無効・制限されやすい
- ただし、秘密情報の持ち出しや利用は、状況次第で差止め・損害賠償の対象になり得る
つまり「引き抜き=全部違法」ではなく、秘密情報をどう守っていたかが勝負になります。
2. 薬局で“守るべき情報”を先に定義する
後から「それ秘密だから!」と言っても弱いです。日頃から「これは社内情報・秘密情報」と線引きしておきます。
- 患者情報(当然に最重要)
- 取引先・施設・居宅の連携先情報
- 価格条件(仕入れ条件、割引、委託条件)
- 運用ノウハウ(在宅フロー、独自マニュアル、シフト設計等)
- スタッフ情報(連絡網、給与水準、評価情報等)
3. 予防策:効くのは「誓約書+アクセス制御+運用」
(1)誓約書(守秘義務・持ち出し禁止)
入社時・在職中・退職時に、守秘義務と持ち出し禁止を明文化します。特に退職時に再確認(退職時誓約書)を取れると強いです。
(2)アクセス権限を最小化(これが一番効く)
- 電子薬歴・共有フォルダは、必要最小限の権限にする
- 共用IDをやめ、個別IDにする
- 印刷・出力のログを取れる範囲で取る
- USB等外部媒体の利用を制限する
(3)紙情報の管理(処方箋・メモ・連絡先)
紙は持ち出しが一番簡単です。鍵付き保管、持ち出し禁止、シュレッダー運用、写真撮影禁止の周知が基本です。
4. 起きてしまった後の初動(やる順番)
- 証拠保全(アクセスログ、印刷履歴、メール、メッセージ、目撃証言、スクショ)
- 権限停止(退職者のID停止、パスワード変更、共有権限の見直し)
- 事実確認(社内ヒアリング:いつ、何が、誰が、どこまで)
- 相手方への通知(秘密情報の利用停止、返還請求、警告)
- 必要なら法的措置(差止め・損害賠償を検討)
一番やってはいけないのは、証拠が固まる前に感情的に連絡してしまうことです(証拠が消える・反撃材料を与える)。
5. よくある勘違い:競業避止を入れれば勝てる?
競業避止は有効な場合もありますが、範囲や期間が広すぎると無効・制限されるリスクが高いです。現実には、競業避止よりも秘密情報の管理の方が武器になります。
まとめ:止めるより「持ち出せない仕組み」が最強
引き抜き・顧客持ち出しは、事後対応よりも予防の方が圧倒的に安いです。誓約書だけで安心せず、アクセス権限・紙管理・退職時の権限停止まで含めて「持ち出せない仕組み」を作るのが現実解です。
